第34話 リーゼの能力
そんなこんなでリーゼのしつこさに根負けして、パーティーを組むことになった。
ま、汗臭いおっさんとか、小うるさいおばさんだったら、いくらしつこく言われてもイヤだけど。明らかにこっちに好意的な美少女を、そこまで邪険にはできない。俺だって男なんだから。
まずはハンター協会に行き、パーティーの登録をする。パーティーはハンターの小チームだ。
モンスターの性質上、ハンターはチームプレイで挑むことが多い。モンスターを探す役、仕留める役、必要に応じた壁役、それ以外のサポート役、いろいろある。
「拠点登録…俺と、このリーゼでお願いします」
パーティ登録は、拠点登録とも呼ばれて、どこの国に拠点をおくか、という登録にもなる。
ハンター協会は、ハンターに適材適所の仕事を回す必要がある。そのため、誰と誰がチームを組み、どこにいるか、把握する必要があるのだ。
また拠点には税金を収める必要がある。この税金は、拠点としている国の公共サービスを享受するために必要なものだ。
「
2人のハンター証を渡す拠点登録の旨を伝えると、受付の
「シダンさん、リーゼさん、共にすでに、今月分の税金はいただいていますので問題ありません。年齢と比較して、階級は高いですが、初めてなので、経験者と組むか、比較的優しい仕事を受けて頂くことになります」
「わかりました」
ままある、地球世界の架空物語で「冒険者ギルドの壁に貼り付けられている依頼票」という類のものはこの世界のハンター協会にはない。というより、そもそもハンターは自由業ではないのだ。
依頼票は仕事が割り振られたときに渡される。
ハンターは、移動などの自由はあるが、実際には拠点登録後は、向こう側から勝手に適材適所の仕事を回してくる。もちろん仕事の要望を伝えることは可能で、要望に合わせてかなり自由に仕事を割り振ってはくれるが、基本的には仕事は業務命令だ。
その代わり、給料は月給制だ。階級3からではあるが、階級に応じて決まった給料が貰える。仕事をこなすと難易度次第では年2回の特別報酬に大きく反映される。
それでも軍隊を率いて、遠征するよりは遥かに安上がりで済む。需要がなくならないわけだ。
「仕事に関して、何か要望などはありますか?」
「できれば、シマット方面に移動したいので、そちらの方面の仕事をお願いします」
俺は受付嬢にそう要望を告げた。リーゼと組んだが、キースさんたちと組むことも忘れてない。状況によるが、2人で入れてもらう必要があるだろう。そんななんで、できればキースさんたちのいるシマット方面に向かう方面の仕事を頼んだ。
「わかりました。受付番号札32番をお渡ししますので、しばらくハンター協会近辺で待っていてください」
「了解しました」
※※※※※※
騎士は、敵と直接、切り結ぶため、フォワードが絶対的な花形だ。だが、ハンターは狩人。遠距離から狙撃することも、かなり多い。
とは言え、いつも遠距離で仕留められるとは限らない。むしろ群れを残さず仕留める、タフな大型と戦う、という場合などは、往々にして、接近戦が発生する。
近接で戦う備えをしつつ、可能な限り遠距離で仕留める。それがハンターの戦い方だ。
とにもかくにも、俺はリーゼとパーティーを組んだ。本来ならば、相手の相性とか考えて組むのが常道だ。しかしリーゼとは完全になし崩しで組んでしまっている。だから、コンビネーションを確かめる必要があった。
仕事を探してもらってる待ち時間があるので、ハンター協会の裏手にある運動場に再び来た。さっき俺らを冷やかしていたハンターはもういなくなっている。
「リーゼは遠距離からの武器は何を使うんだ?」
「ボクはこれかな」
と手元の
「本音はギリギリの近距離でモンスターとど突き合いしたいんだけど、流石にそれじゃあハンターとしては失格だからねー」
「ハンターはこっちがいかに消耗しないで倒せるか、が全てだからな」
リーゼが
やべぇなこの射程そして、破壊力。地球で
しかも着弾までが1秒はかかっていなかった。50メートルを0.5秒なら時速360キロ、1秒なら180キロ。弓矢の速度が時速200キロと聞くが、リーゼの投擲は、斧で弓矢と同じ速度が出ているようだ。
矢の重さが2〜30グラム、リーゼの投げている斧が恐らく軽量の2キロ程度のものと思われる。となると速度は同じ、質量は100倍なので、当たった衝撃はそのまま100倍はある。
「動く的だともう少し近くないと無理かな…ボクは急所を狙ってなんて器用な真似ができないからね、当たれば倒せる、くらいが丁度いい」
なにこれ怖い。低レベルのモンスター相手なら避けることすらできない必殺の一撃だな。
「手元にある二本を投げちまったら、どうするんだ?」
「普段は、もう少し持ち歩いているんだ」
