包み隠さず言うから聞けよ

 異世界における配信活動、それはカナタが前世で見ていたものとそこまでの変化はない。

 この世界にはビデオゲームなどと言ったものは存在しないため、必然的に雑談が多くなるのだが……彼の雑談はお悩み相談のようなものも受け付けている。


「それじゃあ早速お便り見ていくぜぇ。えっと何々」


 お悩み相談とは言ったが、有名になったハイシンにみんなが聞く中で読んでほしい自慢話なんかも良く届く。

 どうやら雑に選んだ最初のお便りはその自慢の類だったのだ。


“よぉハイシン、俺の武勇伝を聞いてくれ。

 俺はBランクパーティの冒険者として活動してるもんだ。

 まだ二十歳にならないながらもそれなりに力を付けることが出来てリーダーも務めてんだ。

 先日そんなうちのパーティに何とも使えねえゴミが入って来たんだ。

 索敵や武器の手入れに補助魔法くらいしか出来ねえゴミだ。

 んで今日の朝にお前みたいなゴミは要らねえからパーティから抜けろって言ってやったら泣いて縋りついてきて何とも痛快だったぜ”


 それはカナタが前世でよく読んだことのある創作物を彷彿とさせる内容で、まるでこれからこいつはざまぁされる運命にあると言わんばかりの文章だった。

 送り主の名前はアクタというらしいが、カナタはため息を吐いてこう答えた。


「お前馬鹿じゃねえのか? 索敵や武器の手入れ、補助魔法が使えるってかなり有能だろうが。何自分がそいつより優れたみたいな言い方してんだよタコ」


 配信においてカナタの話を聞いてくれる相手はお客様だ。

 しかしカナタはそんなこと一切気にはしていない。彼はただ、自分が言いたいことは素直に言う。

 そんなところが反感を買うこともあれば、逆に清々しくどんな内容でも客観的な意見を言ってくれるとして人気なのだ。


「冒険者っつうことは色んなダンジョンに行くだろ? なら魔獣に見つかるより先に見つけてくれる索敵は助けになるだろ。それに武器の手入れもそいつがやってくれるのなら店に頼むより金が浮くだろ? 当然、それ相応の対価は仲間として払ってやらないとだがな」


 まだまだカナタには言いたいことがある。

 画面には多くのコメントが流れており、そんなゴミを気にする必要はあるのかという意見も確かに見られたが、大体は酷いなどと言った普通の意見も多かった。


「それに補助魔法ってのも馬鹿にならねえ。なあお前、そいつが居ることで何か楽になったことはねえか? いつもより力が出るとか、戦いやすいとか小さなことでも何でもいいよく思い返してみろ。それで何か心当たりがあるならそれはお前がその補助魔法の恩恵を受けている結果だ」


 そこまで言い切り、カナタは手元に置いてあった飲み物を飲んだ。

 画面の端には今この配信を見ている人の数が出ているのだが、接続人数は一万人を超えておりかなり盛況だ。


「ま、お前がどう思うかは知らんがな。お前のそれは武勇伝なんかじゃなくてただ弱い者をイジメてイキってるだけだ。パーティのリーダーならちゃんと見てやってその上で適正な評価を下してやれ。じゃないとお前、後になってあの時あいつが居てくれればって思って死ぬぞ」


 まあとある知識の受け売りだがなとカナタは笑った。

 まるで異世界におけるテンプレを久しぶりに聞いたので色々と言ったが、ちゃんと伝わったかどうかはカナタには分からない。

 それでも噛ませキャラのような奴でもリスナーの一人、ならば長生きしてほしいと思うのもおかしな話ではない。


「次のお便り行くど~」


 次のお便りにカナタは目を通したが、これまたクセのある内容だった。


“初めましてハイシン、私はとある上級貴族の子息だ。

 私には将来一緒になることが決まっている婚約者が居る。

 しかし、その婚約者はとにかく不愛想なのだ。私が何を言っても下を向くだけで満足に言葉すら返してくれない。

 彼女と上手くやっていけるか分からなくなっていたのだが、最近我が学園に愛らしい少女がやってきた。

 私は彼女の可憐な笑みに心を奪われてしまったのだよ。

 不愛想な婚約者よりもそちらを選ぶべきだとハイシンも思うだろう? 意見を聞かせてほしい”


「……は~」


 カナタは大きなため息を吐いた。

 さっきのお便りとベクトルは違うが、これもまたテンプレざまぁ街道まっしぐらの内容だった。


「取り合えずお前、いっぺん死んだ方が良いぞ」


 あまりにもストレートな物言いだった。

 カナタは平民であり婚約者と呼ばれる存在は当然居ない。

 なので将来一緒になれる女の子が居るだけでも儲けものだろうがクソったれという気持ちを込めた言葉だ。


「良いかお前、よ~く考えてみろよ。家の事情で決まった婚約者をお前の一存でどうにか出来る問題じゃねえだろ。真実の愛だとか、私たちは愛し合っているんだとか、想いを訴えれば家を納得させられるなんて甘いことは考えてねえよな? うん?」


