外伝02話 『29食目:ダッチア族伝統のシチュー』

訓練…と言っても今では実戦が殆どだ。


最初は親父が教えてくれていた。しかし、ギフト持ちの俺は、親父と比べたときに、身体的なスペックがあまりにも高すぎる。そのため、父親には1年そど前に「俺ではもう、お前に教えられない」と言われてしまった。


そこで、今、俺に狩りを教えてくれているのが、ハンターという、ギフト持ちの、モンスター狩り専門家だ。


彼らは、ウチの部族の近辺にテントを張り、近辺の森に狩りに行くことがよくある。定期的に狩ることで、森のモンスターの数を調整しているらしい。


そこで、東方蛮族ダッチア族は、彼等にテントや宿泊施設、水などを提供するのだが、その対価として、狩りの仕方を教えてもらったりしている。


「フォームくん、今日はあの5匹だ」


今日の訓練では、3人組のハンターに連れられて、森で突撃猪チャージボアの狩りをしている。


リーダーのキースさんが、斥候兼フォワード役らしく突撃猪チャージボア、5匹の群れを見つけてきた。そこで今日の最初の訓練として、5匹を狩るように、と言われたのだ。


俺は5つの鉄球を空中に放り投げると、ジャブの要領で、落ちてきた鉄球を全て殴る。


「うりゃりゃりゃりゃりゃ!」


俺に撃ち抜かれた鉄球は、目にも止まらぬ速度で、まるで弾丸のように飛んでいく。


ボッボッボッボッボッ!!!!!


20メートル先の突撃猪チャージボアは、そんな地味な音を出しながら、全頭、頭を破裂させてバタバタ倒れていった。


これも拳擲トリルの攻撃方法の1つだ。シンプルに鉄球や石をぶん殴って飛ばして当てる…という飛び道具と言うのも烏滸がましい攻撃だが、馬鹿にできない。


見ての通り、充分に狩りができる代物だ。


撃ち方にもコツがあり、大きく言うとフック気味に殴る強投擲パワースロー、ジャブ気味に連打する連投擲スピードスローがある。


「まぁ、突撃猪チャージボアまで、狩れるのは俺の怪力あってのことだよなー」

「そうだね。ギフト持ちは、ギフトなしとは、戦闘に関して、様々な面で大きく異なるから、きっちり違う感覚を掴んでおかないとね!」


突撃猪チャージボアは、モンスターと言われていて、そこらの野生動物とは一線を画す存在だ。


普通、拳擲トリルで、モンスターは倒さない。倒しても極低級の鋭歯兎シザーラビットくらいだろう。


正直に言おう。もう普通の大人では、俺とは全く勝負にならない。俺の肉体は、地球のオリンピアを遥かに凌駕する性能を発揮しているのだ。


だって50倍だぞ!?通常の9歳児の筋力なんてわからねぇが、仮に握力10キロ、背筋力30キロだとしても、握力500キロ、背筋力1500キロだからな。地球人類の限界値を明らかに超えているんだよ。


そんなヤバい筋力ではあるが、見た目的にはまぁそれなりに引き締まってる体に見える程度。そんな超パワーを持っているとは思えないだろう。


そこは、異世界の不思議パワーってことなんだろうなぁ。


だからか、身体が異常に軽く感じる。戦闘強化バトルドレスには、スピードや、タフネスを強化するギフトもあると聞く。しかし、そのギフトがなくとも、明らかに早く動けるし、頑強だ。


まぁ、筋力の強化には、足の筋肉も含まれているわけだし、当たり前といえばそうだよな。ただ、早すぎて、いまいち自分の感覚の方が、スピードについていけなくて困ってる。


「フォームくん、一人で狩って来ることができるんじゃない?試してみたら?」

「そうだね、わかったー」


突撃猪チャージボアを簡単に殺戮してたら、キースさんに、1人での狩りを勧められたので、応じた。本来なら9歳でやるようなものではないが、まー俺の超筋力ならどうとでもなるだろう。


「俺はここで待ってるからさー」

「じゃあ、これ拾ったら行ってくるよ」


俺は突撃猪チャージボアを仕留めた鉄球を回収しながら返事した。この集落で鉄は貴重だから無駄にはできないのだ。


さて、すべて集めた鉄球をポケットにしまい、俺は1人で森の奥まで進んでいく。奥に進む、とは言っても、目印がしっかりとついているような、何度も来たことのある場所だけどね。


