21 魔法の世界観
アキトラードは、この町に来て多くの事を知った。
彼は、村でクリソヘリルのオリハルコン加工を手伝う上で、魔族と人間と、混血について教えられていた。
どうやら、クリソヘリルはアキトラードも魔族混血の末裔だと思ったらしい。
アキトラードは肯定も否定もしなかったが。
オリハルコンなどの特殊金属を加工する時に、彼等はソノ正体をさらす事があるので、動揺しない様にと予防線もあったのだろう。
この町に来て、その内容は更に広範囲に及んでいった。
この世界での定義で【人間】と【魔族】の違いは、簡単に言って『魔法が使えるか、使えないか』だ。
【獣】と【魔獣】の違いも同様だ。
魔法が使える生物は、大気中にある【魔素】という粒子を体内に蓄え、エネルギーとして利用し、事象変更している。
魔素は、主に心臓の近くに魔石の形で蓄え、魔法を使えば小さくなり、呼吸により体内へと蓄積されて大きくなる。
つまりは、許容量に物理的な限界が有るので、小さな肉体に膨大な魔力を蓄えたり、連続して大魔法を連発する事はできない。
また、寝ている時や気絶した時、死んだ時も魔法を継続する事はできない。
現実的な事を考えれば、その限界や制限は有って当たり前だ。
人間側で魔法が使える冒険者や魔法鍛冶者も存在するが、それは人間と魔族の混血か、その子孫らしい。
多くの混血は、幼い時から【隠蔽魔法】を修得して、魔族的外観を隠している。
アキトラードが見た範囲でも冒険者の多くは、死ぬと【人間らしい外観】を保てなくなっていた。
魔族の血を引いていて、外観に魔族の特徴が出ているが、魔法が使えない者も、中には居る。
そういった者達は、純粋な人間と接する場には出ずに、混血のコミュニティで裏方に徹しているしかない。
時おり、裏方が
人間社会において魔族との混血の存在は、関係者と支配階級しか知らされておらず、暗黙の了解となっているのは、魔族撃退の為に彼等冒険者の力を使う為となっている。
一般人には魔族と混血の区別が心情的につけられないからだ。
地球の現実世界においては【魔法】とは、悪魔か、悪魔との契約で得られる力と言われており、使用者は忌み嫌われている。
歴史的にも多くの人間が【魔女狩り】で命を落としている。
フィクションや多くのラノベにおいても【魔法が使える人間】が登場する。
たが、書物の中では【素質】だけで【魔法が使える者】と【魔法が使えない者】を区別している例が多い。
作品の中には、得手不得手は有れども、登場する人間の全てが魔法を使える物語りもあるが希少だ。
まるで【剣を振るえる人間】と【剣を振るえない人間】が居るかの様に、区別された世界観は現実的に無理があるので、この世界では【魔族の血を引いているから魔法が使える】となっているのだろう。
非力な人間が魔族に性的に襲われた場合、生き残れる可能性は皆無だろう。
逆に、人間が弱った魔族を性的な慰み物にした方が合理的だ。
だから、その前提として、魔族は飲食をしなくても、魔素の吸収だけで生きていく事だけはできる存在に設定されている。
これで【飢えさせ、魔力攻撃をできなくさせた魔族を奴隷として慰めものにした変態性癖の人間】の存在が、冒険者発生の元凶として設定されている様だ。
『ケモミミ少女最高~!』と騒ぐ者は、現実の日本にも居るのだから、現実味は有る。
長期的に見ると、この世界の歴史的な人間と魔族の盛衰は、定期的に入れ替わっており、勇者と魔王もその度に新しい者が台頭してきているそうだ。
衰退の波は、主に魔族側が支配権を持った時に、魔法の衰退や戦闘能力が低下する事と、常に弱体した側にだけ現れる【魔王】や【勇者】の絶大なる戦闘力が左右していると言う。
「どうも、田舎者には理解に苦しむお話しですね」
田舎の農村で生まれ育ったアキトラードには、当然の反応だが、実際に彼が情報整理に苦労しているのは、前世で読んだ数少ないラノベとの相違点だ。
ラノベでは基本的に、勇者と魔王が戦うのが定番だが、勇者と魔王が戦う事は希で、一方的に蹂躙されるらしい。
また、
だが、この世界は多くの点で定番と違う。
純粋な人間はレベルアップやスキルアップが殆どできず、冒険者も容易ではない。
そもそも、冒険者と農民に差異が無いのであれば、魔獣に接する機会の多い農民に、超絶スキルやレベルを持った者が多数現れてしまう。
この世界の設定でも、魔族の血をひいた冒険者がレベルアップ等ができるのであれば、当然の事として魔族もレベルアップできてしまい、人間側がどんなに頑張っても、追い付かない。
普通の存在が、自分だけが努力と切磋琢磨していると思うのは、傲慢な世間知らずでしかない。
自分以上に多くを犠牲にしてレベルアップを図る者や、自分以上に優れた環境に居る者が常に居るのが現実なのだ。
【自分のレベルアップ】を望む者には『努力は裏切らない』と言う言葉は事実だが、【誰かに勝ちたい】【一番になりたい】と望む者に『努力は裏切らない』の言葉は妄言でしかない。
現実性を考えれば、【混血の冒険者だから魔族や魔獣と渡り合える】と言う方が合理的だろう。
アキトラードは、前世の経験でソレを熟知していたが、ラノベワールドがリアル化した場合にも当てはまるとまでは想像していなかった。
「(確かに、法則性を変えても現実には無理な話が多かったよなぁ)」
現実とは、どこに行っても
英雄譚やユートピアは妄想の中にしか存在しない。
「俺は、別に勇者や英雄とかの有名人になりたい訳じゃないんですよ。ただ、田舎ののんびりとした生活で、趣味の刀を極めたいだけでね」
精神年齢が、既に老人に達している彼は、誰かに評価されたいとか孤独が嫌だとか言う青臭い思考は脱していた。
できれば誰にも干渉されず、趣味の盆栽を弄っていたい老人と同じなのだ。
女神に求めた彼の能力も、今回の情報収集も、誰かに勝ちたいとかではなく、のんびりとした生活を邪魔されない為でしかない。
一応の情報収集を終え、クリソヘリルの武器作成を手伝い、オリハルコン日本刀の販売手配を終えたアキトラードは、安住の地であるラーの村へと帰っていった。
村からの手紙では、リーリャンスが野盗か何かに殺害されたらしいが、それ以外は平穏らしい。
だが実際には、次なる事件が待っていたのだった。
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