あーこっこダメ馬伝説
おそらくどの乗馬クラブでもダメ出しする悪癖
ここまであーこの「ダメ馬伝説を払拭したい」と書いてきましたが、具体的にはどんな? と思われた人もいるでしょう。
その中で、最もダメなのが……。
人を乗せたまま、寝てしまう。
これ、おそらくどの乗馬クラブでも、そんな悪癖があったら、いりません! ダメでしょう! 危険すぎます! になる、最悪の悪癖です。
そんな悪癖があったら、誰も自分の馬にしたいなんて、思うはずがありません。
あーこは人を乗せたまま、何回もひっくり返りましたが、それで怪我をさせたことは聞いたことがありません。怖いことは怖いのですが、ひゃーとなって逃げるだけの時間的ゆとりがあるので、慌てて馬から離れて巻き込まれる例はなかったためと思います。
それでも恐怖心の伴う危険な悪癖であることは間違いなく、どうにかしなければならない一番の問題点でした。
まこさんは何度か、私も2回、Fさんも1回だけやられています。レッスン馬時代は、かなり頻度が高く、多くの人がやられていて、常歩で手綱を伸ばさないよう、常に気をつけて、気配を感じたら鞭で叩く、ハミをガツンと当てるよう、指導されていたようです。
しかし、やる時に全く予兆がなく、気がついた視線が低くなっていた、前膝をガクンとついていた、という早業で、なかなか防御できません。
あーこが人を乗せたまま寝るようになったのは、レッスン馬になって1年半ほどしてから徐々に、だと思います。
でも、私が最初に2カ月間だけ持った時にも、その片鱗は少しありました。
確かに、どうも調子が悪いところがあると、眠気がくる、ということがあったのです。
あーこの蹄がホタテのように酷かったので、私は装蹄師さんに頼んで整えてもらいました。
ところが、整えたことにより、蹄が痛くなってしまいました。
馬装して腹帯を締めると眠りそうになり、引き馬してもまともに歩けず、乗るのを諦めて丸馬場に放牧すると、ゴロンと横になって起き上がりませんでした。
数日しても、ゴロンゴロンと横になってばかりで、起きあがろうとしない。再び装蹄師さんを呼んで、今度は蹄鉄をつけてもらい、それでやっと乗ることができるようになりました。
後から思えば、その片鱗はあった……と言っても、あーこは馬装で寝ることも、人を乗せて寝ることも、その頃にはありませんでした。
そうなるとは想像もつきませんでした。
クラブハウスでその話題になれば、ダメ馬だから、わがままだから、どうしようもない馬だから、嫌な馬だなぁ、当たりたくないわ、という話ばかりが聞こえてきます。
私が2カ月間持っていた時は、そんなことは一切なかった、だから、要因はレッスン馬になってから、何かがあったに違いない、と考えるのが普通だと思います。
それなのに、冗談なのかも知れませんが。
「あなたが一時期持っていた時に、わがまま放題させていたからじゃないの?」
と、言われた時には、こいつ、はっ倒してやろうか! と思うほど、腹が立ちました。
でも、そこは笑って誤魔化すしかありませんでした。
なんせ、私は馬に好き勝手放題されているように見えるのか、馬を甘やかしてダメにして喜んでいる人、と思われていたようですから。
馬の行動を観察しているのだ、などと言っても、笑われるだけです。
私は、私なりにあーこが寝てしまう原因を考えました。
自分の馬でない段階での推測には、ある程度の限界がありますが、2つの要因を考えました。
一つは、レッスン馬は皆、砂浴びをする機会がほとんどない、ということです。
お借りして、乗り終わって砂浴びをさせると、お前、一体、何回ゴロゴロすれば気が済むの? と呆れるぐらい、皆、何度もゴロゴロします。
馬房が狭い上に掃除がなかなか行き届かないので、ゴロゴロすることができないのです。
そして、鞍のあたりなど、垢が溜まり、ひどい馬は皮膚病になっています。
多くの人が扱う馬は、時にお手入れの下手くそな人や適当な人がいて、清潔にしてもらえない、ということがあります。
ですが、要因はそれだけじゃありません。
レッスン馬からは、特有の匂いがしました。
前述の蹄が悪い牝馬もそうだったのですが、皮膚が薄く、毛が柔らかくて艶がなく、蹄もガサガサしている馬が多かったのです。
お客さんから預託料をいただいている自馬とレッスン馬は別の飼料を与えていました。おそらくレッスン馬には質を落とした飼料を与えていたのだと思います。
ケラチンやビオチンなど、皮膚を形成する成分が不足していて、そもそも蹄を悪くしたり、皮膚病になったりしやすい状況だったかも知れません。
コストをできるだけ下げるのも安価で乗馬を提供できる企業努力でしょうし、これは私の想像でしかありません。
が、間違いなく言えるのは、レッスン馬たちは皆、砂浴びに飢えていて、皮膚にいつもストレスを感じている、ということです。
もう一つは、あーこが寝るタイミングです。
いつも見ているわけではないので、わかりませんが、たいていは、運動も後半になり、汗をかいてきた頃、時には馬場から帰る道すがらで、ゴロン、と寝ることがありました。
そして、寝られた人の多くは、再び乗ることもなく、ブツブツ文句を言ったり、馬を叱ったりしながら、引き馬で帰ってくるのです。
インストラクターも笑って「やられちゃいましたね」で終わり、乗り替わることもありませんでした。
これでは、倒れたらもう楽になる……と、教えているようなものです。
鞭で叩いて叱ったとか、怒鳴ったとか、きちんと叱りました、と、騎乗者はいうでしょうが、それよりも強い苦痛があってそこから逃れられるのなら、鞭も怒鳴り声も甘んじて受けるのです。
倒れたら楽になれる、それこそが、この悪癖を増長した最大の原因なのではないでしょうか?
そこに、馬らしい狡さ(?)も垣間見えます。
インストラクターにはやらない、倒れても楽にはならないだろう人が乗れば、やらないのです。
あーこにとって、一番嫌な叱り方は、もう一度、乗る、だったのではないでしょうか?
一度、乗る前にゴロゴロさせてみたら? という提案をしました。
でも、誰もが乗る前に寝られたら汚くなって嫌だ、という答えでした。
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