このあたりになると葉と葉の間が、先程のところよりも詰まってきて、俺が立つところまで、光がほとんど差さなくなってくる。


一応、警戒しながら進んでいるが、モンスターの気配はない。


「ちょっと奥まで来すぎたかな…ん?あれ?ここどこだ?」


このあたりには何度も足を運んだことがあったはずだ。見知った道だけを進んできたはずなのに、俺は急に見知らぬ場所にいた。


そして、目の前には、バカみたいにデカい樹がある。見上げても、天を衝くような、樹の上がどこにあるのかわからないほどの大きさだった。


「こんな樹、この森にあったか?いや、あったら森の外からでも見える大きさだよなぁ…」


見上げるのに首が疲れたので、元に戻すと、ふと、木の根本に、淡く光っている何かを見つけた。俺は警戒を強めて、淡く光る何かに、慎重に近づいていく。


「…これは…人か?」


木の根元には、淡く光る小柄な人が倒れていたのだ。近づいて覗き込んでみると、俺と歳の変わらないくらいの少女だった。


「おーい?大丈夫か?どうした?」


軽く肩を触ってみると、少女を覆っていた淡い光がフワっと消えた。しかし、それ以外の反応がない。女の子は、まるで彫刻のように、めちゃくちゃ顔の整った美少女だった。いや、俺的には、プラトの方が上だけど。


「意識は…ないな…うーん。まぁ、ほっとくのもあれだから、連れて帰ってやるか」


背中に美しい少女を背負う。すると、周りの景色がいつもの森に戻っていた。


「え?嘘だろ?どういうことだ?あのバカデカい樹もなくなっている…一体…」


しばらく呆然としてしまったが、そんなことしても何も解決しない。急ぎ、キースさんたちがいるところに、少女を連れて帰ることにした。そこまで遠くには来ていなかったので、10分も走れば戻ってくることができた。


俺の早い戻りにキースさんは、不思議そうな顔をしていた。しかし、俺が人を背負っていることに気が付くと、慌てて駆け寄ってくる。


「キースさん、森の中に人が倒れていた」

「森の中?そんなところに人が?」

「ああ、こいつだ」


背中の女の子を一旦、前に抱えて、背中のマントを外すと地面に置いて、そこに女の子を寝かせた。まさか、地面にそのまま置くわけにもいかないからな。


「この子は…森人族エルフだね…」

森人族エルフ??」


地球のファンタジー作品でよく聞いた名前だな。確かに見た目も、そういうファンタジー作品そっくりだ。耳も尖ってるし。


「うん。森人族エルフは、もう少し西の方に住んでいることが多いけど…このあたりでは、あまりみないなぁ…何故こんなところにいたんだろう?」


キースさんが首を傾げるが、現実、この女の子はここにいたのだ。


「どうすればいい、この子?」

「森から恵みを貰っている東方蛮族ダッチア族は、森人族エルフを邪険に出来ない、とかあった決まりがあったはず…だよね」


そういえば、そんか掟を聞いたことあるな。確か昔、東方蛮族ダッチア族森人族エルフに助けられたことがあるから、だとか。


「起きてきたら本人の意向を聞いて従うのがいいんじゃないかな?」

「わかった…女の子だから、プラトに面倒を見てもらった方がいいよな?」

「そうだね。歳も近いだろうし、それが良いだろうねぇ」


※※※※※※


狩りの修練はそこで中断になった。俺は、その子をまた背負い直して、集落に戻ってきた。


キースさんと自宅に戻ると、親父とプラトが玄関で迎えてくれた。プラトは不安そうな顔、親父はだいぶ難しい顔をしている。


森人族エルフを、森の中で拾ったと聞いたが…その子か」

「はい」

「そうか…」


親父は、一度深く頷くと、近くにいた使用人に声をかける。


「何かあるとまずい…鑑定士を呼んできてくれ」


使用人が出ていくと、まもなく、鑑定士を連れてきた。俺が赤ん坊のときに鑑定をしてくれたのと、同じ細身のおっさんだ。


おっさんが、薄い木の板を地面に置いて、森人族エルフの少女に向かってむにゃむにゃと言うと、ジジジ、と木の板がすこし焦げる匂いがして、文字が刻まれていった。


鑑定士が差し出した木の板には、こんなことが書かれていた。



※※※※※※

名前:ロゼッタ

健康状態:気絶(過労)/記憶喪失

出身:ワラカ森林国東大森林

種族:森人族エルフ

年齢:9歳

身長:1.35メートル、体重:28000グラム


犯罪歴:なし


種族特性ミラクル:森人族の嗜みエルフプライド


ミラクル特性

二魔法の素養ツインマジョリー

防御ガード系統/移動ムーヴ系統が使用できる。


超長寿

成人後に、300歳まで老化をしない。



ギフト:ある

特殊異能スペシャルランクB:状況観察サーベイ


ギフト特性

詳細観察

視界内を1枚の画像として捉えて、その画像の違和感を感覚的・直感的に見つける。


完全記憶

捉えた画像を完全に記憶しておき、何時でも思い出せる。

※※※※※※



「ギフト持ちの森人族エルフだと…?しかもランクB!?」


親父さらに渋い顔になった。うわー森人族エルフって俺等と違って、種族特性なんてあるんだなぁ。


「これは、まずいな…」

「何がマズイんだ親父」


ギフトを持ってるなんて、すごいことなんじゃないのか?


