その意味

霜月かつろう

第1話

 日記をつけ始めたのは、つい三日前のことだ。日々の練習の成果や感想をつけろとコーチに口を酸っぱくして言われ続けたからだ。


 何かが継続して続いたことはこれまでもなかったし、きっとこれからもないだろう。だからこうやってしぶしぶ日記を書いているけれど、どうせ続かないと思ってもいる。


 今日の練習を思い返すけれど、なかなか上手く行ったんじゃないかと自分でも思う。ジャンプは安定して飛べたし、スピンは回転数を冷静にカウントできていた自信がある。


 大体氷の上に足を付けたときにその日の好調がわかる自分としては、こんな日記をつける意味なんてさほど感じていない。


 三日目ではるがA4ノートの1ページも埋まってはいない。なんなら、上半分が黒くなっているくらいだ。


『調子が悪かった。足が思うように動かなかった』

『曲のテンポに乗り切れなかった。もっと曲を聴きこむ』


 自分の汚い字をかろうじて読むと、自分でも書いた覚えがすでにないことが書いてあっていかに適当に書いてあるのかがわかる。


 ふう。


 スケートを初めてもう十年くらいになるというのに今更こんなことを初めて何に鳴るのだというのか。コーチがうるさいからやっているし、明日もどうせ見せろと言われるし、見せないと怒られるからやっているがいまいちわからない。


 ふと、もう十年もやっているのかと気付かされたことに驚きが隠せない。何をやっても続かなくてすぐに諦めていた自分がだ。飽きもせずに毎日のように続けているのだ。


 我ながら驚きだ。


 そんなスケートのためなら日記を書くくらいできる気がする。そしてそれを振り返る日が来ることをちょっとは楽しみに思えてきていた。

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その意味 霜月かつろう @shimotuki_katuro

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