第66話 『24食目:シダンオリジナルカレー』
「シダンは〜ん。ホンマにおおきに!助かったわ〜」
ライムちゃんは腕に抱きついたまま、そう言った。まだ少し震えているのは、大商人の御曹司相手だから怖かったのもあるのだろう。
「ああいう相手だから、ウチ、どうすればいいかわからんかったわ…」
「確かに、下手に敵には回したくないからなぁ。とにかく目を合わせない、逃げる、ああいうアパラパーな権力者は、まともに相手したらダメだよ」
やはり特権を持つと、どうしても頭がおかしくなるのが当然でてくるな。権力と腐敗は、どうあっても切り離せないらしい。
「何回か声をかけられて、愛想よく返事してたら、変な勘違いされてもうたみたいなんよ」
まー普通、大金持ちの息子になんか声かけられたら、邪険するわけにもいかない。愛想よくするしかないよな。
「さて、そろそろ落ち着いたか?」
「ん」
「じゃあ、暗くなっちまうから、早く露店を片付けようぜ?」
俺がそう言うと、ライムちゃんは顔を上げて、俺を見てから…目をパチパチとした。そして、やがて、表情に理解が広がり、うんうん、と頷いた。
「せやな。暗い中、片付けするんは大変や」
※※※※※※
「うーん。シダンはんのお陰で無事に戻ってこられたわーホンマに感謝しかないわー」
家についたライムちゃんは、奥の絨毯が引いてある床に直接、ゴロンと転がった。この家、ベッドすらねーのか。
「ま、トラブルはあってちと疲れちゃったけれど、約束通り、今朝買ったスパイスで料理を作るのはするよ?」
「はいよ。ウチは、ラコメットを炊いとけばよろし?」
「おう。それは任せた」
こっちのラコメットは、地球で言うとインディカ米だから、炊き方も違うだろうしなぁ。俺は、ジャポニカ米の炊き方しかしらん。
さて、パクアッパー、ラックシード、ナーガレ、ファイアパウダーを、俺の愛用の鉄鍋で混ぜながら加熱する。
茶色くなったら、スパイスを1回取り出して、次は具材だ。
適当な大きさのイブニングバードのもも肉、と、細かく刻んだ異界のトマトことマイル、異界のタマネギのギネマ、マーガイモを、鉄鍋にヤギバターと一緒に入れて炒める。
マーガイモは細かくして溶けるようにしておけば、ルーでなくてもとろみがつく。逆にしゃばしゃばにしたいならイモの使用は控える必要がある。
具材に火が通ったら、水を入れ、続けて、砕いたイブニングバードの骨と同じく砕いたイコールの豆少量を布で包んだものをぶっこむ。出汁も別取りというのもあるが、時間がかかるのでここは時短で一緒にしてしまう。
このとき、トマト…マイルからかなりの水分が出るので、水は少なめにしておく。
30分ほど煮て、野菜が崩れてきたら、火を弱める。布で包んだ骨とエコールの豆を取り出してから、スパイスと塩を入れてよく混ぜる。
この塩が結構大事で、入れないとボケた味になるんだよねぇ。
また火を強くして、よくよく混ぜたら…この世界で、多分初になるカレーの完成だ。
「さーて、出来たぞー」
「こっちのハンも炊けたで〜」
「じゃあ、この皿に半分くらいハンをよそってくれる?」
「はいよ」
ハンをよそった皿の残り半分の場所に、カレーを入れていく。
「これはドールルと同じように、ハンと一緒に食べるんやね?」
「うん。それが1番うまい食べ方だね」
さてさて実食と行こうか。
早速一口…嗚呼!あのカレーだ!間違いない!カレーだ!パーフェクト!地球で食えば、なんてことないカレーだろうが、この世界では初めて食べる味だ。
スパイスが絡んだ複雑な味。一方で、鶏出汁や野菜出汁がたっぷり出たスープをベースにした深みと、トマト…マイルの酸味。スパイスと出汁を融合させた、地球・日本のカレーだ。うおおおお!うまいぞおおおお!!!
