『偉人チューバー』~史上ナンバーワンはチャンネル登録者数で~
工藤千尋(一八九三~一九六二 仏)
第1話それはいきなりやってきた。
信じるか信じないか。いや、信じられないかと言った方がいいかもだけど。少し前からユーチューブの世界に異変が起きた。なんと、教科書に載っている戦国武将。そう、織田信長や豊臣秀吉、武田信玄や上杉謙信とか日本人ならほとんどが知っている名だたる武将たちの『本物』がユーチューブにチャンネルを作り始めた。それは『うつけものチャンネル』だったり、『泣くまで待とうチャンネル』だったり。簡単に言うと過去の偉人たちが現世に突然現れ、この現代に順応してしまったのである。きっかけは最初に現世へ現れた『自称・足軽』と名乗る人が槍を振り回して警察官に取り押さえられたことだった。そこから過去の偉人たちは『とりあえず暴れるとアウト』ってことをすぐに理解した。
『郷に入っては郷に従え』
この世界では暴力をふるうと『ピストル』や『特殊警棒』を持った警察官たちに囲まれ詰むと学習した。そして次に学んだことがこれだ。
『働かざる者食うべからず』
自分たちがいた時代ではたくさんの部下がいて、食事の世話からなにからなにまでやってくれていたみたいだけどこの世界ではお金を手にしないと食べることも出来ないし、住むところもない。そこに目を付けたユーチューバーたちが「これぞチャンス!」と過去の偉人たちを「食事も豪華ですよー。あたたかーい布団もありますよー」と過去の偉人たちをスカウトし、それぞれにチャンネルを与え、出演させた。
「実は『本能寺の変』な。あれ、『寝たばこ』が原因だったんすよ」
ユーチューバーたちは再生回数を目的に過去の偉人たちに時に『受けそうなこと』を言わせた。でもみんなはその言葉を信じた。だって本物が言うのだから。そうこうしてるうちに『同時に百人のお悩みを聞きます!聖徳太子チャンネル』だとか、『日本の夜明けはアメリカの夕方!チャンネル』だとか。そしてそれは日本の偉人だけにはとどまらず。『ほらな。言うたやろ。地球回ってるやんチャンネル』だとか『睡眠大事。余の辞書に不可能と言う言葉はないは重言である』チャンネルだとか。そしていつしかこう言われるようになった。
『チャンネル登録者数が一番多い人を歴代ナンバーワンとしよう』と。
不思議なのはまあ、目の前で起こっていること自体が不思議だけど受け入れよう。けれど、なんでこんな狭いこの国に世界中の偉人が…とか、なんて流暢で聞き取りやすい日本語を世界中の偉人が…とか。けれど誰もツッコまないから敢えてそこも流す。現代のこの国では今、空前の『偉人ユーチューバー』にてナンバーワンを決める戦いが武力行使なしで行われていた。その偉人たちがそれを望んでいるかは分からないけれど。そして底辺ユーチューバーである僕の目の前にも一人の偉人が突然現れた。しかも僕の頭の上から。
ドシーン!
「あいたたた…。ちょっとー!どこ触ってんのよー!」
パシーン!
いきなりビンタされる僕。しかも首を思い切り捻った直後に。痛い…けど女性?
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