3章:グルメ旅と旅先の美少女と犬耳少女

3章前半:犬耳と狩りと上がる階級

第31話 3年後

参事官が起こした騒動から3年。


12歳となった俺とロゼッタは、今日、孤児院を出る。この3年、小さなトラブルは無数にあったが、大きな波乱というようなことはなく、順調に過ごして来られた。


孤児院では、本人の申告がない限り、年齢などは一括管理しているので、4月になると自動的に年齢が、加算される。つまりロゼッタと俺は、同じ日に12歳になった訳だ。まぁ、赤ん坊の記憶から逆算しても、たぶんそれくらいが生まれた日っぽくはあるんだよね。


領主様の手配で訓練もバッチリこなしてきた。


「「院長先生、お世話になりました」」


孤児院の玄関。残る孤児たちや院長先生に見送られながら、俺とロゼッタが声を揃えてそう挨拶した。残る孤児は泣きそうな顔をして、院長先生は破顔した。


「シダンにいちゃん、ロゼッタねえちゃん…ううう」


先程まで泣きそうだったリマが、ついに涙腺崩壊してボロボロと泣き出した。出るのを止めるわけにもいかないので、こればっかりはどうしようもない。リマの頭に手をおいて、ポンポンとなででやる。


「リマ、最近、料理も上手になってきたなー」

「うん。頑張ってる」

「またさー食べに来るから練習しておいてくれよな」

「うん」


次に、リマの隣で同じように泣きそうな顔をしたシマに声をかける。


「シマ、リマをちゃんと守ってやれよ!」

「わかってるよ、シダンにいちゃん」


シマは最近、木剣を持って素振りしてる。将来は兵士になるつもりのようだ。


「しばらくしたら、戻ってくるからな、気長に待っててくれ」

「おう!必ず俺がここにいる間に戻ってきてよ!男の約束だぜ!」

「ああ」


シマとは、そう言って握手をした。ふと会話が止まったタイミングで次は院長先生が話を始めた。


「2人がいて、助けてもらうことの方が多かった気がします。2人なら立派にやれると思います。頑張ってください…いつでも戻ってきて大丈夫ですからね」


院長先生は、そう言うと、まずはロゼッタの方を向く。


「ロゼッタ…貴女は頭はいいのですが、時折びっくりするくらい無鉄砲になることがあります。自分を大事にしてください。特に最近、魔法を覚えてから、お転婆に拍車がかかっていますよ」

「えへへー」


ロゼッタはこの3年で、めちゃくちゃ美人になった。それはもう人口10万人程度の辺境町コーダエでは知らない人がいないくらい。


そして、ギフトではなく、森人種エルフ種族特性ミラクルによる魔法素養マジョリーの適正魔法を練習し始めてからは、さらにその知名度を広げてしまった。


そういった知名度のせいで、豪商とかよくわかんない貴族とか、12歳になったら、妾だか側室だかに来いって話がここ1年はひっきりなしにきていた。この世界ロリコン多すぎだろ。


