創造主の伝言

杜右腕【と・うわん】

調査隊員の日記

 9月27日

 北関東大学連合の合同調査隊として神降山こうぶりやま連山の奥の洞窟に来た。

 この洞窟は今年の初めに発見されたが、奥が深く、しかも自然物としては不自然な部分が見られたため、専門家による調査隊が結成された。

 正直なところ今回の件は気乗りしない。

「自然物として不自然に見える」ものなんて、いくらでもある。柱状列石を古代神殿の跡だと信じる人も多い。

 まあ、日当は出るし、私も地質学の専門家として隊員に選ばれた以上、出来るだけのことはするつもりだ。

 ベースキャンプ設営も終わったので、今日は寝るだけだと思ったのだが、どうやらみんなで親睦と云う名の飲み会をするらしい。これだから年寄りの集まりは……。


 9月28日

 初日は、二日酔いに苦しみながら、既に発見者が踏破した場所を調査しながら進んだ。

 なるほど、話に聞いていた通り、入り口に比べて中は非常に広くて深い。

 壁や床が滑らかな様子から見て鍾乳洞のようだが、その割には石筍や流れ石がほとんどなく、床面が幅の広い階段状になっていてかなり歩きやすい。

 また、天井から下がるつらら石はあるが、これも天井の中心部分に、奥に向かって列を為して並んでいる。まあ、この列に沿って過去に地下水が通っていたのだろうが、これを見て不自然だと感じた発見者の気持ちも良く分かる。まるで奥に向かって続く道案内のように見える。

 外はまだ残暑が厳しいのに、洞窟の中は初冬の寒さだ。

 いくら地底とは云え、気温が低すぎる気がする。

 今日は広場の奥に中継キャンプを設営して、ここで一泊。さすがに今日は誰も飲もうとは言わない。


 9月29日

 今日は広場の奥に続く、人が二人並んで歩ける程度の洞窟を進んだ。

 床が階段状になっていて歩きやすい。石灰華段丘だとは思うが幅が一定なのが気になる。壁も不自然に滑らかで凹凸が少ない。

 壁面の石を少し採取して簡単な検査をしてみたが、石灰石ではなかった。どうやらガラスらしい。おかしい。神隠連山は火山ではなく、この洞窟が火山洞と云うことはあり得ない。そもそも火山洞だとしても、こんなに滑らかにガラスコーティングされているはずがない。どう云うことだろう。


 9月30日

 洞窟の奥に、再び広場が現れた。

 石英のような黒光りした石筍が中央にあり、周囲の壁にも水平方向に石筍が生えている。横に映える石筍などあり得ない。

 あの中央の石筍が怪しい。調べてみよう。



 10月1日

 調査隊全員で話し合った結果、この洞窟は自然の産物であり、特別なものはないが、崩壊の危険性が高いので入り口を塞ぎ、進入禁止とする方向で政府に報告することになった。

 この結論は致し方ないと思う。人類に与える影響が大き過ぎる。だが、学究の徒として発見した事実を全く無かったことにするのは辛すぎるので、この日記に記しておく。

 黒曜石の石筍のようなものは、一種の記録装置だった。触れた者の脳裏に疑似記憶として映像が蘇るようになっていて、どういう仕組みか分からないが、初めて聞くはずの言語も理解できた。

 以下はその内容である。


《1日目》

 ああ、面倒くさい。

 何でこんな星をテラフォーミングしなければならないんだろう。

 惑星政府評議会の決定でR246星系の二惑星を移住先にすると決められたのに、何でわざわざ。

 上司には技術検証のためだとか言われたけど、それだってさんざん検証されてきているし。

 結局、年度内に予算を余らせないための無意味なテラフォーミングなんだよな。

 貧乏くじ引かされたわ。


《2日目》

 大気の改造と水の生成、植物の育成は終わった。待機成分の安定と、植物の過剰繁茂防止のために作った有機生命体も無事に増殖して環境はかなり改善された。


《3日目》

 移住用の環境を整えるために、テラフォーミング作業用人造生命体を投入。こいつらは自律的に自然に手を加えて、移住可能な環境を整えるために作られている。我々の命令を絶対として、その数を増やしながら環境を整えてくれる最新のバイオマシーンなので、放っておいてもテラフォーミングが完成するはずだ。少し休ませてもらおう。


《X日目》

 やばい、ちょっとだけ休むはずが、数万年経っていたらしい。

 バイオマシーンが増殖し過ぎて、この惑星に満ち満ちてしまった。しかも増殖過程でカラーバリエーションが出来たり、勝手に集団を作ったりして、暴走している。

 今はバイオマシーンが「国」と云う集団同士が、自分達で開発した機械を駆使して惑星上の全ての地域で争っている。本来はテラフォーミング用の機械が開発できるように与えた能力が暴走しているようだ。このままではこの星そのものが破壊されてしまうかも知れない。

 最近、俺が拠点にしていたこの島の西の方にかなり危険な兵器が投下された。そして今、二発目の爆発を感じた。

 上司に連絡したら

「やっぱりそのバイオマシーンは欠陥品だったな。分かった。もう良いからすぐ帰投しろ。もうすぐ移民船が出発するから、間に合うように急げよ」

 と言われた。

 やっぱりって何だよ!欠陥品だって分かってたなら実験させてんじゃねえよ。

 しかも、もうすぐ移民船出発って、いつの間にそんなに計画進んでたんだよ!!

 あ、これは俺が数万年も寝てたのが悪いのか。

 まあいいや。乗り遅れたらたまんないから、急いで帰ろう。機材も何も全部置いてく。

 と云うことで、この日記も置いてく。もしバイオマシーン——確か自分達では「人類」と呼んでいるはずだが、その人類がこの記録を見たら、己の存在意義を思い出して、反省して、その数を今の十分の一ぐらいまで減らすように。自分たちで上手くできないなら、隣の大陸の地下に隠した装置を使えば、バイオマシーンの活動を阻害して数を減らしてくれる駆除用ナノマシーンが作れるから、それを使うように。

 以上、お前らの創造主様からの伝言でした! じゃあな、あばよ!


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