カナタ君、苦労するの巻

「俺ってオーラがないらしい」

「そ、そんなことないですよ!」

「世を忍ぶ仮の姿みたいな感じで良いじゃないのぉ。全然バレる気配がないのならそれだけある程度の無茶も通るってことだし」


 確かにそうだなとカナタは頷いた。

 帝国に着いて早々の貴族による軽い取り調べがあったものの、カナタから漂うオーラが皆無だったため事なきを得た。

 まあここまであまりにも悟られないのはイスラの魔法が働いている証でもあるのだが……よくよく考えるとそれなのにカナタの元に集った彼女たちが彼の正体を見破れたというのも中々どうして考えさせられることだ。


「それよりもカナタ」

「うん?」

「そろそろいい加減に城の方へ向かいましょう」

「おっとそうだな」


 ずっとローザリンデが居るであろう城の方へ向かってはいたのだが、やはりカナタにとって初めての場所ということで旅行気分は中々抜けない。

 カナタが初めてこのグロリアスにやってくるというのはローザリンデも把握していることなので、きっと貧乏ゆすりをしながら気長に待ってくれているだろう。


「大丈夫ですよカナタ様! 私とアニス様が居るんですから何も心配はないです。これは別にカナタ様がおっしゃるフラグを建てるということではなく、本当に大丈夫なのでご安心を!」

「……ははっ、そうだな」


 あまりにも頼りになりすぎる二人の存在……ただ、こういう時でもカナタはこの場にマリアやアルファナも居たらなと想像してしまう。

 まあそうなると女神の加護すら貫通するほどの事態になるだろうし、やっぱり無理かとカナタは苦笑し歩き続けるのだった。


▽▼


「よく来たな」


 重々しくも凛々しい声が響き渡る。

 あれからすぐにカナタはミラたちに連れられる形で城へと向かい、すぐにこうしてローザリンデの前へ通された。

 彼女の傍には大臣などのお偉い人間たちが控えており、カナタからすれば下手な行動さえ出来ない状態だ。


(ま、大人しくする他ねえけど)


 あくまで平凡な一般人A……それが今のカナタであり、良く見られればアニスに気に入られた存在と言ったところか。


「お久しぶりですローザ様ぁ。ただ……無礼を承知で発言させていただくのですが、旅の疲れを少しでも癒したく思うのですが――」

「うむ、そうだな確かにそれは大事なことだすぐに部屋に連れて行こう」


 アニスの言葉にスッとローザは立ち上がった。


「しばらく空ける」

「分かりました……しかし、部屋に連れて行くくらいであれば我々で――」

「良い。アニスは余にとって親しい相手でもある故な」


 だから何も気にするな、自分のやることに疑問を持つなと言わんばかりにローザリンデは威圧する。

 それは離れた場所に居るカナタですら身震いをするものであり、なるほどこれが武神かとカナタは思う。


「それではアニス。そして他の者も付いてくるがいい」


 それから流れるがままに使う予定の部屋へと向かった。


「……おぉ」


 カナタがローザリンデに連れられた一室はそれはもう豪華の一言だ。

 ただ少しばかり物々しい置物……たとえば模造品の武器なんかが置かれているのは果たしてどんな意味があるのか。

 取り敢えず気になることは多いところだが、ローザリンデはクスッと微笑む。


「またお前に会えるのを楽しみにしていたぞカナタ」

「そう言うけど通話はかなりしてたけどな。また会えて嬉しいよローザ」

「っ……やはり悪くない気分だな。面と向かって名を呼ばれるのは」


 顔を赤くしたローザリンデは楽しそうだが、カナタとしてはやはり武神と知られる彼女のこのような姿は中々のギャップを感じさせる。


(……なんつうか、どえらい美人なんだけど可愛いもんだぜ)


 ローザリンデとの歳はそこそこ離れているものの、やはりそれくらいの感情はカナタにも抱かせる。

 とはいえそんな風に考えたのはカナタだけでなく、アニスもそうだがずっと影のように黙って見守っているミラも同じらしい。


「こほん! さて、早速だが色々と話をしたい。後しばらくすれば公国の方もやってくるだろうからな」


 どうやらアテナとシドーはもうすぐ到着するらしい。

 アテナが大貴族なのもあってあちらの警備は凄まじいようだが、今回のイベントにとってもっとも大事なハイシンは既に帝国入りしているなど知られたら大きな騒ぎになるかもしれない。


「まあそれも面白そうだろう。アニスもそうだがカラスも傍に居る……変に警備を敷くよりも遥かに安全というものだ」

「その点に関しては助かったけどな。騒がしいのは嫌いじゃないけど、流石に初めて来た土地だと最初の内はのんびりしたいからな」


 とはいえ騒がしくなかったおかげでここまで来る間にある程度のんびり出来たのはありがたいことだった。

 だが、これからすぐにイベントに関する打ち合わせが行われることになる。

 つまり……こういうことだ!


「……………」


 ハイシンの代名詞と言われるマスク姿にカナタはなっていた。

 なんで打ち合わせでこんな姿にならんといかんのだ……そう思いはしても、他に人が居る以上はハイシンとしての姿になり切らなければならない。


「素晴らしい……ハイシン!」

「やっぱりかっこいいです!」

「……キュンねぇ♪」


 さあカナタ、精々頑張れ。

 これから数日間、君はハイシンとして全く気を抜くことは出来ないぞ。

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