神誓

おもち

第1話 釣りに行ったら蛇が釣れた

ジェノス暦1174

7歳 アトラス:「うわあああああああ!!!!

        じいちゃん!!!!!!死ぬ!!!!死ぬう!!!!」

俺はじいちゃんと釣りに来ただけなのに…

じいちゃんが「ちょっと餌とってくるわ」 て言ってすぐ……


あの刃のように鋭利な鱗、特徴的な頭の形、 Aランクモンスター ヘルコブラだ。

出会ったならまず戦うことをやめて逃げなければいけないモンスターの一匹でAランクパーティーが挑んで何とかなるレベルだ。

俺が敵うはずはない……


「よし……逃げの一択だ!!!」


「って……ェェェええええ!!!」


ヘルコブラに対峙した俺は当然逃げの一択を選び、逃げようと後ろを向こうとした瞬間、自分の体はヘルコブラのしっぽによって逆さ刷りになり、ヘルコブラと目が合っていた。


「ヘルコブラさ~ん。俺は美味しくないよ? お腹痛くなっちゃうよ?

     ね? だから降ろし……」


「全く…。この孫は……」


「あ…… まだ妙に好きって言ってない……」


ヘルコブラの口に落下しながら俺はやり残したことを思い出し火魔法を展開する

まだ…死ねない、いや…死なない。


「原子の力よ、我が魔力を糧に顕現せよ 火灯(トーチ)」


このカラカラの魔力でも発動できてコントロールも簡単な火の一階梯魔法 火灯

蛇の弱点である舌に火をともせれば逃げる隙が生まれるはず……だった。


俺の火魔法は確かにヘルコブラの舌に着弾したが火はつかなかった。

純粋に威力が足らなかったのだ。


「嘘だろぉぉぉ!!!」


「我が盟友よ、認めし我に力を授けよ  不動領域」


聞きなれた声が聞こえたかと思えば… 遅いんだよ!!

久しぶりに死ぬかと思ったぞ!!!!!!!


「ひえぇぇ……」


ヘルコブラの口の特に尖った二本の牙のうちの一本が目の前まで…

あと数舜遅かったら俺はどうなっていたのか……


「遅いんだよ!!助けるのが!!!!

 どこ行ってたんだよ、 じいちゃん!!!

 マリアナばあちゃんにいいつけてやるからな!!」


2mを超える巨躯にはちきれん程の筋肉、 獣のようにぎらついた目をもつジジイ

もうとっくに五十を超える歳のはずなのに一向にその目つきが衰える気配がない俺の理解の外にある人物こそ俺の祖父 ジオラスおじいいちゃんだ。


さっきまで俺を喰い散らかそうとしていたヘルコブラの目まですっかり怯え切ったものになってやがる。全く…。なんてジジイだ。


ジジイのアーティファクト 不動の鋼(ガント)腕(レット)。 

生物・無生物に限らず対象の領域を固定する。要するにとんでもない小手だ。


「アトラスよ、 お前が選択した行動は悪くない。

 いつも言っておるな。相手が勝利を確信した時。その時が一番の隙じゃと。

 ヘルコブラの弱点を頭にいれておったことも褒めてやろう。

 じゃがな、圧倒的に火力がたらんわ!!!!!!!!

 誕生日ケーキに火をつけるんじゃないんじゃぞ!!!!

 Aランクモンスターなめんな!!!バカ孫!!!」


「お前のせいだろうがこの状況は!!!!!」


俺の魔法が通じないことをしているくせにこの言い草。理不尽の権化だこのジジイは。


「ぬ…… 確かにそう言えぬこともないか。

危ない!!口車に乗るところじゃった!!

全く、似らんで良いとこはマリアナに似おって!!」


理不尽の権化が訳の分からないことを言っているが俺としてはこの体制は頭に血が上るので一刻も早くおろして欲しい。蛇の顔色なんてわからないが人間で言ったら真っ青であろう程に蛇は怯えている。


「いいから、早く降ろしてくれよ、じいちゃん」


「そうじゃな。

 そこの蛇よ、三秒やろう。儂の領域の範囲外へ逃げて見せよ。」


何を偉そうに蛇に語りかけているんだこいつは

蛇が人の言葉なんてわかる訳ないだろうに…


「え…」


心の中で祖父への悪態をついた瞬間、俺は本日二度目の空を舞っていた。

三十メートルはあるヘルコブラがものすごい勢いでもといた場所から離れて行く

え…うちのジジイ魔物と喋れるの? 意味わかんねえ


ってまてよ…… 俺このまま落ちたら死ぬぞ?