 彼女いない歴前世と今世を合わせての年齢を貫き通しているカナタのありがたいお言葉である。

 相手は上級貴族、んなことは知ったもんかとまだまだカナタの勢いは止まらない。


「つうかその愛らしい少女っての外面だけ見て惹かれてねえか? もしかしたら中身がドギツイ性格だったり、裏で色んな男に手を出す尻軽かもしれんぞ? 恋に盲目になり過ぎるな、良く相手を見てから判断を下せ。それとちゃんと婚約者ともっと話をしろ、下向いて会話を返してくれないのって照れてる可能性もあんだろうが」


 コメントもかなり盛り上がっており、男に対する批判がかなり多かった。

 何割かは恋人が居なかったり、結婚出来ずに寂しい人生を送っていそうなのも居そうだ。

 その内の一人であるカナタだからこそ、彼も分かる分かると頷いていた。


「もしも婚約者が居る連中でこいつと似たようなことを考えてる奴はよく聞け。婚約ってのは家同士の大切な繋がりの為にするもんだ。相手が救いようのない真の屑の場合は別れたい気持ちも分かるが、そうでないならもっと婚約者のこと知る努力をしてみろ。胸に手を当てて考えてみ? お前ら、あまり自分の婚約者のことを知らなかったりするんじゃないか?」


 同意のコメントがちらほら見えたが、逆にそれはそれなりの数婚約者を持った連中がカナタの配信を見ていることになる。

 リア充爆発しろ、この世界で決して伝わらないことをつい叫びそうになりカナタは深呼吸をした。


「それでもその相手を手放すってんなら俺に紹介しろ。俺だって彼女が欲しいんだよ馬鹿野郎が」


 最後にそう言ってカナタはこの話題を終わらせた。

 そう、カナタだってモテたいし彼女の一人くらいほしいのだ。

 だが現実は上手く行かず、無限の魔力を持ったところで表に出せるものではない。

 ランクがSだとしても今のカナタの現状がランクとモテる要素は一切繋がらないことを意味している。


「結構喋ったな……あん?」


 っと、そこでカナタはとあるコメントを見つけた。

 それは色付きのコメントであり、文章と共にカナタの作った口座にお金が振り込まれたことを意味している。

 前世で言う投げ銭なのだが、それもこちらの世界でカナタは実現することが出来たのだ。


名無しの王女・ハイシン様、今日もあなた様の声を聴けて幸せですわ。これは私から日頃のお礼を込めたものです。是非とも受け取ってくださいませ


 そんな文章と共に十金貨が送られていた。

 この世界の金貨一枚が前世でいう一万円、つまりこの瞬間に十万円が動いたことになる。


「王女さんありがとな♪ でもアンタ昨日もくれたじゃねえか……なあ、親の金とかパクったりしてない? 大丈夫か?」


 日頃のお礼とは言ったが、この名無しの王女はいつもカナタにお金を送る信者のだ。

 考えるだけでも寒気がするほどのお金を送られているが、カナタとしてはお金があるに越したことはなく受け取ることに戸惑いはない。


・大丈夫ですわ。全て私のポケットマネーでございます……ところでハイシン様、私があなた様の恋人に立候補してもよろしいですわ。いいえむしろさせてください!


「ありがとな王女さん、まあ機会があったら頼むわ」


 カナタは軽く流した。

 名前に王女と付いており話し方も女だがカナタは知っている。

 世の中には男なのに女だと偽る存在、通称ネカマが居るということを。


 この世界において唯一配信を行える人間としてカナタが目を付けられていることは知っている。

 なのでどんなことがあっても誰とも会うつもりはないし、絶対に顔を出す気もないのだ。


「んじゃあ今日はこの辺で終わるかぁ。それじゃあみんな、また明日なぁ!」


 その言葉を最後に今日の配信は終わった。

 端末の電源を切ったカナタは背もたれに背中を預けてふぅっと息を吐く。


「前世の配信者もこんな感じだったのかな……めっちゃ楽しいわやっぱり」


 クスッと笑みを浮かべ、カナタは飯を食うために部屋を出た。

 カナタがハイシンとして行う配信は本当に人気だ。時に誰かの行動を改めさせ不幸になる運命だった人が救われる時もあることを彼は知らない。


 というよりも、聞いている相手は人間だけとは限らない。まさか彼も、人間と敵対する魔族にも一定数のリスナーが居るとは思いもよらないはずだ。

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