1章52 『4月23日』 ⑥
舞鶴が使い物にならなくなったところで早乙女が近寄ってくる。
その手にはやはりスマホがある。
うっとりとしながら水無瀬を熱っぽく見つめる舞鶴の姿をニヤニヤしながら一頻り撮影した後に、再びこちらへスマホの背面を向けてきた。
弥堂は眼を細めてそのカメラのレンズを一度見てから口を開く。
「なにをしている」
これから早乙女に対して舞鶴にしたような聴取をするつもりなので、もっと上手い言い方があったようにも思えたが、特になにも思いつかなかったので先程と同じ言葉を繰り返した。
「お気になさらず!」
早乙女の方からも似たような言葉が返ってくる。
それならそれでいいかと、一工程省いて先へ進めることにした。
「……俺を撮影してどうする?」
「もちろんビデオレターを送ります」
「誰に送るんだ?」
「そんなの七海ちゃんに決まってるんだよ!」
前回と同じ受け答えが繰り返される。
4月20日の月曜日にした会話と同じだ。
やっぱり前回のことを覚えているのは弥堂と水無瀬だけのようで、彼女たちにとってはなかったことになっているようだ。
予想どおりだということを確認し、そしてここから先は弥堂の記憶にも記録されていない新しい話を聞かせてもらおうと早乙女へ質問を重ねる。
「何故希咲に送るんだ?」
「え?」
「休暇中の仲の良いクラスメイトに、居ない間のクラスの様子を伝えようとすることは別におかしいとは言わない。だが、その映像に俺の様子を選ぶのはどうなんだ?」
「…………」
弥堂の問いに早乙女はすぐには答えず、少し考えを巡らせるような仕草を見せた。
弥堂は眼を細めて彼女の答えを待つ。
彼女たちの記憶違いの矛盾点を指摘し続けたらどうなるのかという実験だ。
「……別に変じゃないと思うよ? 撮れ高バツグンのオモシロ映像なんだよ!」
「お前は面白いと感じるのかもしれんが、相手もそうだとは限らないだろう? 少なくとも希咲は不快に感じる側だ」
「えー? そうかなー? ののかはそんなことないと思うぞー?」
「そうか? 普段の俺とあいつの関係を考えれば、あの女は休暇中にまで俺の顔は見たくないと、そう考えるはずだ。違うか?」
「そんなことないぞー? 自信持てー?」
「どういう意味だ?」
「え? いえいえ、大した意味はないんだよ。むふふ……、ののかから言えることがあるとすれば、『七海ちゃんはツンデレ』ってことだよ。それを踏まえて普段のことを思い出してみると……? おっと。これ以上は言えねえな!」
「ちょっとののか!」
ニマニマと気持ちの悪い笑みを浮かべながら何やら思わせぶりなことを言う早乙女を日下部さんが制止した。彼女は咎めるような目を早乙女へ向ける。
「アンタ調子にのって余計なこと言わないの!」
「だーいじょうぶだよマホマホ。ちゃんとラインは守るぜー?」
「い、いやアンタ……、すでに大分ライン越えしちゃってる気がするんだけど……」
日下部さんは軽蔑したような目で早乙女の手のスマホをチラっと見る。
「お? そんなにドン引きしなくたっていいじゃんかー」
「だって、そんないかがわしいもの……」
「いかがわしい? ののか動画撮ってるだけだぞー?」
「え……? そういえばそうね。なんかいかがわしい気がしちゃった」
「マホマホのエッチー」
「うるさい! アンタの普段の言動が悪いんでしょ!」
キャイキャイと言い合う女どもを視る。
前回のビデオレター撮影をしたことは覚えていないが、ビデオレター撮影とはどういったものかという印象は残っているようだ。そしてその齟齬に気付いたとしても大して気に留めない。
「おい、早乙女」
「ん? なに弥堂くん?」
「お前にこないだプリンを食わせてやっただろ? あのプリンはどうだった?」
前回のビデオ撮影終了後に、散々ふざけたことの罰のつもりで余ったプリンを彼女の口に無理矢理突っこんでやった件だが、そのことは記憶上でどう処理されているのかを探る。
「えー? どうだったって、そんなことののかの口から言わせるなんて鬼畜なんだよ……」
