第28話 狙いは…!?
「く…くそガキが…なら本当に孤児院のガキどもを殺してやるわ!後悔するなよ!!」
孤児院を襲うという宣言に、俺が全く動じないためだろう、第1席参事官がやけくそ気味にそう吠えた。
官僚上がりで、貴族である領主を、ここまで追い詰めた手腕あるくせに、何だか頭悪そうだな…。
まぁ、緻密に途中まで組んでいる癖に、勝利が見えてくると雑になるやついるよね。詰めが甘いってやつだ。
いやいや、俺みたいなイレギュラーを想像する方が難しいか。医師も抱き込んでいたとなると、普通に考えて領主を治療する手段なんてないからな。
そんなことを考えていたら、ダイニングの扉をコンコンと叩く音がした。
「くくく、盗賊たちが、お前の仲間を全員殺してしまった報告かもなぁ」
くそみたいな想像で、悦に浸る参事官。ほんとこいつゴミな精神しているやつだな。第1席参事官になるくらいだから、優秀な人間だろうに、どこで歪んだのか。
ノックの音に応じて、ドアに待機していた使用人が、小さく扉を開けて、外にいる人に要件を確認する。少し言葉を交わすと、こちらを振り返った。
「騎士団の方が面会を求めていますがいかがしましょう?」
使用人は、領主様の配下だからだろう、第1席参事官はガン無視して、ストレートに領主様へ尋ねた。しかし、それにも関わらず、第1席参事官は話に割り込んでくる。
「んん?…騎士団だと?」
「はい、騎士団の方です…盗賊を捉えたので報告にあがりたいとのことです」
使用人はこの場合、第1席参事官を無視しても良いんだろうけど、参事官が嫌がる情報だとわかっているのだろう、喜々としてそのことを伝えた。
「と…盗賊を捉えただと?」
「はい」
第1席参事官の疑問に答えるように、バン、扉を開ける音がして2人の騎士が入ってきた。そして、2人は、紐で完璧なほどに、グルグルにされた男を、ゴロン、と床に転がした。
「領主様、報告してもよろしいでしょうか?」
騎士たちも、騎士たちで、第1席参事官をガン無視で、領主様の前で立て膝をつき、頭を垂れる。第1席参事官は「ワシが許可してないのに勝手に入ってくるとは!」とかブチ切れてるが、部屋の誰もが無視していた。
「報告せよ」
「はっ!郊外の孤児院へ盗賊30名が襲撃をしかけてきました。領主様が命で、本日こちらにいらっしゃる孤児院長の替わりとして護衛任務についておりました第2小隊第1班の8人にて、29人を殺害。リーダー格と思わしきこの男のみ捉えて、連れてまいりました」
「ふむ、ご苦労だった…して第1班の残り6名は?」
「再度の襲撃を警戒して、引き続き、護衛任務についています」
「ふむ…では、捉えた者を、どのような拷問にかけても構わないので、事情を聴取せよ。孤児院への襲撃に30人は普通は考えられない。何らかの事情があるのだろう。背後関係などもあるかも知れぬしな」
盗賊に忠誠心などあるわけない。恐らく拷問という言葉だけで、ペラペラと事情を喋って、自らの減刑を図るだろう。
「いやいや、コーダエ卿、盗賊は即刻縛首が法です。拷問もなにもありません」
当然、第1席参事官としては、事情聴取をされたくない。だからだろう参事官は、随分と無理のあることを言って、この場で盗賊を殺そうとする。死人に口なし、とは言うからな。
「どうせ処刑はする。だが、この襲撃は不可解すぎる。流石に背後を探らないわけにはいかない」
領主様は第1席参事官をジッと見ながら、そう強く言い切る。しかし、それでも第1席参事官はまだ折れないようだ。まぁ、もうここを守らないと破滅確定なわけで、そりゃあ貴族相手に無礼であってもヤケになるか。
「ふむ。盗賊は拷問を恐れて、自殺してしまうこともありますからな。それよりは、ここで処刑した方が、よい結果かもしれませんよ?」
だが、ヤケクソ気味なはずの第1席参事官の話し方が…急に妙なものに変わった。
第1席参事官は、領主様に話しているようでいて、何故か、チラチラと…盗賊を見ていた。
牢屋にぶち込めば、役人を握っている第1席参事官は盗賊の処遇など、どうとでもなる。
よくよく考えてみれば、第1席参事官の官僚の握り具合を見れば、拷問をするということにして牢にぶち込んだあと、自殺に見せかけて殺すことだって、逃がすことだって可能だ。それなのに先程から、牢獄に入れるのではなく、処刑にこだわるのは何故か?
「もっと事情を聞くべきことがあれば一旦は牢屋に入れるべきでしょうが…いやいや、やはり処刑をすべきでしょう」
そういいながら、第1席参事官はまた盗賊を見ている。
一体、何を狙っている?参事官は、この盗賊に何をけしかけているんだ??
先程から、「処刑をすべき」と第1席参事官はしきりに盗賊を見ながら話をしている。それは、まるで、この場で何かしなければ処刑するぞ、と盗賊に対して脅しをかけているようにすら見える。
しかし、ここで盗賊や第1席参事官ができる逆転の一手なんてものが、まだあるのだろうか?だとしたら、一体なんだろう?
領主様を暗殺すること?
いや、しかし流石にそれはしない…。もしそれが出来るならば、もっと前に第1席参事官は領主様を殺したはずだ。
第1席参事官としては、領主様は死なずにかつ政治に参加しないくらいが良いのだろう。となれば…俺を殺す?しかし、それはまずないと領主様が話していたような…。
(
ロゼッタが、俺にギリギリ聞こえるくらいの小声でギフトを発動した。
「ロゼッタ?どうしたの?」
「…何となく嫌な予感がして」
ジッ、と盗賊を見ていたロゼッタだが、ふと訝しげな顔になる。
あれ?領主様は俺を殺しはしないとは言ってきたが、同時になんか言っていたな…確か…。
「あれ?なんだろう?あの盗賊の手首のところ…変な感じがする」
「…??ロゼッタ??何か見つかった??」
「…!!!!」
ロゼッタが息を呑んだとき、捕まっていたはずの盗賊の腕が大きくゴキっと鳴った。
「なっ!?」
そうだ!相当に追い詰められなければ俺は殺されないと言っていた。逆に言えば、相当に追い詰められた今となると…第1席参事官が盗賊の処刑を仄めかしたのは、俺を殺せというサイン…!
盗賊は関節を外し、縄を抜けた。それに気づいた騎士が止めるよりも先に、関節をはめ直し、黒く鈍く光るナイフを俺に向かって、投げつけてきたのだ。
「シーくんッ!!!」
ロゼッタは、そう叫びながら、俺を突き飛ばした。
ナイフはさっきまで俺がいた場所…いま俺を突き飛ばしたロゼッタがいる場所…に一直線に飛んでいく。
突き飛ばされた俺が何できるわけもなく、無抵抗なロゼッタの左腕に、まるで吸い込まれるかのようにナイフが刺さった。
「くっそぉっ!!」
突き飛ばされた状態から、踏ん張り、倒れるのを避ける。そして、すぐに一歩踏み出し、倒れるロゼッタを左手で受け止めると、右手で突き刺さったナイフを投げ捨てた。
「大丈夫だ!今度も俺が治す!」
傷口に右手をかざして、
「くそ!毒かよ!!」
すでにロゼッタは意識が朦朧としているのか、目を開けているが、焦点が全くあっていない。
「う…うあ……」
「もう1回だ!
苦しげに呻くロゼッタ。
「何でだよ!治しただろ!」
ロゼッタの顔色は見る間に白くなっていき、血の気がみるみる引いていっている。
「何度でもやってやる!!!!!
治りしても、治しても、まったく追いつく感じがしない。手ですくった水がこぼれていくように、急速にロゼッタの生命が失われていくのが、彼女を抱きかかえる左手から伝わってきた。
もしかして、いくら身体の組織を治しても、ほぼ即死するような強力な毒だとペースが間に合わないのか!?
「大丈夫だ!俺が、絶対に!治す!」
唇をギュッと噛み締めて、もう一度!
「絶対に治してやるッッ!!!!」
俺が叫ぶと…手が…光った…!!
この光は…あのときの…!
あのときの、前にもロゼッタを助けたときの、光りがまた…!!
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