第79話 コカトリス戦・後
「まずいな…ジリ貧だな…」
何度か
つまり、
リーゼの攻めも、このような状況のために頻度が減り、現状では
それどころか、こっちはロゼッタの魔法も切れて、徐々に追い詰められている。
「攻め手がなぁ…ボクが不甲斐ないのがいけないんだけど」
「リーゼは、充分やっていると私は思うよ」
ロゼッタがリーゼから目線を逸らして言った。覗き見ると、ロゼッタの顔は少し赤くしなっていた。
「…ロゼッタ、ありがとね」
「お礼を言われるようなことじゃないけど…」
この死闘の中、2人が少しづつ距離を縮めていることだけは、進展事項かな。
さて、いま、明らかにこっちは攻め手が欠けている。1番の攻め手であるリーゼも、手持ちの斧が堅い羽根に弾かれて、ほとんど効果がないのがキツい。
「ボクの
リーゼが持っていた斧は、
そのため、先程から、リーゼは最後の手段である、徒手空拳で、
脚での踏みつけも、嘴も、蛇の噛みつきも、全てが致死の一撃だ。それを全て避けながら、
リーゼの体術は、少し前と比べると明らかにレベルがあがっている。ここ半年の狩りで、この動きを披露するほどの接戦がなかったため、知らなかったが、カナチヨ滞在時に、相当な訓練をしたことが伺える。
「ずっと特訓していた必殺技があって、当てられればダメージを出せるとは思うんだけど…まだバリエーションがなくて、スキも大きいから…」
そうリーゼには、強力な決め手となる火力を出す手段……
「威力はあるが、スキが大きい、と」
「そうなんだ。スキはあるし、
リーゼの必殺技を決めるためには、
しかし、
「つまりは、
「そう!でも、
「まぁね…」
俺のギフトの最大の弱点は、スピードだ。だから
「牽制火力にも、練習していたから、当てはあるんだけど…避けるのは少し難しくなるから、カバーを任せていい?」
さっきよりもさらに忙しくなるのか。だが適正階級8という怪物との戦いだ。無理をいくつも通さないと勝ち目などないだろう。
「カバーしつつ捕獲のチャンスを狙えと…それはそれで無茶振りだが、それくらいは何とかしよう」
「任せた!」
リーゼが俺の答えにそう返事しながら、勢いよく
…と思ったら、両手をついて、逆立ち状態で、横回転しながら、
「
(いやいや、これ、カポエイラじゃん!!)
カポエイラは、ブラジルの蹴り主体の格闘技だ。もともとは、奴隷が両手を繋がれている状態でも戦えるように編み出されたらしく、変則的な角度からの多彩な蹴りは、捌くのが難しい…らしい。
コカトリスですら、その蹴りには、惑わされたようだ。転ぶような動きから、攻撃がこないと騙されたのだろう。
「ギャギャギャ!」
リーゼの攻撃が、
それは、リーゼと受けた初依頼。変異種
「リーゼが持つギフトの、筋力向上と敏捷力向上は、どちらも脚の筋力が向上する。これをうまく使いこなし破壊力を脚に集中させた技を編み出せば、手とは比較にならない威力になるのでは?」
そう、リーゼは殴りではなく蹴りを主体にするべきギフトを授かっているのだ。
リーゼは最初その話を聞いたとき、キョトンとしていた。が、俺の指摘以来、リーゼは蹴りに関する訓練を、陰で、愚直に、続けていたようだ。このカポエイラ…じゃなくって
リーゼは、さらに蹴りながら、その反作用で器用に移動して、避けるのと攻撃を同時に行っている。
「ギャギャーー!!」
いらつきが限界に達したのか、
堅い羽根が絡み合って、
刃物には
「シーくん!リーゼ!