たまに旅のやつで、事情知らないやつが突っかかってくることもあったが、すべて俺の苗木の根ルートで縛り上げて、ご退場していただいた。


「シダン…貴方は私が何か指摘することもありませんが、ハンターは大変と聞きます。無理はしないように」

「ありがとうございます。ある程度、成功したら顔は見せますので…そのうち土産話を聞いてください」

「ふふふ。シダンはしっかりしてますね」


転生して12年になる。ここまでいろいろなことがあったが、ついに本日より、俺は独立して生きていくことになった。


長かったような、短かったような。名残惜しいが、ロゼッタと俺は院長先生に手を振り別れを告げ、街の方へ向かって歩き始めた。


しばらく歩くと、街外れにある馬車駅につく。ロゼッタはそこで立ち止まった。ロゼッタともお別れの時だ。


「じゃあ私は、この馬車に乗って、ハンター協会の本部がある、ブキョウ博国までいくから」


ロゼッタはハンター協会事務員として採用が決まっている。その研修のため、ハンター協会の大本部があるブキョウ博国までいく必要があるのだ。


「うん。わかった。配属が決まったら孤児院に連絡してよ。そのうち会いに行くからさ」

「でも…研修は半年かかるし、研修終わってからも、結構あちらこちらたらい回しされて仕事覚えるんだって」


ポツン、と寂しそうに言う。お互いが、自分自身で決めた道とは言え、3年ずっと過ごした間柄だ。別れるのが、寂しくない訳がない。


「そっか…でも、俺もこれからハンターとして本格的に活動開始するから、案外すぐに再会できるかもね」

「うん。楽しみにしてる」

「あ…そういえば、大事なものを忘れるところだった。これ、ロゼッタに上げるよ」


手持ちのカバンに入っていたブレスレッドを取り出して渡す。誰がどう見ても安物のシルバー製品のアクセサリー…に見える。が、実はこれ、魔鋼製の魔法道具マギーツールだ。


「え?シーくん?これは?」

「まー御守みたいなもん。ロゼッタの魔法の発動がしやすくなる効果がある」


そう聞いて、魔法道具マギーツールであることがわかったロゼッタは目を丸くする。


魔法道具マギーツールなの?これ!?めっちゃ高いんじゃ!?」

「ま、まぁ?それなり?」


それなりなんてもんではない。ロゼッタ用に効果を限定して作ってもらった特注品だ。領主様にコネクションを紹介してもらい作ってもらってる。値段はなんと魔鋼貨65枚分ちょい1億円はする。


俺はこの歳にしては、かなり金持ちだ。だからこそプレゼントすることが出来たのだが、それでもほぼ全財産が吹っ飛んだ。


実は生活に目処をつけるためにはじめた治療だったが、貯まっていく金がかなりのもので、次第に使い道に困り始めた。贅沢な悩みではある。


孤児院に寄付しようとしたが、やはり院長には断られた。贅沢に慣れすぎるのもよくない、ということらしい。


生活についても、意外と収入のしっかりしたハンターになるのも決まっていて、持ってても特に使い道は思い浮かばす…。


そのうち、声をかけられまくる割に、どんどん無鉄砲になっていくロゼッタを見て不安を覚えてきて…2年前から準備していたのだ。それに、あの事件のときを思えば、命の恩人でもあるわけだし、これくらい渡したっていいだろう。間に合ってよかった。


ちなみに半額は領主様が出している。そうあの事件のあと、領主様は、ロゼッタに褒美の話をしたら、


「私はシーくんのためにやっただけです。褒美を頂くようなことはしていません」


と拒絶されたらしい。なんともロゼッタらしいというか。そこで、領主様がこの話に飛びついてきたわけだ。領主様からは、ロゼッタには秘密にしておくように、と念押しされてる。


「ロゼッタの魔法の中でも、完全障壁パーフェクトウォールの体力の消耗を5分の1で発動できるってやつ。それとそれロゼッタ専用だから他の人には使えないよ」


あまりにも強力な効果に更に目を丸くしたロゼッタだが、やがてポツリ、と口を開いた。


「なんで?…こんな高価なアクセサリーを?私に…?」

「ハハハ、ロゼッタは無鉄砲だから、自分の身をちゃんと守れるようにってね」

「バカぁ…ありがとう…シーくん。もう、じゃあ…そうだ、お返しにこれ…」


ロゼッタは、首から下げていたネックレスを外すと、俺に渡してきた。これは…琥珀か?琥珀の中には、小さな花が埋まっている。


「私、9歳より前の記憶がないの」

「…なんとなくそんな気がしてた」


孤児院は、いろんな境遇の子が来るので、過去の詮索はタブーだ。それにしてもロゼッタは、過去のことを一言たりとて漏らすようなことがなかった。


欠片もそれを感じさせることがなかったため、よほど思い出したくない過去なのか、あるいは記憶がなく過去が存在しない同然なのか、どちらかだと思っていたが…。


「そんな中で、始めて出来た…ううん、記憶の1番最初にいる友達がくれたネックレスなんだ…今あの子が何してるかわからないけど…大事なやつだから…だからシーくん、返しに来て。再会の約束」