「空くらい飛んで見せんかぁ、アホ孫め」


いつの間にか俺はジジイの小脇に抱えられ意味の分からないことをぼやかれている。


そもそもこの世界において空を飛ぶのは鳥と魔物、そして一部の冒険者くらいだ。

この世界を創造した唯一審が天界に君臨されていると言い伝えがあることから空を飛ぶことは神聖視されているし飛ぶことには王の許可が必要になる。


自由に空を飛びまわれるのはこのジジイくらいだ。


「歯を食いしばれよ、楽しい天遊戯の始まりじゃ」


「ゆっくりな…?」


ジジイめ、いつも通りの恐怖の天遊戯が始まった。


以前ジジイが得意げに自慢してきたことだが、ジジイは自分の足場となる空間を固定することで空中散歩を可能にしている。ただの空気階段じゃないかという言葉は飲み込んでおいたが……


「もうちょっと… もうちょっとゆっくりぃぃぃ!!!」


この空を駆ける老人は維持の悪いことに自分には障壁を張って空気抵抗を減らしているが俺の顔付近には展開してくれない。

自ら障壁を展開しようにも荒れ狂う空気抵抗の中でどう障壁を展開しろというのか

水の中でうまく喋れないのと同じだ


                 -平民SIDE-

「あ、ジオラス雲だあ」


「生きてるうちに拝めるとは… ありがたやありがたや…」


老婆と孫が見つめる上空には『儂、参上』と固定された雲が浮かんでいた


                ―ハイゴルド邸―


ドォォォォン!!!!!地を揺るがす振動と共に階段ジジイは屋敷に着陸した。


「ジオラス!!!! あれだけ門から入って来いと言っているのに!

また空から屋敷に入りましたね!!!!! 

今日こそその性根を叩きなおしてあげます!!!」


さっきのヘルコブラでさえも逃げ出しそうな鬼の形相でマリアナおばあちゃんが出迎えてくれたが…… 気のせいだよな? ばあちゃんの後ろ燃えてないよな?


二人の人外の余波でやられかねないのでひとまず退散して屋敷に戻る。

三メートルある木目調の玄関の前に行くと、バークスが出迎えてくれた


「お帰りなさいませ、アトラス坊ちゃま」


相変わらず迫力のある目だ。祖父と変わらない年齢のはずなのにその目は威厳に満ちている。長い白髪を一つにまとめたその姿は…武士?極東の剣士を想いださせる。


「ただいま。バークス」


「中庭にてアリア様、並びにマリアお嬢様がお待ちです。」


「お母さまとマリアが⁉ すぐ行く!!」


黒を基調とした廊下にいくつもの窓が並んでいる。その長い中庭を抜けると開けた中庭がある。いた…!


「マリア!!」


「おにいちゃ!!!」


はじけるんばかりの眩しい笑顔をした俺の天使。五歳年下のマリアが愛らしい声をあげながら走ってきた。曇りのない目、太陽の日を受けてより一層輝く金髪。我が家のアイドルだ。


飛び込んできたマリアを受け止める……


ドンッ!!突然の横からの衝撃に体を倒してしまう。


「よ~し、よしよし。今日も可愛いなあマリアは。ん~」


深紅の髪を持つ細長い男が天使を抱きかかえていた。父だ。これで普段はその冷徹な視線、態度から“”冷たい炎“”の異名を持つのだから全くその父が想像できない。誰かと間違えているのではないかという気がしてならない。


