第104話 ルカとのデート
「旦那様!今日は、妾との逢引なのじゃ!」
「うん。ルカ、今日はよろしく」
アンとの甘々デートの翌朝。宿を外に出たところで、ルカと待ち合わせをしていた。
昨日、ルカから、今日は軽装ではなく、山に登れる格好にしてほしい、と言われていた。そのため、特に山登り用の服もなかったので、ハンタースタイルで来ている。
「旦那様!そういえば、ほかのみんなにはアクセサリーを渡していると聞いたのじゃ!ずるいのじゃ!妾にも欲しいのじゃ!」
「…」
そう来ることは予想していた。だから、もちろん、用意はしているんだけどさ…なんだろう…こう、もっと、ロマンチックに渡させて欲しかったな…。
「ま、そういうところが、何ともルカらしいっちゃーそうなのかもなぁ」
ルカとの付き合いは、まだひどく短い。時間にしてみると、わずか1週間程度しかないのだ。それなのに、不思議と何年も付き合っていたかのように感じてしまう。
まー、再会して3日でディープキスしちゃうくらいだから、何だか俺も距離感がバグってるのかもな。
そういえば、俺の(地球の)両親は、付き合い始めた2回目のデートではもういたしていた、と聞いたことがある。だから、そういうのは人それぞれと言えば、そうなのかもしれない。
俺はポケットから2つのアクセサリーを取り出した。リング状になってる髪留めが2つだ。どちらも、かなり高価な蒼い宝石をあしらっている。
「旦那様!もしかして…」
「髪留めと、ほかの何かと思ったんだけど…ルカ、髪の毛の量がめちゃくちゃ多いから…2つにしたよ」
アンに2つ目を渡したのに、ルカに渡さないなんてことはない。ロゼッタとリーゼにも2つ目用意しておかないとなぁ。
「ほう。なるほど、妾の目や髪の色に合わせた宝石をあしらってくれたのじゃな!」
「ああ。もちろんこれは
「さすが旦那様!妾の弱点と、強みの強化を考えてくれたのじゃな」
ルカは
そして、もう一つ
「それでは、早速付けてみるのじゃ!」
ルカは渡した2つの髪留めを頭の上で…超正統派なラビットスタイルのツインテールにまとめた。ルカは、髪の毛が長いため、ホーステールになっている。
ああ、狙ってたさ…2つ髪留めを渡せば!きっとこうしてくれると!ツインテールには様々な派閥があるが、くううう。やっぱり妖精みたいな儚い容姿のルカには、ラビットスタイルのホーステールが似合いすぎだぜぇ!
「どうじゃ旦那様!似合っておるじゃろ!」
「最高です!ありがとうございます!ごちそうさまです!」
あざといと言われようが、何と言われようが、ツインテールには夢が詰まっているのだ。ふう。落ち着こう俺。
「さて、旦那様、そろそろ行くのじゃ!妻の妾が可愛くて嬉しいのはわかったが、日が暮れてしまうのじゃ」
「あ、ああそうだね。行こうか?ルカがどこか行きたいところがあるんだっけか?」
「そうなのじゃ、水の精霊としては、ちと見逃せないのでな」
タタタ、と走り出すルカの後ろをついていく。数分歩くと、たどり着いたのは、宿の裏にあった小さな山道の入り口だった。
「今日は、この山道の登るのじゃ」
「何をしに行くの?」
「それはあとでのお楽しみじゃ」
そう言って、ルカは元気よく手を振りながら、山道を歩き出す。俺はルカに歩調を合わせながら横に並んで歩く。
「さて、旦那様、折角の山道でゆっくり話せるタイミングなのじゃ」
「うん。そうだね」
「物語的には、ここで妾の過去話など、ちょうど良いと思うのじゃ」
物語的には、ってどこの、誰の、視点だよ。
「折角じゃし、聞いてほしいのじゃ?」
「もちろん。是非聞かせてくれよ」
得意げな様子のルカの横顔を見る。
額から鼻筋がすらっとしていて、キレイなラインを描いている。大きな丸い目の上にある青いまつ毛が、まばたきをする度にキラキラと星が尾を引くように瞬く。
「
「ああ、根本的に肉体の構造が違うからね。物質が魔力の圧縮により、生命活動をするまで固体化したものが、
「旦那様、まさに、その通りじゃ。教科書のような模範解答じゃな」
ニシシ、と笑いながら、ルカは俺を横から覗き込むように見る。前を見ながら歩かないと危ないぞ。
「故に、精霊族は、いたしても増えることがない。旦那様が無責任に妾の身体を求めたとしてもほかの種族といたしたときのように責任を取らなくて良いのは、気楽じゃぞ?」
「さすがにそんなことは、しないから…」
「ふむ。つまり、いたすときは責任を取ってくれるのじゃな?」
「そりゃ、取るに決まってるよ!アクセサリー2つ渡したんだから、もとよりそのつもりだし……じゃなくて、ルカの過去の話をするんだろ?」
「そうじゃった、そうじゃった」
ルカは、14年前に、初めて会ったときから遠慮がないし、だから距離が最初からものすごく近い。でも、やっぱりすごい美少女だからか、ほかの何かがあるのか、この遠慮ゼロの距離感が、とても気楽で、とても心地よいのだ。
「故に、
「なるほどねぇ」
「そこで、なんと妾と同じタイミングでもう1人、つまり同時に2人の
ルカが、少しだけ、不機嫌そうな顔になる。
「妾は、精霊の里に突然現れた大きな樹の、すぐ根本にある湖に浮かんでいたそうじゃ。普通、精霊族は、神の祭壇から授かるものじゃ。じゃから、もう一人は普通に祭壇から授かっておる」
「それは…なんで…ルカは…?」
「わからぬ。わからぬが、それ故に、妾はすぐに鑑定をされ、ギフト持ちであることが判明した」
ルカに会うまで、
「
腕を組んで、ふう、とため息をつくルカ。それはまぁ、あまりいい思い出じゃないだろうな?
