第87話 アダマンタイト

ハンター協会からのお仕事というか、俺の護衛ということで、治療院にある今住んでいる2LDKに、ルカも住むことになった。うん。14歳にして2人の恋人と同居ね…前世では考えられないなぁ。


「旦那さまの寝室に入るのは…ええと、アンリエッタが先か?それとも妾が先か?」

「どちらも入らないよ」

「な!?旦那さま、なぜじゃ?若い男なら、妾やアンリエッタのような美少女と同居などとなったら、湧き上がる情欲のまま押し倒すのが相場と聞くのじゃが?」


そりゃあ、ルカもアンも、それはそれはものすごい美少女だから、この若い身体から情欲は湧き上がるけどね。さすがに、だからと言って、それをそのまんま2人にぶつけたりはしないよ?


「ロゼッタとリーゼが、俺のために旅に出てるっていうのに、そこは流石に一線超えられないよ…」

「ロゼッタとリーゼというのは、旦那さまの残りの恋人じゃったの。むう?しかし、旦那さまのために旅をしているとな?どういうことなのじゃ?」

「見ての通り、俺の脚はなくなっているんだけど、それは1年前に鶏体蛇尾コカトリスと戦ったときの戦傷なんだよね。そのときに、リーゼやロゼッタも一緒に戦っていたから、責任を感じているらしく…それでね…」


それを聞いて、ルカは深く頷いた。


「なるほどのう…。リーゼとロゼッタの2人も旦那さまのことを深く愛しているのじゃな…そしてその2人に義理立てしてるわけなのじゃな…旦那さまは優しいのう?」

「あはは…そんなんじゃなくて、4人にいい顔したいだけだよ?」

「あい、わかった。ならば、アンリエッタと同室に寝させて貰うのじゃ」


ルカの見た目は、4人の中では1番幼いが、思考は大人っぽい。というか、ルカと俺は、時間にしたら、まだこれまでの全てを合わせても数時間しか話していない。そのはずなのに、妙に馴染むというか、溶け込んでいるというか。


再会してすぐなのに、不思議なくらい、ルカに親しみを覚える。なんでだろう?


「そうしてくれると助かるよ…さて、もういい時間だし、俺はもう寝るよ?」

「ふむ。では、妾も今日のところは寝るとするかのう」


ふわーあ、と欠伸をしたルカ。軽く伸びをして、もう一つの部屋に入っていく。それを見送ると、部屋に残ってたアンも、ニコリと俺に笑いかけてきた。


「ではぁ〜私もぉ〜今日は失礼しますぅ〜おやすみなさいませぇ〜」

「ああ、2人ともおやすみなさい」


※※※※※※


翌朝から、俺の治療院での仕事にもう一人、女の子が同行することになった。要するに、ルカも一緒に治療院にくるわけだ。そりゃあ、護衛なのだから俺から離れたりする訳にもいかない。


結果として、俺の後ろで、2人の美少女が睨みを効かせている不思議な治療室が出来上がった。


「おー、先生は恋人を増やしたのかい?美人ばっかを侍らして羨ましい限りだねぇ」


今日の最初の患者は、階級5のハンター、サジさんだ。髭面の30台半ばの只人族ヒュームで、ランクDの戦闘強化バトルドレス持ちのはず。


「あははは…彼女は精霊族エレメンタルのルカです。恋人ではありますが、今は脚が悪い私の護衛としてここに居てくれてます」


えっへん、と得意げな顔して胸を張るルカ。うん。なるほど。昨日、自己申告してくれた通り、結構のね。


「サジさん、それはいいですけど、最近、怪我する頻度が高くないですか?何かありましたか?」

「うーん。どうも盾の調子が良くないんだよなぁ…2ヶ月前に整備してもらった、この不変硬鋼アダマンタイト製の大盾ラージシールドが、なんかしっくりこなくてねぇ。何度も調整してもらってたんだけれど、また途中で壊れてね…それで怪我しちまったんだよなぁ」


