第14話 ギフトが進化した?
傷が完全に塞がったとは言え、ロゼッタは流石に足を上手く動かせないようだ。俺はロゼッタを背負いながら、山を降りることにした。
流した血が多かったのか、疲れてはいたようだが、ロゼッタの意識ははっきりしていた。
「シーくん…」
「なんだ?足痛いか?」
「だいじょうぶ。あの…シーくん…ごめんね…私背負うの大変でしょ?」
「気にすんな。助け合おうって言ってたじゃん」
少しの間。
ロゼッタは、さらに背中から抱きつく力を強くしてきた。もともと近かったロゼッタの顔がさらに近づいて、息遣いまで耳元で聞こえてくるから、なんだか妙にくすぐったい。
「うん」
「だから、これもそれだ。俺なんか朝初めましてって挨拶してすぐにロゼッタにかばってもらったり、おいしいご飯をもらって助けられたんだから、こんくらいさせてくれ」
「…………うん、ほんとにありがと…」
ロゼッタの表情は背中にいるから見えないが、むしろその重さが心地よかった。なぜあの時、手が光り、血が止まったのか、わからない。
「本当になんだったんだろう…あの光は…」
新しい力を授かったのか、奇跡が起きたのか、わからないが、助かったのなら、それでいい。何より女の子を助けられたことが誇らしかった。
結局、孤児院までずっとロゼッタを背負って帰った。さすがに、起きたことを黙っているわけにもいかなかったので、院長先生には怒られることを覚悟ですべて報告した。
当然と言えば当然だが、2人揃って、院長先生には、ものすごく怒られた。ものすごく怒った後に「普通は日に2回などやらないのですが」と言いつつ、俺に再度、
疲れ切ってるロゼッタを部屋に送って、ベットに寝かしつけたら、院長先生の部屋を訪ねた。院長先生の部屋はみんなの部屋と同じ並びで、少しだけ広い程度の部屋だった。
「ギフトは進化します」
「進化?ですか?」
「そうです。進化です。ランクB以下ではめったに起きませんが、ランクAは比較的進化が起きやすいことがわかっています。進化するきっかけは、ギフトによるので、理由まではわかりませんが」
院長先生はそう話した。つまり俺のギフトが進化した可能性がある、進化した理由はわからないけど、ということなのだろう。確かに俺のギフトに傷を治す効果はなかったからなぁ。
しかし、なんで進化したしたんだろう?やっぱり美少女のピンチに覚醒したのかな?
「…ぼくのギフトが進化した結果、ロゼッタの怪我を治せたのかもしれないということですね…」
「そういうことです」
「わかりました。院長先生、
こくり、と先生が頷く。そして、今朝やったように懐から紙を出して床に置くと、俺に向かって両手の平を向けた。
「
ジジジ、と焼けるような音がして、床に置いた紙に文字が浮かび上がる。やがて両手を下ろした院長先生が床に置いた紙を拾った。
「はい。出ました。」
ランクA+
樹精霊の身体になり、植物に近い性質を帯びるようになる。実体を得る前の精霊を見ることができる。人間種のかかる病気にならない。動かずにいると知能の低い
光合成により光と二酸化炭素で食事を代替できる。光合成の結果、酸素を吐き出す。大気に酸素がない状況でも活動できる。
素足をつけることで、水分を吸収する。また根や地下茎を急速、かつ自由に伸ばし、動かすことができる。根から水分を吸収することもできる。根や地下茎の切り離しは自由。生やしている状態だと
薬効のある葉を生やせる。葉を当てた周辺体組織のあらゆる損傷の回復。ただし自然治癒が起きない欠損は治せない。生やした葉は痛みなく簡単に切り取れる。生やしている状態だと
「やはり、シダンのギフトが進化して、特性が増えていますね」
「このランクの横の+って…」
「ランクの横の+は進化回数を表していますよ…もし、また進化をしたら、+が2つになります」
鑑定結果が書かれた紙を俺に渡しながら、院長先生はそう言った。
「つまりいま+が1つ、ついている、ということは1回だけ進化をした証拠、ということですね」
「そういうことになります」
渡された紙を受け取って特性の中身を確認する。前は実にシンプルなことしか書いていなかったが、今回はいろいろ書かれていて、何だか豪華だ。
「何と言うか…今朝、院長先生に鑑定して見せてもらったときとは別ものです」
「そうですね…私も朝見たのでよく覚えていますが、ようやくギフトっぽくなってきましたね」
横から俺が持ってる紙を覗き込んで、ふーむ、院長先生は唸った。
「何より、以前は
種が発芽して、ようやく植物らしい特性を持つようになった、というところだろうか?
「進化するとギフト名まで変わってしまうものなのですか?」
「ええ。有名な
「
「ランクAで、卵生の
院長先生は、顎に手を当てて思い出す仕草をする。数秒立って、両手をポンと叩く。
「そうそう思い出しました…
「古い文献ですか…ほかにも記録とかないんですか?」
そんなに例が少ないのか…。鑑定に使っているところを見るに、紙はそれなりに普及している。それならば、文献も残っていていい気がするんだけどなぁ。
「ここは北限の国、マーリネ農業国です。古い記録文献を見たいならば、ブキョウ博国に行くしかないですね」
「ブキョウ博国…」
「馬車旅で3月は覚悟してください。マーリネの南西にあるシマット商業連合国を越えたさらに南の国になりますから。世界最大の図書館、モンカア図書館があるので、そこまでいけばあるいはあるかもしれませんね」
「おぉぉ…見たいけど…それはいくらなんでも遠すぎますね…」
馬車が1日50キロ進むとして4500キロ以上先か…。交通手段が限られているだろう、この世界では大旅行だなそりゃあ。
「なので、もし行きたいとしても、大人になるまでは我慢してください。そもそも
ギフトはランクEで100人に1人。Dで1000人、Cが1万人、Bが10万人に1人だ。
紀元前後の地球でも、2~3億人程度の人口は居たという。この星の大きさは地球とあまり変わらないのは計算済み。そして鑑定でこの世界の縮尺が地球と同じこともわかった。
仮にこの世界の人口が2億人として、ランクBは2000人。となるとランクAは1~200人ぐらいか?中でも少ないという
確かにこの世界の情報共有の未熟さを考えると、記録も残すのは難しいかもしれない。
「ただマリーも話していましたが、ランクは希少性だけの話で、能力の強度が高いとは限らないのです」
「なるほど、確かにマリーさんがそんな風に話していましたね」
「極端な例ですと、ランクAの
おい。ひでぇなそれ。悲惨すぎる最後だ。
飽くまで希少性が高いだけの話、ね。と言うことは、俺と同じなのはもちろん、似た特性を持つやつも少ないんじゃないか?
「院長先生、この
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