クルリと、リーゼが背中を向けると、腰のあたりに革製のストッカーが下がっていた。弾はそこに置いとくのね。確かにさっきの
「それに…弾切れになったら、この拳で直々に沈めるだけかな」
リーゼの左右の手甲に、ナックルガードまでついているのも理由がよくわかった。
「ボクのギフトは、
「そして
はー、そういえばそうだったな。いやはや、ここまでギフトと
ちなみにリーゼみたいにギフトや
どういうことかというと、10倍は元の能力+900%、30倍は2900%の加算となる。つまり、リーゼの筋力の場合は、900+900で、元の能力の+1800%、要するに19倍になるらしい。
掛け算より少ないとは言え、19倍というのは充分に化け物だ。
地球でバーベル上げの重量はかなり慣れた一般人男性で100キロ。オリンピッククラスであっても300キロに届かないくらいだ。つまり地球での人類最高ランクは、一般人の3倍に届かないくらいなのだ。
それをリーゼは19倍。バーベル上げで約2トン、普通自動車くらいを持ち上げられることになる。ヤバい。
敏捷力についても研究が進んでいて、これは+3800%、つまり39倍の速さにはならないそうだ。聞くと上がる速度は平方根らしい。
つまり敏捷力4倍で、2倍の速さで動く、9倍で3倍の速さ、16倍で4倍の速さらしい。理屈は不明とのことだが、これは敏捷力の倍率が、発生するエネルギーの倍率なのでは?と思っている。
速さが2倍ならエネルギーは4倍になるからな。
ほかにも、筋力を強化する、ということは、自然と足の筋肉を強化する。そうなると敏捷力にも好影響が出る。また筋力強化は、骨格や頑強さにも影響を与えるため、生命力にもプラスの影響がある。
敏捷力強化や生命力強化も、同じく筋力強化にある程度プラスの影響がある。とは言え、敏捷力強化も生命力強化も、単にそれだけではない影響もあるため、筋力強化がすべてを補うわけではない。
何が言いたいかと言うと、リーゼは一般的に想像できる人間の枠を大きく踏み外しているってことだ。
「リーゼの速さを見たい…あの破壊した的まで全速力で走ってくれる?」
「おっけー」
そう言うと、ビューンという効果音が聞こえそうな速度であっという間に的まで着いた。的までの約50メートルをほぼ1秒で走った。
それなりにトレーニングした人の100メートルの平均は13秒程度。50メートルなら、6.5秒になる。39の平方根は大体6.2。6.2倍の速度ということは、計算上1.0〜1.1秒で、50メートルを走ることができる。
実測はさっき話した筋力の好影響もあるので、気持ち、それよりも早いかもしれない。
「要するに時速換算で、180キロも出るのか…やべぇな」
「えー?なにー??」
「いや、なんでもなーい」
ボヤキがわずかに届いたのか、リーゼが聞きかえしてしてきた。なんでもないことを伝えたが、この耳の良さもやばいな…
まもなく、シュバ、っとでも聞こえそうな勢いですぐにこちらに戻ってきた。
「速いでしょ!」
「速いな…しかし」
その速度と異常な筋力。それに反して、どう見ても胸部以外が普通未満のサイズなリーゼの身体。殴ったり、蹴ったりしたら、反作用で下手したら自分が反対側に飛んでしまいそうだ。
「リーゼが近接戦闘して、下手に殴ったりしたら、自分が反対側に飛んじゃうんじゃない?」
「シダン、
おおう。
「いくつか、解決方法があって、簡単なのが、反発の少ない刃がついている武器を使う。だから
確かに切り裂けば反発は少なくなる。
「次に自分が重い装備をする…ハンターではあまりいないけどね」
抑え込めるだけの重量にしてしまう、ということか。しかし、ハンターは重量ある装備を嫌う。
さらに重量のせいで長旅に向かない。手入れもかなり面倒だからだ。
「最後に反発も戦いに組み込んじゃうってやつ」
「どういうこと?」
「アッパー気味に打てば、反発が地面に向くので、戦いの邪魔にならない…それに混ぜて、普通に打つことで、意図的に相手と距離を取るのに使ったりするのに使うんだ」
「なるほどね」
「アッパー気味に打つのも、相手との距離を取るのも小柄の方が有利。だから
たしかにリーゼは、かなり小柄だ。スラっと身長が伸びて急速に大人っぽくなったロゼッタと違って、リーゼはどこか仔犬めいている。
子犬っぽい可愛らしさを持つ小柄なリーゼだが、よく見ると首や、足首など、骨の太さがわかりやすいところを見るに妙に骨太だ。
これは
単に筋力が高いだけでは、普通の骨では耐えることができず、圧迫骨折をしてしまうだろう。
そのため、先程、好影響の話をしたように、筋力や敏捷力に補正がかかる
ただこれは
「で、シダンは?さっきやってた
「そうなるかな」
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