不変硬鋼アダマンタイト製の武器の不具合ねぇ。そういえば、昨日、治療室に来たヴァネッサも同じようなことを言っていた。不変硬鋼アダマンタイト製の槍斧ハルバートが、壊れたから怪我をしたと。


「そうですか…サジさん、狩りの道具は、自分の命を預けるもんだから、くれぐれも気をつけてくださいね」

「おお、そうだな。武器屋、新しく探すかねぇ」

「でも、協会指定以外では不変硬鋼アダマンタイトを扱っているところはないでしょう?」

「そりゃそうだな…諦めて、また直してもらうか」


去り際に「先生、いつもありがとな」とだけ言ってサジさんは、治療室から出ていった。


不変硬鋼アダマンタイトは、特別に決まった配合の合金に対して、金属性メタルアトリビュートの魔法使いが使うことができ、硬質化、靭性強化、熱変動耐性といった性能を与える、階位5『魔金属化マギーメタル』、を『魔化』するまでかける必要がある。


一時的なものなら、普通の鉄に、階位2の金属魔化アダマンチウムだけでもいいが、これだと数分で効果が切れてしまう。


通常の魔法は、対象に対してこのように一時的な効果しかないものが多い。


しかし、特定の魔法、特定の物質限定ではあるが、10,000〜100,000倍の時間…つまり数時間〜数日かけることで、魔法の効果を永続的にすることができる。


これを『魔化』という。そして、魔化を施したものを魔法道具マギーツールという。


この手間と金のかかる不変硬鋼アダマンタイトは、生産量を国とハンター協会が厳密に管理してる。そのため、ハンターが不変硬鋼アダマンタイトの製品を手にするには指定の店舗から購入するしかない。


「ねールカ、あれ、どう思う?」

「む?あの不変硬鋼アダマンタイト製と名乗る大盾ラージシールドのことかのう?」

「うん」

「ありゃあ、ひどい代物じゃな」


精霊族エレメンタルは、自らの身体が魔力の塊だ。空気中にある薄い魔力が、人の形になるまで凝縮されたのが精霊族の身体を構成している。その濃度は、大気中の100万倍になるという。


ともなれば、魔力について、ひどく敏感で、見るだけで、詳細までよくわかるのが精霊族だ。


「ひどい代物…か…アンから見てもそう?」


魔人族マギーの目も特別製だ。左目で属性魔法、右目で系統魔法の痕跡などを見ることができる。属性魔法については、さすがに精霊族エレメンタルに劣るが、系統魔法については、精霊族エレメンタルよりも詳しく見ることができる。


今回は、恐らく属性魔法絡みなので、素質的にはルカの方が有利そうだが、アンは金属性メタルアトリビュートの魔法が使えるからなぁ。意見を聞きたい。


「そうですねぇ〜あれは偽物ぉですぅ〜」

「偽物、か…」

魔金触媒マギータイトのぉ〜割合いが多くてぇ~あれでは魔化ができないですぅ〜お金かかってぇ~偽物作ってるなんてぇ~意味不明ですぅ〜」


配合もろくにできないバカが合金を作って、それに気づかずに偽物を売っている?どのように告発すべきだろうか?いや、しかし…。


「うむ。組織的なのか、個人がやらかしているのか現時点では不明じゃのう。個人のやらかしを組織的なものとして追求してしまうと、殊の外、損害がでてしまって、却って処理の手間が増すかもしれんからのう」

「ということは、まずは、その武器屋の連中が個人的にやってるのか、組織的にやってるのか、見極めてみようか?」

「流石は旦那さま。話が早くて助かるのう。で、あっさりそれを言うということは、調べる宛もあるんじゃろう?」

「そりゃあ、ね、アン?」


俺はそう言うと、アンはすぐに理解をしてくれたみたいで、ニコリ、と笑った。良かった。伊達に1年も同棲してないよね?以心伝心。


「ご主人様ぁ♪2年ぶりにぃ〜あのときのぉやつを〜やるんですねぇ?」

「そうそう」

「わかりましたぁ〜♪♪♪ではぁ〜今日のぉ治療院でのお仕事が終わったらぁ〜早速ぅ〜やっちゃいましょう〜♪」

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