「……どういうことだ」
しかし、早乙女は何故か頬を染めてモジモジと身をくねらせた。
ますます、彼女の中でどういうことになっているのかと胡乱な瞳を向ける。
「……もう、七海ちゃんがいない間の捌け口にって一回だけ許してあげたけど、本当はそんなことダメなんだよ……?」
「なんの話だ」
「なんのって……、わかってるくせにー。このスケベー!」
「……プリンの話をしてるんだよな?」
「そ、そうだよ……? 白くて、ぷるぷるの……、生プリン……。七海ちゃんには内緒にしてあげるからね……?」
「なんでだよ。たかがプリンだろうが」
「そんな――っ⁉ たかがだなんて……。あんなにいっぱい……、ののか苦しくても頑張って甘いの全部飲んであげたのに……。もうこれっきりにして! 次なんてないから……っ!」
「……おい、日下部さん。こいつは何を言ってるんだ?」
全くを以て会話が成立せず、弥堂は早乙女のことは諦めて日下部さんに振る。
しかし――
「わっ、私、わかりません……っ!」
何故か彼女には真っ赤になった顔を背けられてしまった。
「…………」
「…………」
続いて野崎さんへ視線を向けると、彼女にもスッと目を逸らされてしまう。
いつもこういった時に気を利かせて是正をしてくれる野崎さんが沈黙を守っているのは答える気がないのだろう。
弥堂はこの件についての追及を諦めた。
まだ舞鶴が残っていたが、今の彼女にはおそらく聞いても無駄だと判断した。
どうやら彼女たちは『生プリン』は『性的なもの』として認識しているようだ。
これが現在の水無瀬への認識違いの現象の一部なのかどうかは不明だが、これ以上は自身の安全のためにもこの話題は続けない方がいいだろう。
決して一般的には『性的な行為』だと認識されていなくても、こちらに『その意思』がなかったとしても、相手がセクハラだと受け取ったらそれはセクハラになってしまうのだ。
特に女がセクハラをされたと言えば、そういうことにされてしまう。
弥堂は『男性』という自身の立場の弱さと、こんな差別が罷り通る腐り切った世の中に憤るが、しかしここは冷静にならなければならない。
ここで熱くなって、『クラスメイトの女子に生プリンの感想を述べるよう強要した罪』で起訴されるわけにはいかないのだ。
それに生プリンの件はあくまで聴取の中の一つであり、決して弥堂の所有物であった白い生プリンがどうだったかを早乙女に言わせることは目的ではない。
(だが、なるほどな――)
――そうやって違和感が生じないようになるのかと納得をする。
前回の撮影時、生プリンを弥堂から与えられる『水無瀬』の様子を撮っていて、『水無瀬』が食べきれなかった生プリンを代わりに早乙女に与えた。
この件を追及して、何故弥堂から生プリンを与えられることになったのかというその理由まで辿り着かせ、そして本人に記憶と認識の矛盾を自覚させてみようと試みた。
しかし、矛盾に気付いた時に『ナニカ』が強制的に作用して彼女たちの認識を違うものに変えるのではなく、そもそもその矛盾に辿り着かないように上手く認識違いを起こしているようだ。
生プリンは性的でいかがわしいものだから、人前で迂闊に口にすることは憚れる。だからそれについて話し合うことなどないし、余程のスキものでもなければ繰り返し思い起こすこともない。だから認識違いを起こしていることに気付かない。
それに――
「わかった。生プリンのことはもういい。しかし、さっきの話もそうだが、何故この件まで希咲に結び付けられるんだ?」
「えー? それもののかに言わせるのー? 弥堂くんサイテーすぎーっ」
「俺が最低だったとしたら、その最低な男の生プリンを食ったお前も最低なんじゃないのか」
「おぉ? 確かに! じゃあ七海ちゃんに内緒にしてな? ののかも内緒にしてあげるから!」
「それならさっきから聞いている、その『何故希咲に』内緒にしないといけないのかを教えろ。納得したら内緒にしてやる」
「あれ? ののかがしてもらう側なの?」
