いよいよイベントの時
「いよいよ明日……か」
「ですね……う~ん、すっごく緊張しますよ~!」
本日は丸一日、カナタはハイシンとして過ごすに至った。
彼がハイシンとして過ごすことに抵抗はないし慣れはもちろんあるものの、流石にほぼ一日というのは今までになかったので、今のカナタが感じている疲労は相当なものである。
「……あ~」
「お疲れ……ですね?」
「まあな……って、なんで当たり前のように居るのかは聞かないでおくわ」
「それはカナタ様の護衛ですし!」
「……そか」
「はい!」
小さな体の前で握り拳を作るミラにカナタは苦笑し、窓から離れて椅子へと腰を下ろした。
(……ほんと、ま~じで疲れたぜ)
傍にローザリンデが居たとはいえ、何度も言うが本当に疲れたなとカナタは思い返す。
あんな風に現場監督のようなことをしたのはもちろん初めてだし、このような大規模なイベントというのも初めてで、とにかく色々なことを確かめながら気を張っていた。
今回のイベントに際し多くの人が訪れることが分かっているので、来てくれた人たちが心から楽しめるように……そしてイベントが終わって故郷へと帰った時、また会ったら来たいと思ってくれるようなイベントにしたいと思ったから。
そう思うと力は入るし、何よりいつも以上に頑張ってしまう。
「カナタぁ、失礼する……ってあらあらお疲れねぇ」
「おぉアニス……お疲れですよカナタ君は」
「……本当に疲れてるわねぇ」
カナタのアニスは苦笑し、それならとベッドを指差す。
「疲れが溜まってるならマッサージとかしてあげるけど、どうする?」
「マッサージかぁ……そうだなぁお願いしても良いか?」
「もっちろん♪」
アニスに促されうつ伏せの状態で横になると、アニスが腰の辺りに跨った。
女の子に跨られるのはドキドキするものの、やはり今のカナタはそれ以上に疲れている……流石のアニスもここまでになったカナタを見るのは初めてだったので、本当にお疲れ様という意味を込めて優しく背中を撫でるのだった。
「それじゃあマッサージするけど、痛かったら言ってちょうだい」
「うっす」
ぐで~っと体の力を抜き、背中に掛かる力にカナタは身を任せる。
流石に専門店とかその手のプロが行うマッサージと比べることは出来なないが、女の子からのマッサージであることも手伝ってか素晴らしく気持ちが良い。
「おうふ」
体の弱い部分を抑えられた時、ついつい情けない声が漏れる。
その声にアニスがむふふっと怪しげな笑みを零したり、ミラが顔を赤くしてジッと見たりしているがカナタは全く気にしない……気にする余裕がない。
「カナタはすっごく頑張ったわぁ。だから明日に備えて、今日はあたしが気持ち良くしてあげる」
「おう……ありがとアニス」
「あなたのためだもの――帝国に来てくれてありがとうカナタ」
ニコッと微笑み、アニスはそのまま全体重を掛けるようにカナタへと体を押し付けた。
アニスが持つありとあらゆる体の一部が触れているというのに、当のカナタは柔らかないなぁと満面の笑み……完全に夢の世界へ飛び立つ一歩手前のようだ」
「カナタ様、そんなに気持ち良いんですか?」
「おうよ……めっちゃ最高だわ」
ベッドの傍で屈むミラは、カナタの顔の近くに顎を付ける。
これまた凄まじい至近距離だがやはりカナタは気にせず、アニスから齎される感触にうっとりしている。
傍から見ればあまりにもいかがわしい光景だが、そういう状況に発展しそうにないのも確かである。
「帝国……色々あったし、まだ知らないこともあるけど……王国と一緒で住みやすい場所かもなぁ」
「あら、ならこっちに永住もありじゃない? ローザ様ならすぐ住居も用意すると思うけど」
「そいつは嬉しい限りだけど、俺の居場所は王国さ」
そのハッキリとした声音に、でしょうねとアニスは頷く。
カナタにとって王国は故郷であり、運命の出会いとも言える出来事が多かった場所……それだけ王国はカナタにとって特別な場所だ。
「あ、そうそう。実家の方から連絡があってね? 部屋の中からフェスの喜びに満ちた声がずっと聞こえるって」
「へぇ……」
「ハイシン様のおかげでねって伝えたら、パパとママもそれなら仕方ないなって納得してたわぁ。カナタはうちの両親にも公認ねぇ!」
「それは……公認とかそういう話なのです??」
ミラはよく分かりませんと首を傾げるのだった。
さて、ボイスを渡したフェスのことはともかく……今回、カナタが介入した鮮血の祝福事件も一旦の解決は見せた。
生配信が始まった瞬間に首謀者は国外逃亡を図ろうとしたものの、悪鬼羅刹のような勢いで飛び込んできたローザリンデに捕らえられ……おそらく死んではいないはずだ。
その詳細をカナタは怖くて聞けなかったので、結局どうなったのかは闇の中……教えてはくれるだろうけど聞くことはなさそうだ。
「明日は頑張りましょうカナタ、ミラも」
「おう……!」
「はい! しっかりとお守りします!」
さあ、こうして夜は更けていき……いよいよイベントの日が訪れる。
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