第65話 ハンターってすごいんやな!

ところで、ハンター階級6一流にもなると、かなりの高給取りになる。月給が魔鋼貨2枚300万、うち税金で3割取られるが、それでも魔鋼貨1枚と金貨8枚は残る。


ちな、統制委員ルーラーも持ってるだけで、月に金貨5枚の役職手当が出る。


まぁ、それでも大半のハンターは装備に金が取られるため、金欠は常につきまといがちだが、俺は違う。ほぼ全てをギフトで賄っているため、ごく一部の生活用品くらいしか持ち物がない。


「だからって昨日に引き続いてまたウチの店に来るなんて、シダンはん、本気でウチのこと好きなったんちゃうよね?」

「そうじゃないのは、ライムちゃんのギフトでわかるでしょ?」

「せやな…で、今日はなんのようなん?」


昨日売っていたスパイス、そしてラコメット。これらを見て、地球でのあれを再現できないか、昨日宿に帰ってから悩んでいたのだ。まぁ、キワイトでアンのスパイス料理を食べていた時点で、これを作れるかも、という可能性については、考えてはいたけど。


クミンシード、コリアンダー、ターメリック、あればチリパウダー。これを粉にして、混ぜて、焦げないように炒めると、みんな大好きカレーの元になる。


「んーちょっとやってみたいことがあって、スパイスを見せてくれないかな?」

「シダンはん、何を作るつもりなん?」

「ま、ま良いから見せてよ?」


さて、見せてもらうと…いやはや、簡単に見つかった。男がついやってしまう3大凝った料理、スパイスから作るカレー、そば粉から打っちゃう手打ち蕎麦、豆の焙煎からしちゃうコーヒー。これをすべて前世の18歳にしてやってしまったボッチの俺にスキはなかった。


「これと、これと、これ、あとこれを、うーんと、よし、一袋づつ貰える?」

「えーと、パクアッパー、ラックシード、ナーガレ、ファイアパウダーを一袋づつ?流石にそれなりの値段になるけど、大丈夫なん?」

「仮にも階級6のハンターだよ?しかも3ヶ月の間ろくに使えなかったから…資金には余裕があるぜ!」

「一袋につき、金貨1枚、全部で4枚になるんよ…ホンマ、いけるん?」

「はいはい、これでどうぞ」

「おおきに…やっぱり待ちい、シダンはん?」


ライムちゃんが俺の袖をキュッと掴んできた。そして上目遣いをしながら、俺を見てきた。


「それ使って何を作るんか、教えてくれへん?」

「えー、急に上目遣いで媚びてきたから、何だかヤダ」

「なんなんそれ!いけず!」


ライムちゃんと話すの楽しい。昨日あったばっかりなのに、何だか妙に気が合う。


「わーた、わーた、仕方ないんな、ライムちゃんのお家に2日連続で来ていいわよん?」

「いいわよんって、なにその喋り方…」

「あー、もう、男子たるもん、細かいこと言わんといてや!」

「で、夕方に家に行けばいいか?」

「片付け手伝ってくれないと、遅くなっちゃうかも♪」

「はいはい、夕方に露店くればいいか?」

「毎度あり!さっすがイケメンはちゃうなー!」


何だか良いように使われているのだが、不思議とライムちゃんにされても不快には感じなかった。人柄か、美少女だからか。まぁ、両方なんだろうな。


※※※※※※


市場で、イブニングバードの肉と、昨日のミールミールスープにも入っていたトマトそっくりの野菜マイル、あと見るからにタマネギだったギネマ、ヤギバター、補給を兼ねて、マーガイモに、塩も買っておいた。


ハンは、ライムちゃんが用意してくれるらしい。


街中では、ちょろちょろ騎士を見かけた。カナチヨ領の騎士だろう。左の肩当てポールドロンにだけトゲらしきものが着いた胸当てブレストプレートという変わった鎧を着ていた。


騎士の装備は当然、支給品だろうが、何か理由でもあるのだろうか。騎士はみなそれなりに鍛えられているので、これまでの通ってきたマーリネが田舎なんだなぁと思い知らされた。


ひとしきり買い物を済ませると、ちょうど夕方ごろになってきたので、ライムちゃんの露店に向かった。


露店が見えてくる距離になると、明らかに様子がおかしい。ある意味正常なのかもしれないが、ライムちゃんの露店に人だかりが出来ている。


(昨日は、そんなにたくさんの客は居なかったけどなぁ)