「
俺らと、リーゼの前に、
リーゼの動きが、制限されていることに気がついてしまった
「あぶなっ、ちょ、こわっ、いっ」
リーゼは、逆立ちしているというのに、器用にも、手を足のように使ったり、攻撃してきた
「
「
一進一退の攻防だ。しかし、
「もしかして、
「シーくん、それって追い詰めてはいるってことだよね」
「まー、そうなるかな」
ゴク。ロゼッタが唾を飲み込む音がした。
「シーくん、あと1回は
「…俺への期待値高すぎじゃない…」
「でも、いけるよね?」
「なんとかするよ」
さらに、負担増か。もう、何でも来やがれ!どうにかしてやる!
さて、スキを突くなら、当然だが動きの大きい攻撃をさせて、それを防ぐのがいいな。
「
2つの樹の腕で、
鞭のようにしなる地下茎で、脚を狙えば、そのうち嫌がって上空に逃げ出すだろう。
「羽に違和感…飛び上がって攻撃してくるよ!」
「飛び上がったあとには…どこかで降りてくる。そのとき、重量に任せたような攻撃を仕掛けてきたら合わせて!ロゼッタ、魔法を使ってくれっ!」
「おっけー!」
飛び上がった
「今だっ!
ズドンと、
勢いが完全に殺され、そして次の動作に移るのその瞬間、
「今だ…
20本を束ねた地下茎が鞭のように振るわれ、コカトリスを撃つ。ひるんだ
もし
抑えている最中に
「行くよ!!」
俺の
「ギギギ…ヮギャアッッッッ!!」
バキ、と大きな何かが折れる音がすると、抑えつけていたはずの、
何と、
「やべぇ!」
リーゼはいま、飛び上がった瞬間だ。束縛している地下茎を外しての防御は、もう間に合わない。ロゼッタの魔法による防御は打ち止めだ。
となると…。
俺は、急ぎ、前に走り出て、飛びかかるようにして空中のリーゼを突き飛ばした。俺自身も、うまく避けたつもりだったが、
俺の膝から下に
「クソッ!油断したってッッッ!?」
無防備な姿勢を曝け出したのを
走るときに
「グアァッッ!!!?」
あまりの激痛に耐えられず、思わず叫び声を上げてしまう。痛みのあまり、明滅するような視界の中、自分の脚を見ると…
完膚なきまでに、潰れ、千切れ、砕かれている。これは
「シダンッッッ!!」
「シーくんッッッ!!」
ロゼッタとリーゼが悲鳴を上げた。それより、脚が千切れたから、
俺が睨みつけるように見上げると、
馬鹿め、俺はまだ生きているし、戦える。次は
「クソ鶏頭野郎め、今度はてめぇが油断しやがったなッ!もう1回ッ!
俺が叫ぶと、足の裏ではなく、潰された膝辺りから地下茎が伸びて、巨人の腕を形成した。
そして、樹で出来た巨人の腕は、まるで巨大な蛇が巻き付くように、俺を倒していい気になっていた?
今度は、頭そのものを、後ろ向きに束縛している。だから、
「リーゼェェ今だァァァ!!」
「絶対に決めてみせるッ!」
リーゼは数歩加速すると、再び飛び上がった。5メートルはある
「
そして、頭上より高く、そして、鋼鉄化した巨大な斧のような右脚を、そのまま
「
瞬間。ドゥオン、と、踵落としを入れたとは思えない、打撃音というよりは、破裂音があたりに響き渡った。
音に遅れて、爆風のように血が飛び散って、視界が赤く染まる。それより数秒、遅れて、血の雨があたり一帯に降り注ぐ。そして、さらに数秒経ち、ようやく血の雨が晴れてきた。
すると、そこにいたのは…いや、あったのは頭だけではなく、胴体含むの身体のド真ん中に大穴が空いた
羽と脚しか残っていない状態だ。これで生きているかどうか、確認するまでもない。
「筋力向上と敏捷力向上の脚技による融合…ここまでの威力か…」
考えるまでもない、とんでもない破壊力だった。リーゼは、破壊力という面において、ハンターとして飛躍的に大きな壁を超えたのだろう。
「お陰で…勝ったか…」
そう口にした直後に、俺は気が抜けて、ついに気を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます