18 シャーンの婚約
手をあげた者たちの一番の関心事は、北中央魔導士学校への報復をするのか、しないのか、という事だった。
「我が王家の森魔導士学校が馬鹿にされたんだぞ? 報復して
それに対し、サウズが
「校長が先方と手打ちし、南ギルドもそれを承認した。我ら学生は動くべきではない」
と反論する。
「ホヴァセンシルの
「ビルセゼルトの顔に泥を塗る気か? 我らが動けば報復とすぐ判る」
「だからってやられっ放しでいいのかよ? それこそ、王家の森魔導士学校の連中は腰抜けだって言われる」
そんな中、カトリスが立ち上がった。
「僕たちが結集しているのは何のためだ?
報復派が息を飲む。
「たかが一人の魔女の悪戯に目の色を変える事もない。学校のメンツを口にする者もいるが、ここはゆったり構えて
カトリスの演説に場が静まり返る。さらにシャーンが発言する。
「わたしたちを信頼してダガンネジブ様は事の詳細を伝える事にしたのよ。その私たちが騒ぎを起こせば、どこから情報が漏れたか追及される。何のためにダガンネジブ様がこの情報を私たちに知らせる事にしたのか、考えなくちゃダメよね」
するとどこかで『一年の癖に』と声がした。
「今、一年の癖に、と言ったのは誰だ?」
サッと立ち上がり、怒鳴ったのはアランだった。いつもにこやかでムードメーカーのアランが怒鳴るのは珍しい。
「立って名乗れよ。自分の発言に責任を持て。名乗れないならここから出て行け、除名だ」
「アラン、座れ」
「あー、まぁ、我らがおしゃべりオウムの会は、年齢性別、成績や、魔導士としての資質、そんなものは関係なく、
と、取り成したのはカーラだ。
が、アランの過激な発言に、場は治まりが付かない。『除名ってなんだよ』という声がチラホラと聞こえてくる。
アランを
「入会するとき我らは誓約しているはずだ。それを思い出してもらおう。規約に違反した者は除名されても異を唱えない。そして除名後も当会の秘密を洩らさないと、神秘契約している。一年の癖に、という発言は規約違反に当たる。が、アランとて即除名とは言っていない。まず発言者は自分の発言に責任を持てと言っている。もてないなら除名、理屈は通っている」
「確かにカーラの言う通りかもしれないけれど」
と言ったのは赤金寮の三年次生だった。
「アランが怒ったのは、攻撃されたのがシャーンだったからじゃないの? 個人的な感情を持ち込むのは規約違反じゃなかった?」
慌ててカーラが規約書を宙から取り出して確認する。
「うーーん……個人的感情
「アランの個人的感情って?」
と聞いたのは白金寮の二年次生だった。それに答えたのは言い出した赤金寮の三年次生だ。
「アランはシャーンが好きなのよ。噂だけどね」
「おい、ただの噂を本当のように吹聴されるのは迷惑だ」
これはグリンの発言だった。グリンとシャーンが兄妹だと、ここでは誰もが知っている。
「個人的なことなので、ここで言うべきではないのは判っている。だが、聞き捨てならない。シャーンはデリスとの婚約が整った。他の男と何かあるような事を言うのは遠慮してもらおう」
またもどよめきが起きる。それぞれが驚いてアラン、シャーン、デリスを見た。
デリスが頬を染め、シャーンは、グリンのおしゃべり、と苦情を口にし、アランは、関係ない僕を何で見る? とぼやく。
次には祝福ややっかみ、冷やかしの声に溢れ、別の意味で部屋が喧騒に包まれた。
「やあ、なんか驚いた。いったいいつの間にって感じだけど、とにかくおめでとう ―― じゃなかった、みんな、祝福も冷やかしもあとにして、議題をもとに戻そう」
カーラが声を張り上げた。そしてアランに
「除名発言について、何か言った方がよくないか?」
と、心配そうに言う。
アランが立ち上がる。
「一年生の癖にと言ったヤツはどうやら名乗る気がないようだ。誰だか判らないものを除名するのは無理だろう。今回は除名審議を見送る。が、メンバーは平等に発言権がある事をここにいる全員、僕も含めて、忘れる事なきよう願いたい。名乗らなかった誰かが自分の発言を恥じて名乗れなかったのだと僕は信じたい。そして、除名を決める権限は僕にあるわけではなく、メンバーの総意によるものだという事を確認するとともに、僕の発言が行き過ぎたものだった事を謝罪する」
「で、本来の議題に戻る ―― 北への報復の是非についてだった。デリス、続けて」
アランが発言を終え、着席すると間髪入れずカーラが引き継いだ。これ以上、誰にも文句を言わせない、そんな感じだった。
デリスが立ち上がり、
「北への報復をどうしてもしたいという者はいるか?」
と尋ねる。騒ぎになる前の流れから、いないと見越しているのが判る。実際、カトリスの演説、それに続くシャーンの発言で報復派は
「それじゃあ、悪戯事件も終わりでいいね?」
デリスの発言に否と言う声はなかった。
年次報告は終了とデリスが着席し、カーラが次の議題を告げる。
「あと三ヶ月で卒業年次生は母校を去る。主催アラネルトレーネもその一人だ。アランは聴講生として学内に留まるものの、扱いは学生とは異なり教職員と同等となる。よって主宰の任を辞したいと申し出があった。これを踏まえて、新年度の当会の方針を決めていきたい」
立ちあがったのはエンディーだ。
「我らが指導者ダガンネジブ様のお考えを伝えます ―― 当会の新年度の方針は今まで通り対外的には、楽しく
つまり学生でなければならないという制約はない。卒業年次生は卒業後も正式メンバーとして名を連ねるが、アラネルトレーネ以外は南ギルドに職を得ている。これは、ギルドの動きをいち早く察知できる利点とともに、ギルドに反しての動きがし辛くなるという事である。
「はい、ここまでいいかな?」
「今のエンディーの説明だと、反南ギルドみたいに聞こえるけど?」
「はい、説明が下手だったね、ごめん。南ギルドの方針がAだったとする。ギルドと同じ目的を達成するため、我々はAではなくBを採用したい、となった時、迷わずBを選択する ―― 反すると言った部分を違ってと訂正します。ほかには? なければ進めるよ」
妖幻の魔導士ダガンネジブ様が九日間戦争より十八年の歳月を、最高位魔導士の一人として、
そもそも、九日間戦争は災厄の前兆、あるいは始まりであり、この戦争で我ら魔導士が分割された事こそ災厄の一つであると考える。
災厄が本格化すると見込まれる四年後 ―― 正確には三年半後と推測される ―― には、ビルセゼルト及び北ギルド長ホヴァセンシルは、ギルドの再統一を考えているのではないか、というのがダガンネジブ様の考えだ。
だが、現状、南北の対立は解消されず、特に西の統括魔女ドウカルネスの南への敵対心は強く、配下による
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