第21話 苦肉の策?

「くおおおっ!」


 7番の咲本さきもとが、なかばめちゃくちゃにバットを振る。だが、もちろん当たるわけがない。彼も前の長野に続き、しっかり三振に倒れた。


「だめだこりゃ。なんなんだうちの下位打線は。あとでしっかり怒ってやらないと」

「まったくそうですね。やる気がないとしか思えません。ああ、利尻先輩が去年、もっとちゃんと教育していれば……」

「な、なんだと!?」


 とは言いつつも、別にうちの下位打線は弱いというわけではない。単に向こうの斎藤が強すぎるだけなのだ。逆に斎藤と互角に勝負できる上位打線が優れすぎているのだ。


 でも、このままでは、8番を出したところで無駄だろう。


「よし、大川、行け!」

「ええっ!?」

「代打だ!」

「ええっ!?」


 僕は代打で大川を送っておくことにした。要するにもう諦めたということだ。まかり間違っても大川は打てそうにはないけど、これからに向けた経験にはなるだろうという寸法だ。


 大川が打席に立つ。だが、全く構えがなっていない。これでは打てるか以前の問題だ。斎藤が明らかに馬鹿にした目で大川を見ている。


 一球目、空振り。二球目、空振り。どうにもならない。斎藤は本気で投げていないような気がするけど、それでも当たらない。


 三球目。


「ぐほっ!」


 当たった。大川の肩に。


 斎藤が思わず頭を抱える。どうやら制球を間違えてデッドボールをしてしまったようだ。彼にしては珍しい。


 大川は肩を押さえながら、痛そうに一塁まで歩いていく。


「よくやった大川!」

「斎藤キラー!」

「近山高校の将来は明るいぞ!」


 僕たちは適当に大川を冷やかしておく。


「出塁おめでとう、大川。まあとりあえず肩を冷やしておけ」


 利尻先輩が一塁まで走っていって、大川に氷嚢ひょうのうを渡す。でも代走には入らないらしい。


「次! 代打、花野!」

「ええっ!?」


 まあ、どうせ9番も打てるわけがないのだ。僕は再び初心者を代打に突っ込む。あの斎藤が二回連続でデッドボールするとも考えにくいし。


 ところが、マウンドには斎藤がいない。


「あれ?」


 まさか斎藤が降板するとは思っていなかったので、僕たちはそろって驚く。でも、考えてみればもう9回だ。斎藤の体力は無尽蔵ではないし、さっきデッドボールをやらかしたところから考えても、かなり疲れているのだろう。


 そして、現在マウンドにいるのは、僕の知らない女性ピッチャーだ。一年生だろうか。まあ、女子は全員問答無用で男子に編入されたはずだから、意外と二年生か三年生かもしれない。

 

 新ピッチャーが投球練習を始める。なんだか緊張しているようだけど、大丈夫だろうか。


 投げる。ボールはキャッチャーの頭のはるか上を越えていった。


「え……」


 もしかすると、この新ピッチャーは、とんでもない雑魚かもしれない。


 

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