さらに近づいてみると、何だか客が並んでいるという感じではない。声にも鋭さがあって、接客という雰囲気でもない。


「あれ?争ってる?」


人だかりに少し強引に入り込むと、ライムちゃんが男性5人ほどに囲まれていたのだ。男性は全員仕立てのいい服を着ていて、ガタイのいい4人は腰に剣を佩いているな。1人は肌艶がいい三十路ほどの青年で、宝石などで飾り立てた豪奢な服を着ていた。


「うっわ、貴族か?あるいは、金持ち商人か何かか?」


もうちと、様子を見ると…豪華な服のやつが、何だか熱心にライムちゃんに話しかけている。剣を持ち鎧を着た連中は、ほかの人が寄りつかないように、人だかりの方に向かって、立っていた。なるほど、ざっくり言うと、ライムちゃんがナンパされている。


ナンパと言っても強引が過ぎて、だいぶ質が悪そうだが。


「だから妾になるんだな。いい暮らしはさせてやるんだな」

「困りますわぁ〜ウチ商売するのが好きなんですわ〜」

「商売などせずとも、いい暮らしが出来るんだな」


うーん。見事に話が噛み合っていない。ライムちゃんのことだから、自分でもどうにかしちゃいそうだけど…どうも、俺は美少女の危機に出会いやすいらしい…この旅で何回目だろう?


「ま、助けてあげるか」


さて、高レベルのハンターは、貴族に準じる扱いを求めることができる。相手がよっぽど高位の貴族とかでなければどうにかなるだろう。


人だかりから、中へ抜けて、並んでいる武装している男たちの前に立つ。怪訝そうな顔をした男が俺を威嚇する。


「少年、すまんな。いまこの店は貸し切りだ」

「嘘をつくのは止めた方がいいのでは?わるいけど、俺が昨日貸し切る予約してたんだ」

「少年…今は豪商・カライ様のご子息の方が使っているのだ…言うことを聞いてく…れ…」


面倒くさいのでハンター証をつきだすと、男が言葉を途中で止めた。ま、一般的な認識だと、階級6って人間から片足はみ出してるからね。


ギフトのなしの只人族ヒュームの騎士や戦士だと、どんなに精鋭だったとしても2、30人は集めないと歯が立たない、というのが一般的な常識だ。


「シダン、ハンター階級6一流。この露店の女の子は、俺の友達なんだ。みっともないナンパは勘弁してくれないかな?」

「な、階級6一流のハンター?」


すると、乱入に気づいたライムちゃんが、俺を見て目を輝かせた。近づいてくると、何故か俺の腕に抱きついてくる。


「この人、ウチの彼氏なん!だからあんさん諦めてーな」

「「なっ!?」」


ライムちゃんの宣言に、お坊ちゃん?と俺の驚きの声が重なった。


(しつこいの追い払うのに協力してーな)

(あーはいはい。わかりました)


「ということなんで、諦めてくれ」


半ば投げやり気味に言うが、お坊ちゃん…いかにも甘やかされて育ってきましたーって感じの男は、気に食わなかったらしい。俺を見ながら、激昂した。


「何だ、このガキは!ボクチンは、このカナチヨを仕切るカライ商会の長男ピーガー様なんだぞ!」

「ピーガー様、この男、階級6一流のハンターです。トラブルはマズいです」


隣の男が、ピーガーとやらに、小声で進言する。あ、良かった。お付きは、常識的なやつみたいだ。


「ハンターがなんだ!おまえら傭兵だろ!ボクチンは命令しているんだぞ!この小僧に痛い目を見せるんだ!」

「ピーガー様、考え直してください!」


傭兵の、たぶんリーダー格だろう男が必死の声で頭を下げる。周りの傭兵たちも腰が引けている。高ランクのギフト付きが傭兵をすることは少ない。ランクEか高くてもDだ。大半のギフトなしを相手にするのに、高ランクのギフトは不要だからだ。


「うるさい!ボクチンは今日こそライムちゃんを連れて帰るんだ!そして16番目の奥さんにするんだな!」


いや、16番目って法的に無理があるだろ?そんな重婚認められてないぞ。愛人か何かか?