「御父様!!今マリアは俺に!!」


「ん? 何か言ったか? アトラス?」


まあいい。今日のところは勘弁してやろう… 今に見てろよ……


「全く、アトラスをいじめないの。そのうちマリアにも嫌われるわよ」


「え…」


さっきの迫力はどこに行ったか。 絶望という言葉がぴったりの顔になっている。


「かっこいいときのシトラスはどこに行ったのやら…

 それよりもアトラス、あなたが御祖父様に遊ばれている間に…

 コホン!鍛錬している間に妙が来てたわよ。行ってあげなさいな」


「妙が⁈ 行こうマリア!」


妙からのお誘いとなれば何をしてでも行かねばならない。この世の最優先事項だ。

始めて妙に出会ったときの衝撃は未だに忘れられない。まさにドラゴンのブレスに打たれた気持ちだった。


息をのむほどに美しい黒。黒を美しいと思ったことはあれが初めて体験だ。真っ黒な髪とは対照的な透き通るような真っ白な肌。飲み込まれそうな大きな瞳…


「おにいちゃ!!あれ!!」


いかん…いかん…。マリアと一緒にいるのに思い出の世界に浸ってしまった…

しかし、マリアが声をあらげるなんて…?


「!!!」


マリアが声を荒げた原因に気が付いた瞬間俺は駆け出していた。

誰だあいつら…、くっそ!! 妙が複数人に囲まれていた。その表所は怯えており決して楽しそうな雰囲気ではなかった。


「何してんだ!!お前ら! 

 妙からなはれろ!!!!!」


「アトラス! 駄目だよ逃げて! 

 相手は大人、しかも冒険者だよ!!

 いくらアトラスでも敵うはずはない!!!!」


「なんだこのガキ。」

「その金剛石の紋章…。ハイゴルド家か!!」

「こりゃあ とんだ大物が釣れたもんだ。しかも二人。長男と妹か」

「…貴族か。金になりそうだ。そこの黒髪の娘とまとめて攫え。」


敵は住人近くいる。どうする… 落ち着け。まずは伝令だ。


アトラス「原始の力よ、我を守り獣を払え 火回廊」



アトラスと妙の周りに火の壁が上がり冒険者たちを断絶する。

今のうちに救難信号を!!


よし…誰か気づいてくれよ。 このピンク色の狼煙に…


「おいおい… 誰がそんなことさせるかよ」


あの毛むくじゃらの長髪め…一瞬で救難信号を消しやがった… 

クソ…


「おにいちゃ!!」


「だめだマリア!!妙とその火の中にいろ!!」


強がっては見たが…… こりゃまずいな。 奴ら本気だ。

覚えたてだが…… やるしかない

「我が血に受け継がれし金剛よ、我が金剛の意志に応えよ」

            『金剛』


「ほう… この年で血統魔法が使えるのか…

 これは…価値がはね上がるな」


よし…発動には成功した。だけど、これはまだ長く持たない…

速攻で決める!!!


「なんだこのガキ 銀色の魔力を体に纏った?」

「馬鹿!! 物語を読んだことねえのか!!!!!!

 ハイゴルド家の血統魔法 金剛だ! 

 ただのガキだと思うな!!やられるぞ!!!!!!!!」


           ―哲郎SIDEー


「そこまでだ」


「あぁ? 誰だおっさん?」


「お父さん!!! 助けて!!! アトラスが!!!!!」


もう目があまりあかないが妙のお父さんがきてくれたみたいだ…

だけど正直… あの温厚な人が強いとはとても思えない… まずいな


「だ…」


冒険者たちの首から下をを紫色の立方体が覆っている?

たつろうおじさんの魔法なのか? 今なら…


バキィィン!ガラスが割れたような音と共に冒険者のボスの紫色の立方体が壊れた。


「ほう…これを砕くか… B級上位か?」


「嫌なおっさんだぜ お前ら! ずらかるぞ!!!!!!」


「させるとでも?」


「良く娘を見な」


「!!!!!!」


何だあれは… 短刀? 妙が危ない!!!


「おじさん!!!」


妙の首元に刃が迫る寸前で紫色の壁がその凶刃を止めた。

なんて魔術展開速度だ… 


「逃げられたか…」


妙に一瞬注意が向いた瞬間、冒険者はいなくなっていた。

良かった… もう大丈夫そうだ…


「おにいちゃ!!!!!」


「アトラス君!!!!!!!!!」


マリアが泣いてやがる……

クソ… 俺は… 弱い……


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