「いや、アンタ大分やっちゃってるからね?」
「マジで⁉」
「おい、いいからさっさと答えろ」
日下部さんの指摘に驚き今更焦り出す早乙女を急かすと、彼女は気まずげな顔で笑った。
「えーと、そこまでは流石にののかもやらかせないかなぁ……って」
「何故だ」
聞き返しながら日下部さんへ眼を向ける。
「う、う~ん……、ののかのせいで気になっちゃってると思うけどこればっかりは……。ていうか、本当にわからない?」
「さっぱりわからないな」
答えながら今度は野崎さんを見る。
「…………」
「…………」
無言でニコッと微笑まれた。どうやら今度も答えられないようだ。
だが、それならそれでいいと弥堂も話を打ち切る。
彼女らが何を隠しているのかはわかっている。
『希咲 七海が弥堂 優輝に好意を寄せている』ということだ。
それは二重の意味で誤解なのだが。
そもそも元は『水無瀬 愛苗が弥堂 優輝に好意を寄せている』という誤解があった。
これは水無瀬がやたらと弥堂に構いたがることで生まれた誤解であり、一年生の頃から一部の者たちがそういう風に見ていることを弥堂も把握していた。
それが最近の人々が水無瀬のことを正確に認識しなくなるという現象が起こったせいで、『水無瀬と弥堂』との間で起こった出来事が、その時近くに居ることの多かったせいか『希咲と弥堂』との間で起こった出来事だという風に認知がずれて記憶違いを起こしている。
疑問や矛盾を起こさないように自然とそのように認識がずれるようだ。
そしてそれ以外の希咲と弥堂の日常の風景を見ても疑問が生じないようになる。
(だが、きっとそれだけではない……)
弥堂はここで限りなく自我を薄め、己というモノをこの世に存在しないものとし、物事を最大限に客観的に見られるようにマインドセットする。
普段の弥堂と希咲といえば、一切の配慮も手加減もなく罵り合っている。
しかし、それは見る者によれば遠慮のない気心の知れたやりとりと受け取ることもあるかもしれない。
それに弥堂が希咲にムキになって言い返すようになったのは彼女が旅行に出かける直前のことで、それまでは希咲に好き放題に言わせて半ば無視をするような形だった。
これに関しては、先程早乙女が言っていた『ツンデレ』で処理が出来ても特段不自然ではないと、弥堂は極限まで消した自我でギリギリどうにか認める。
現代の高校生の生態についての教材として廻夜部長から渡された小説類には、わりと頻繁にその『ツンデレキャラ』とやらが登場していて、希咲の振る舞いや言動と似ていると思えなくもない人物たちが存在していた。
故に、周囲の彼女たちが一度そのように認識してしまえば、その後もそう思い続けるのはそこまで不自然なことではないと、そのように弥堂は判断した。
元々の該当人物が希咲ではなく水無瀬なのだと思い出しでもしない限り、この思い違いに気付くことはないだろうし、それに気付かせない為に自然とこのように記憶違いをするように恐らくなっているのだろう。
そして、それは生プリンに関してもそうで、水無瀬に関わる出来事であると思い出せなくなるために、生プリンは性的なものであると認識違いを起こしているのだ。
そう理解をして弥堂は自我を戻し、そしてその瞬間にハッとなる。
(いや、んなわけねえだろうが)
生プリンは菓子だ。性的なものであるはずがない。
いくらなんでもそんな強引な記憶違いがあるかと、心中で自分を叱咤する。
(だが、待てよ――)
十分に自覚をしているが、自身は現代日本の常識について疎いところが多少ある。
もしかしたら自分が知らないだけで、昨今の女子高生たちの間では『生プリンは性的なものである』という常識があるのかもしれない。
現に先週、希咲と色々とモメた際にも『あれはダメ、これもダメ、全部ありえない』といった具合に何でもかんでもセクハラだと喚かれた。
あの煩いメンヘラクソ女が大袈裟に騒ぎ立てているだけだと相手にしなかったが、もしかしたらその内の何%かは現代日本の基準に照らし合わせればセクハラに該当してしまうのかもしれない。
「おい、水無瀬」
ここは一度、自分と同じく記憶違いを起こしていない側の人間にも確認してみるかと、腕の中の水無瀬に声をかける。
「え……? なぁに? 弥堂くん」
熱視線を向けてくる舞鶴を困ったようにチラチラ見ていた水無瀬さんがお返事をする。
「ちょっと聞きたいんだが、昨今の女子高生たちは生プリンを性的な物品であると認識しているのか?」
「へ?」
誰も予測することのできない質問を投げかけられ、水無瀬は目を丸くする。
「えっと……、プリンはプリンだと思うよ……?」
「軽く考えるな。プリンはプリンでも、生だぞ? それでも本当にプリンだと言えるのか?」
「で、でも……、プリンはプリンだし……」
「それは真実か? 神に誓えると、はっきりとそう言えるのだな?」
「だ、だって……、生でもプリンだし……」
戸惑う水無瀬へ弥堂は圧を強める。
「落ち着いてよく思い出せ。つい数日前のことだ」
「う、うん……」
「俺がお前の口に突っ込んだ、あの白くてプルプルの生プリン――あれをどう思う?」
「えっと……、すっごく……、おいしかった……?」
「本当にそれだけか? お前はあの時、そして今思い出したとしても、一切の性的な興奮を覚えることはないか?」
「せーてき……?」
「いや、いい。忘れてくれ……」
コテンと首を傾げる水無瀬をさらに責め立てようとしたが、こうしている間も早乙女のカメラはこちらを向いたままでいることを思い出し、弥堂は納得することにした。
とりあえず生プリンのことは一旦なかったこととし、機会があれば後で希咲にも確かめてみることにして、再び早乙女へ顔を向ける。
「お前またこの映像を編集して希咲に送るつもりか?」
「へ? うん、もちろんなんだよ! まかせてっ!」
「頼んでねえよ」
何故かサムズアップしながらバチコンとウィンクをして頼りがいをアピールしてくる彼女へ一瞬胡乱な瞳になりかけるが、気を取り直して先を続ける。
「だが、つい2日前に似たような動画を送ったばかりだろう? あれで怒られたばかりなのにまたやるのか?」
「え? なんのこと?」
「なんのこともない。お前は4月20日の朝にも俺の様子を動画で撮影してそれを編集し、そして完成したものを4月21日の3限目後の休み時間に希咲へ送信。そしてすぐに電話で怒鳴られただろう? 忘れたのか?」
「へ……? あれ? そんなことあったっけ……?」
嘘をついて惚けているようには見えない。
本当に忘れている――正確にはその記憶に辿り着けなくなっているのだろう。
決定的かつ直接的に記憶の矛盾を指摘した場合にどうなるのか。
弥堂はその実験を続ける。
「日下部さん。キミは覚えていないか? 馬鹿みたいな希咲の大声で耳をやられて悶絶する早乙女の代わりにキミが電話に出て、そして俺にその電話を渡してくれたんだが」
「えぇっと……? 記憶にないけど……、ついこないだのことだよね?」
「マホマホ覚えてる?」
「いや、う~ん……、記憶にないなぁ……。でも二日前のことならそんなわけないけど……」
「はい! ののかは弥堂くんの勘違いだと思います!」
「野崎さん、キミはどうだ?」
挙手をして弥堂の勘違いを主張する早乙女を無視して野崎さんへ水を向ける。
「日下部さんから早乙女のスマホを受け取ったはいいものの、クソやかましい希咲にキャンキャン喚かれて困り果てた俺はキミに取りなしてくれないかと頼んだんだ」
「……ごめんなさい。私もちょっと覚えがないなぁ」
「そうか? キミはその時希咲とも会話をしているが、何を話したかなど少しも記憶にないか?」
「え……? 確かに旅行中に希咲さんから『弥堂君のこと気にしてあげて』って軽くお願いされたけど、その時じゃなかったような……」
「そうか」
「ごめんね? 私ここのところ寝不足が続いてたから、ちゃんと日々のこと覚えてないかもしれない。反省します」
「いや、いい。俺の記憶違いかもしれない」
彼女がこうまで言うのなら本当にそう思っているのだろう。