「わかった…そのうち、必ず返しに行くよ」


まもなく到着した馬車に乗り込んだロゼッタに手を振る。プレゼントを貰えた嬉しさ?あるいはしばらく会えなくなる寂しさ?それとも感極まった?いろんな感情がまじった涙を流すロゼッタが、窓から顔を出し、手を振り返してきた。


ヒヒーン、と馬が嘶き、馬車が動き出す。


「シーくん、ばいばーい!ぜったいにまた会おうね!楽しみにしてる!」

「ロゼッタ!また、会おう、必ず!」


遠ざかっていくロゼッタ。俺らは、お互い見えなくなるまで、手を振り続けていた。馬車が遠く向こうの、木の陰に隠れ見えなくなってから、1分ほどして、俺はようやくその場を離れた。


ずっと、一緒にいたのだ。隣にいたロゼッタがしばらくはいなくなることに、ぽっかりと穴が空いたような気持ちになった。


しかし、これは決して、永遠の別れではない。今後、大人になって、もっといろいろなことに自由が効くようになれば、いくらでも会う機会があるだろう。俺もロゼッタも幸い寿命はだいぶ長そうだしね。それまでの準備期間だ。


よし。うじうじしてもよくないな。気持ちを切り替えていこう。俺もようやく念願の旅に出られるんだから!


俺だが、まずハンター協会に顔を出す必要がある。というのも正式にハンターとして活動するために、改めて届け出が必要なのだ。


まー、流石に3年通っただけあり、ハンター協会の建物内には顔なじみしかいないし、手続きも煩雑なものではない。


「12歳になったらパーティーにとは言っていたが、そう言えば、キースさんたちとどう合流するか決めてなかったな…」


もちろん、時期的にそろそろであることは知っているだろうが、キースさんたちも仕事があるだろう。そもそも最近、キースさんたちを、コーダエで見ていないんだよなぁ。


「おーシダン、今日が12歳だったね、待ちわびたよ」


ハンター協会の建物に入ると、支部長が俺に気さくに声をかけてきた。参事官が起こした騒動のときも急ぎでハンター証を手配してくれたりと、有能な人だ。


ちなみに俺をハンターとして確保した功績で、まもなくマーリネ農業国の首都マリネットの協会本部長へと栄転するらしい。


「はい、キースさんたちの居場所を知りたくて」

「キースからは手紙を預かっている…どうやら隣国のシマット商業国の首都ロクフケイにいるらしいぞ」

「そうなんですね」

「それより…これだ」


支部長は、1枚のカードを出してきた。


「あ、階級41人前のハンター証ですか?」

「そうだ。受け取りの手続きとかあるから、そこでしばらく待っててくれ」


支部長は、そう言って奥に引っ込んでいった。ハンター証の交付はたしかに、手間はかからないが、それなりに時間がかかるからな。何時間もかかるものではないし、特に今日なにかあるわけでもないので、ノンビリとするか。


受け付けの椅子にもたれかかり、ゆっくりと待つ気になった俺に、突如、背後から声がかかった。


「なんでキミみたいなのが、ハンター入り出来る年齢で、すぐに階級41人前なんだい?」

「誰?」


振り返ると、声をかけてきたのは、同じ年くらいだろうが、かなり小柄な感じの女の子だった。キュッとした目と、ショートボブの茶髪といい、キツそうな顔だがかなり…いや滅茶苦茶な美人だ。


どれくらいかと言うと、ロゼッタといい勝負ってレベル。だが、それより頭の上にある犬?っぽい耳がめちゃくちゃ気になる。


その滅茶苦茶な美人さんが、何故か、俺を睨みつけている。残念ながら、これでは可愛さが半減だ。


「ボクはリーゼ。階級3半人前のハンター」

「はぁ…?それでそのリーゼさんが何の用事ですか?」

「キミみたいな線が細いのがなるってことは、どうせコネか詐欺か何かだろ?そんなやつが階級41人前になることが腹立つんだよね。ハンター協会に迷惑だから、いますぐ辞退してくれないかな」


滅茶苦茶な美人が滅茶苦茶な言い掛かりをつけてきた。

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