「我々では命をかけても1分も持ちません。その後、ピーガー様を守る兵士はいなくなります。それでもよろしいですか?」

「いいからやるだな!」

「畏まりました」


4人の傭兵が剣を構えた。


「ということだ、ハンター殿。我々は命令には逆らえないんでな」

「…事情が事情だから傭兵さんたちには手加減をするよ?」

「かたじけない…では失礼するっ!」


4人が切りかかって来たので、まずは、目の前に障壁ウォールを立てる。…あれ?


「なんだ、この樹は!?」

「地面から突然生えてきたぞ!」

「ハンター殿のギフトか?」

「ひょ…表面が鉄より硬いぞ!剣が弾かれた!なんだこれ!?」


そう、今、自分でも驚いている。生えてきた樹が以前とは見た目が違うのだ。以前より黒く、動かした感じ、重い。


しかも、傭兵たちの言葉を信じると、鉄より硬いらしい。以前から俺の苗木の根ルートは、かなりの丈夫さは持っていたが、剣を受けたときに、ガキン、という音ともに弾くようなことはなかった。


「ま、いっか…巨人の腕ギガント


全ての地下茎ルートを合わせて、大きな1本とするこの技だが、ここでも異変が起きていた。


苗木の根ルートの本数、多くね?」


パッと見に、倍はある。うーんと、これは別の名前をつける必要があるな…よし巨人の鎖棍フレイルにでもしておこう。


これはもう、原因は一つしか考えられない。つまりはギフトが進化したのだ。しかし、それにしても進化したきっかけは、なんなんだろうか?アレか、女の子の危機を助けようとすると、進化するのか?わからねぇ。


「よし、それは後で考える…ほいっ」


巨大な樹の出現に固まっていた騎士たちを巨人の鎖棍フレイルで、怪我をさせないように薙ぎ払った。傭兵たちは、後方に跳ね飛ばされ、そのまま、起き上がってこなくなる。


「さて、捕縛ホールドっと…」

「ひぃぃぃ」


起き上がってこないのを確認したので、ピーガーの手足を苗木の根ルートで、縛り付けて、ぐるぐる巻きにした。


「ぼ…ボクチンのカライ商会は…ししし子爵家との繋がりもあるんだぞ…」


そういやぁ、カナチヨ仕切ってるのは、子爵家だと聞いたことがあるな。


「あーうるせぇな。このままやるなら、ハンター協会に、カライ商会が喧嘩ふっかけてきたって話持って帰ることになるけど、大丈夫?」


精査すれば、このカライ商会のやつが、無茶苦茶な理由で喧嘩ふっかけてきたのがわかる。この世界には精査探査メモリーサーチの魔法があるので、偽証なども出来ない。


「お前が傭兵をけしかけてきたんだ。カライ商会としては、お前を切り捨てるか、ハンター協会と喧嘩するかの2択になるわけだ」

「パパはボクチンを助けてくれるのん!」

「で、カライ商会が仮にハンター協会と喧嘩する選択肢を取ると、今度は子爵家だ。子爵が味方したら王家だな。はてさて、どこまでが、自業自得のお前一人のために味方になってくれるかな?」

「……………」


がっくり肩を落として、ピーガーは声も出ないようだ。さすがに王家が出張って自分を庇う場面は想像できなかったのだろう。ま、状況をわかったのなら、今はこれ以上絞ることもあるまい。


「俺もめんどうだから、お前が二度と俺の友達…じゃなくって彼女である、ライムちゃんに近づかない、と誓約するなら、この場は収めてやるよ」

「わ…わかったんだな…近づかないでやるんだな!」

「あーん?なんだって?」

「わかりました…だな!もう近づきません…だな!」

「二度とだぞ?わかってるか?」

「はいいいい!もう近づかないんだな…許して…くださいなんだな…」


最後は消え入るような声で謝罪が出た。十分に反省しただろう。縛っていたルートを外してあげた。急に束縛がほどけたことで、ドサ、と地面に転がったぽっくんを見て、周囲の人々は誰ともなく失笑を漏らす。


怒りに真っ赤になったぽっくんだが、それでも何も言わずに、慌てて可哀想な傭兵たちを蹴って起こすと、這々の体で逃げていった。

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