新たな情報も得たことだし追及はここまでで打ち切る。
彼女たちが希咲から頼まれていた『旅行中の水無瀬の世話』は『弥堂の世話』に置き換わっているようだ。
それなら最初に抱いた、彼女たちが何故気軽に弥堂の近くに寄ってくるのかという疑問も解消される。
「ところでキミたち。今、俺の膝に乗っているこいつ。こいつが誰だか――」
「――び、びとうくんっ!」
もっと直接的に『こいつは誰だ?』と聞いてみようとしたが、最後まで言い切る前に本人に止められる。
水無瀬はジッと弥堂を見上げてきて、そしてすぐにふにゃっと情けなく眉を下げた。
「――ぅぎゅぅっ」
その水無瀬へ言葉は返さず、彼女の頭に手を遣ってそのまま胸に押し付ける。
『悪かったな』という意味をこめてポンポンと頭を軽く叩いてやる。
ものの試し程度での思いつきだったので、『こいつは誰だ』と聞くのはやめることにした。
彼女らの様子では、少し言葉で質問をした程度で解けるような、そんな緩い認識違いではなさそうだと判断をする。
だが、物的証拠があれば話は変わるかもしれない。
弥堂はさらに踏み込む。
「早乙女」
「うん? なに?」
「お前ちょっと自分のスマホの動画データ見てみろ」
「え?」
早乙女が今もこちらへ向けているスマホを指差す。
「なに。俺が今言ったこと。そのスマホの中身を覗いてみればすぐにわかるだろ?」
「うん……? あっ、それもそうか! ちょっと待ってね」
早乙女は撮影を中断しスマホを操作し始める。
その素直な仕草に、隠しているわけでも誤魔化しているわけでもなく、本当に忘れているのだなと薄ら寒さを覚えた。
(さぁ、どうなるか……)
実際に自分が撮った覚えのない、送った覚えのない動画をその目で見た時に、どういった反応をするのか。
弥堂はそこに関心があった。
現在の水無瀬のことについて。
希咲から頼まれたものの、日常を遥かに飛び越えた不可思議な現象にまでは関わる義理はないと。
関わったところで、自分の手に負えるものではないと。
だから関わる意味がないと。
一度はそう判断した弥堂が何故今になってまたこの件に踏み込むのか。
現在の弥堂の行動は水無瀬の問題についてその原因を探っているわけではない。
そして、それを解決しようとして情報を集めているわけでもない。
では何故か――
(――おそらく、そう遠くない内に俺もこうなる……)
だから、既にそうなってしまっている人間の反応に興味があった。
水無瀬の現状について、何故こうなっているのか、どうすれば解決するのか。
それについてはっきりとしたことはわからない。
だが、水無瀬以外の人々が何故こうなっているのか。
そして、何故自分はそうなっていないのか。
それについては確信とまでは言えないものの、ある程度の仮説を持っていた。
だから、自分もそうなると。
確信に近いそんな予感・予想・予測があった。
人間の記憶など曖昧だ。
記憶は消えない。
死なない限りその『魂の設計図』に全て記録され残り続ける。
忘れないというのは、それを自分の意思で思い出し続けることが出来ることだ。
覚えているというのは意識に残し続けるということ。
思い出すとは記憶にある該当の記録を正確に見つけ出せるということ。
だが人間のその能力は酷く不安定で曖昧だ。
自分のように年表を見るようにして時系列順にそれを読むかの如く正確に記憶から引っ張りだせるわけではない。
認識や認知に大きくその性能が依存する。
しかし、実際にその記録を肉眼で目視してしまえば話は別だ。
その決定的で明確で物理的に実在する矛盾を目にした時に、突然自身の異常を突き付けられた時に、一体どんな反応をし、認知がどのように変わるのか、或いはどのように変わらないのか。
その答えを弥堂はただ待――
「――う~ん……、やっぱりないなぁ」
「なんだと?」
待っていた答えは全く予想したものではなかった。
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