第35話 ギガンテス無限ループ



 ト、トーマスが飲みこまれた。ちょっと、やめてよ。これ、進〇〇巨人じゃないんだよ? 絵面、まったくいっしょになっちゃうー! 著作権がー!


 ハッ! いや、それどころじゃなかった。パニックになりすぎて、変なこと口走った。トーマスが飲まれたんだ。早く出さないと消化されてしまう。


「先制攻撃! もう先制じゃありませんけど!」


 蘭さんのムチが空中に舞う。華麗な十万攻撃がギガンテスを襲い、巨体は地に伏した。やっぱり、僕ら強すぎるな。完全にゲームバランスをくずしてる。


「ど、どうやってトーマス出そう?」


 僕がたずねると、蘭さんも美しいおもてをひきつらせた。


「そ、それは……お腹を切るしかなくないですか?」

「ああ……残酷」

「そうですけど、ほかにしようがないですよ?」


 と、そのときだ。


「なんなら、おれが口から入って、ひきずりだしてやんで?」

「シャケ! 本気?」

「キュイキュイ言われても……」


 そのジョーク聞きあきたなぁ。ジョークじゃないから、やっかいなんだけどさ。


「ロラン、言ってやって」

「シャケ。あなたに頼みます!」

「ほな、行ってくるわ」


 スゴイな。つわもの。

 そう言えば、出会った最初のとき、三村くんって、お金をとりに巨大イモムシのお腹のなかに入っていったんだっけ。口に入るのはお手のものなのか。


 白目むいた巨人の口のなかへ、自ら入っていく三村くん……。


 数分後。三村くんは戻ってきた。ただし、一人で。


「トーマスは?」

「腹んなか、おれへんかった」

「えっと、もっと下まで行ったら?」

「いくらなんでも、ついさっきやったで。消化されるにしても早すぎひんか? 腸までは行っとらんやろ」

「うーん」


 そうなんだよな。たとえギガンテスが強酸なみに強力な胃液だったとしても、骨も残さず消化するには異常にハイスピード。


 蘭さんが探偵風にポーズを作って考えこむ。

「消えたトーマスの謎ですね」

「怖いよ。なんとなくホラーっぽいよね?」


 蘭さんの目がキランと光る。

「まちがいなくホラーですね。きっとギガンテスの胃は宇宙のブラックホールに通じているんです。そこに飲みこまれた人は、永久にゾンビとなって地獄をさまよう……」

「ギャー! やめてー!」


 蘭さんが現実の蘭さんモードになってしまった。こっちの世界のロランは蘭さんより十歳も若いし、ピュアな気がしてたんだけど、そこは同一人物なんだと、これでわかった。趣味はいっしょか。


「怖いよ。ヤダよ。どうするの?」

「とりあえず、進みましょう。この場所はループしてるっぽいので、戻ってきたら、トーマスも復活してるかも?」


 なるほどね。たしかに、とったはずのギガンテスの数値は戻ってる。なら、トーマスも自然に(どこから? 想像したくない。ウ、ウ〇チ……)出てくる可能性はある。


「じゃ、じゃあ、行こうか」

「はい」


 僕らは橋を渡って、壁の階段をあがっていく。で、やがて見えた穴から外へ出た。やっぱり、ギガンテスはいる。でも、トーマスはいない……。


「トーマス、戻ってないよ」

「まさか、もう消化されたあとだった?」

「どうするの? ロラン?」

「お腹、切ってみないといけなかったかな?」


 うーん。お腹切っても、出てこなかったらいっしょなんだけど。

 トーマス本人がいないから、蘇生魔法もかけられない。こんなときこそ、小説を書く? 試しにスマホを出して、三村くんがギガンテスの口を出てきたとこから書きなおす。



 *



 やがて、三村くんが出てきた。その背中にトーマスを背負ってる。

 トーマスはなんとなくヌルヌル粘液に包まれてたけど、どこにもケガはしてない。丸飲みにされたのが逆によかったみたい——



 *



 と書こうとしたけど、保存しようとすると、ブブーといつものエラー音。



 書きこめない内容があります。



 書けないのか……。


「ダメだよ。小説を書くでも、トーマスを戻せない」

「トーマス。どないなったんや? 死んだんか?」


 今にも泣きだしそうな三村くん。蘭さんやアンドーくんの顔もこわばってる。


 トーマスが……巨人に食べられた。

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