「シダンはん!なんやこれ!?ごっつ、うまいなぁ」
「だろ?」
「スパイスはさっき買うたもんだけなん?」
「そうだね、まぁ今回はスプーン一杯分づつしか使ってないけどねぇ」
「ミールミールスープにも近いんやけど、それより味が奥深いんなぁ?」
「鳥の骨とエコール、細かく切った複数の野菜が深みを出してるんだよ」
「そうなんか…うーん」
ライムちゃんはしばらく腕を組んでいたが、一口食べては、またうーん、唸っていた。
「シダンはん、このレシピ売ってくれへん?」
「ん?レシピ?ああ、売ったら俺は使えるなくなるの?」
「そんなことあらへんよ。レシピにそんな制限かけられへん」
「だよねぇ。なら売るつーか、あげるよ。横で見てて大体わかったでしょ?」
ライムちゃんは、驚くように、両掌をこちらに向けて顔の前で振った。
「いやいやいや、そうなんやけど、タダっちゅーのは、さっすがにシダンはんに悪いで?」
「そお??そんなことないと思うけど」
「そんなことあるんや!しかも、さっき助けてもろた恩人から、またタダでもろたら、申し訳なさすぎるんちゅーもんや」
うーん。でも、このレシピを独占しても仕方ないのよね。どっちかというと、広めて競争が起きて、ウマいカレーの店が出来ると嬉しい。主に俺が。
「えーと、ぶっちゃけ、金は結構貰えるし、困ってもいないから、金よりは別の方法で返してほしいなあ」
「身体かいな?なんだかんだウチの身体が目当てなんか!?イヤらしい!!」
「いや、だからギフトで違うってわかってるでしょ!!」
もはや、ツッコミを入れてほしくてワザと言ってるんじゃないのか?関西か?関西のノリなのか!?
「シダンはん、いいツッコミやん。コンビでお笑い目指せそうやわ」
「いや、俺、ハンターなんだけど…てか、話が進まないっ!」
「アハハハハハ!」
大声で笑うライムちゃん。延々と進まなそうなので、話を切り出す。
「だから、金よりはお願いかな。これ…いまカレーって名前付けたんだけど…カレーの店を作ってよ。カナチヨ来たらいつでも気軽に食べられるようにして?」
「ほーん?確かに個人で作るには手間かかりそうやな…店でなら纏めて作りやすいから簡単にだせそうやし」
そう、まさにライムちゃんの言うとおり。作り方はわかってはいるが結構めんどくさいし、材料も多いから、揃えるのも大変だ。だけど、店ならまとめて作っていつでも出せるようにできる。
「それはわかったわ。もし他の人がレシピ欲しがったらただで上げちゃうん??」
「それは任せる…けど、個人的には、ぼったくらない程度で売って、再販禁止の契約で縛るくらいにしてほしいかな?」
「???」
「買う人はちゃんと作るでしょ?タダでもらった人は適当なものを作ることが多い。下手すると酷い味のカレーが溢れちゃって、廃れちゃうかもしれないからね」
「なーるほど。シダンはん、頭ええなぁ…わかったわ。行商ギルドに渡して管理してもらうわ。それなら適正価格と再販禁止の管理もしてくれるわ」
ライムちゃんはそんなことを説明しながら、感心して、さらにウンウン頷きながら、カレーを貪っていた。器用な子だな。
「まーでも、ならウチにもタダはよくないんちゃう?」
「ん?ライムちゃんはそんなことしないだろうし、美少女相手にカッコつけさせてくれよ?」
俺の言葉にキョトンとしてライムちゃんは、しばらくして、その顔が大笑いに変わった。
「シダンはん、良くないでぇ、それ?ウチみたいにギフトがなかったら、女の子は、みーんな勘違いするで〜?」
「でも、ライムちゃんは勘違いしないだろ?」
「違うとわかっていても、シダンはん、イケメンだから心臓に悪いわー」
カラカラと笑い続けるライムちゃん。
「ま、タダで気が引けるって言うなら、ほかにも身体で払ってもらおうかな」
「やっぱりエッチな…」
「それはもうええっちゅーねん!」
毒されすぎて、言葉が感染ってもうた。これは、あかん。
「で、ウチは、何をすればええのん?」
「あー空いている日にデートしてくれない?」
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