「で、追放されて、水のあるところをたどるつもりが、いつのまにか迷ってしまって、旦那様のいた村の近くにいた、という訳なんじゃ」
彼女は俺と同じく、
それは、ルカが種族特性で持つ
直接、働きかける魔法の大半は精神系統魔法や肉体系統魔法など、接触しないと効果を発揮しないものだ。戦いながら相手にかけるのは相当のテクニックが、必要になる。
結果としては、ルカはそのひどく華奢で小柄な外見とは裏腹に、圧倒的にタンク向けの性能を誇っているのだ。
「そう。旦那様に会ったんじゃ…わずか1歳で、じゃ。それで旦那様には、ずっと聞きたかったことがあるのじゃ?」
「何?」
「旦那様は、何故、初めて会ったとき会話ができたのじゃ?」
「……」
ま、疑問に思うよね。
奥さん?まだ籍入れてないから恋人?に隠し事もなぁ。ルカは、何かついつい気を許しちゃうんだよね。初めて会ったときといい。そして、ルカはそれを受け入れてくれるという、根拠のない確信もある。話してみるか。
「ルカはさ、転生って聞いたことある?」
「ふむ。全ての魂は、魂の坩堝から生まれ、死ぬと真っ白になり、坩堝に帰る。その坩堝からまた新しい魂となる、それを転生とは言うがのう…旦那様の言う転生はそれとは違うのじゃな?」
「うん。俺の言う、転生は簡単に言うと、記憶が保持されたままの転生なんだ」
「なんと…」
さすがのルカも、目を見開いた。やっぱり、そのような前例は聞いたことが、ないんだろうなぁ。
「それで、その転生前はどんな種族だったのじゃ?何をしていたのじゃ?」
「転生前は、この星の人ですらなかった…そして18歳で餓死したんだ」
「ふぅむ」
ルカが腕を組んで目を瞑った。悩んでいるのか?いや、何かを思い出そうとしている?
「………もしかして、カペルが口にしていたチキュウというのが関係しているんじゃな?」
「はは、ルカすごいな。正解だよ。地球というのは、俺が転生前にいた星の名前だよ」
「なるほどのう…これで謎が解けたのじゃ」
「謎?ああ、俺が喋れたこと?」
「それもあるのじゃが…それ以上に妾が旦那さまに再会してから、ずっと思っていた疑問じゃ」
腕を組んだまま、じっ、とこちらを見るルカ。疑問って何のことだろう?
「有り体に言うとなのじゃ。旦那様のギフトはランクAという枠でも、説明がつかないくらい強力すぎるのじゃ」
「たしかに、そう言われればそうだな」
例えば、変異種のギフトはランクAだ。もちろんとても強力なものだったが、俺のギフトと比べるとはっきり弱いと言える。
「じゃが、今の旦那様の話で、辻褄があったかもしれぬ…これは、妾の推測なのじゃが、旦那様、聞いてくれるかのう?」
「え?というか、俺のこと気持ち悪いとかそういうことは、思わないの?」
「いや、全然。前世あろうが、魂が外から来てようが旦那様は旦那様じゃからな、妾の燃えるような好き好きオーラを見損なわないで欲しいのじゃ。あ、ほかの3人も、アン以外は会ったことはないがのう、たぶん全く同じように返すと思うのじゃ」
すごい、自信だなぁ。会ったこともないのに、何か感じることがあるのだろうか?
「これは妾のギフトとも絡んでくる話なのじゃが…魂の器、というのは、旦那様も知っておろう?」
「ああ、
「それじゃ。ランクAのギフトが、魂の器をギフトでいっぱいにした上限、
足元の大きな石をよっと、と言いながら飛び越えた。飛び越えたあと、ルカがバランスを崩したので、慌てて、手を差し出した。
「旦那さま、すまんのう、助かったのじゃ。で、なのじゃが、その
「どういうこと?」
「妾の存在がそれを示しているのじゃ」
「確かに…それはそうだよね」
あるいはルカだけ、人間族を超えた違う存在だとか、じゃないと説明がつかない。
「で、ここからが完全に妾の推測なのじゃが、ギフトやミラクル以外にも、魂の器には入っているものがあるのではないか、と思っている」
「!」
「王族にはギフトが出にくいという俗説、あながち嘘ではないのかもしれないのじゃ」
「つまり、王族、というようなことにも魂の器に注がれた何かがある、と」
「そうじゃ。妾の場合はたぶん先程少し話したが、
「神への信心も魂の器に、注がれた何か、と」
「左様。旦那様の魂は、さらにそれを超えて、この星の理の外から来たものじゃ。こちらに来たときも何も持たない蛮族の、更に何も与えられない5番目じゃからな。となれば、本来、
この星の人ならプリインストールされているソフトすら入ってないから、空き容量が大きいということか。
「さて、だいぶ、話しすぎてしまったのう」
「だね。せっかくのデートだからもっと楽しい話でもして、ルカとの仲を深めたいかな?」
「妾は充分に旦那様と仲が良いと思うがのぅ」
「じゃあ、さらに仲良くなるということで」
「ふむ。それは大賛成じゃな」
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