「魂には器があり、ギフトや種族特性はその器に注がれる液体なんだ」

「へー」

「全ての人族の器の大きさは同じだ。そのため、種族特性がある、森人族エルフは、ギフトが最高でBまでしか授からない…つまり、彼女はそれだけ恵まれた存在ということだ」

「なんでそれがまずいんだよ」

「政治的なバランスの問題だ…うちの部族に優秀なギフト持ちが集まり過ぎだ…やっかみなどで脚を引っ張られる」


すく、と親父が立ち上がった。


「まぁ、政治的なことは俺が何とかする。お前とあとプラト、2人で森人族エルフの少女の相手をして差し上げろ。東方蛮族ダッチア族森人族エルフを必ず客人として扱う。特にプラトは同性でもあるから、森人族エルフのその少女も接しやすいだろう」

「わかりました、おじさま」


親父が出て行ってさて、どうしようと、プラトと顔を見合わせる。すると「う、うーん…」と、森人族エルフの少女が寝ている方から声がした。どうやら、目が覚めたらしい。


プラトが近寄り、声をかける。


「おはよう」

「え…と、おはようございます?…その…ここは?私は?なんでここに?」


プラトが優しく声をかけると、少女…ロゼッタは、戸惑うように何とか挨拶を返してきた。その後、プラトがゆっくりと話をしながら、聞き出してみるが、やはり鑑定の結果通り、過去の記憶が全くないらしい。


何故、あそこに寝ていたかもわからないようだ。


「私…誰なんだろう…全然、何も、わかんないよ」


そう悲しげに呟いた直後、ロゼッタのお腹が「グー」と、大きな音を立てた。


記憶がないということは、最後にいつ食べたかもわからないということだ。となれば、当然なのかもしれないが、ロゼッタは顔を真っ赤にして、俯いた。


「お腹が減ったよね…シチューあるから、温めるね、待ってて」

「あ、ありがとう…」


ロゼッタのお礼に、プラトがニコリと笑顔を返してから、部屋を出ていった。隣のキッチンで昼飯のシチューを温め直しているのだろう。


「プラトのシチューはウマいぞ〜」

「そうなんだ。楽しみ」


ロゼッタが、ようやく笑顔を見せた。


笑うと、改めて、ものすごく可愛らしい少女なんだと、確認させられた。プラトほどではないけどな。


まもなくプラトが、シチューをよそった木皿とスプーンを2つ持ってきてくれた。俺の分もよそってくれたのだろう。俺は、昼飯まだだったからなぁ〜気が利くなぁ、プラトは。


これは、東方蛮族ダッチア族の伝統的な作り方のシチューだ。ヤギミルクと鋭歯兎シザーラビットの肉あるいは、突撃猪チャージボアの肉で作る。


東方蛮族ダッチア族は農耕もやっていて、小麦を作っている。小麦じゃなくて、こっちの世界ではスイルというらしいが。


野菜は、マーガイモという甘いサツマイモとじゃがいもの間の子みたいなイモを使う。ほかにもクズ野菜があればぶっ込む。


わかりやすいほど、地球のクリームシチューだ。もともとは東方蛮族ダッチア族の伝統的な作り方ではあるが、今では世界的に認知されているシチューらしい。ようするに、この世界における本場のシチューという訳だ。


これを食べるたび、何となく地球を思い出す。あんなバイトで、変な死に方しちまったけど、両親とか大学の友達とか、どんな反応したんだろうなぁ。


「このシチュー、美味しい!」


ロゼッタが、ニコニコ満面の笑みで喜びと、安心を示した。あー、プラトのこのシチュー、美味しいだけじゃなくて、気持ちがほっこりするよな。


「へへ。ありがとう!」

「ねぇ、今度、作り方教えてよ!」

「わかったよ!今度は一緒に作ろう!」


早速、ロゼッタとプラトが打ち解けている。


プラトは、ギフトのランクが高く、政治的な面から、女の子の友達が少なく、こうして同年代と話すのが、嬉しいようだ。


政治的な問題は親父がどうにかするとは言っていたが…うまく解決するといいな。

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