ある少女のモノガタリ

フランチェスカ

プロローグ

第1話 拾われたその時から、わたしは疎まれていた

私は久しぶりに昔語りをしていた。

私のかわいい養子やしないごにねだられて。

長いよ、と言ったのだけど、全部聞くと言って聞かないから。

話すことにしよう、この歪な半生を―――。


私は生まれた時のことは知らない。

だって捨て子だったから。

村長お父さんは私を見て、

『凶兆なのか吉凶なのかはわからん。だがこの子を殺せばおそらく神の怒りに触れるであろう』

と言った。ババ様が教えてくれたわ。

おくるみの中の私の姿は、紅い光に覆われていて、瞳も鮮やかなスカーレット。

そして―—―わたしは白い翼を1対持っていた。

冥府の神タナトスの加護を持っているか、他の神の悪戯か―—―

村人たちは、私を受け入れるしかなかったのね


私に与えられた名は「ライラック」………今可憐な白い花を想像したでしょう?

ハズレ。

この星「カタリーナ」の星の意思スターマインドは歪んでいてね、いろいろなモノに正反対の姿を与えていることがまま、あってね。

ここでの「ライラック」は黒い茎と葉、暗紅色の花。

しかも夜になると光る。

私にぴったりだと思わない?

卑下するなって?そうね、でも今では気に入っているから卑下ではないわ。

意外と可愛い花だと、魔界になじんだ今では思ってるのよ。


お話を進めましょう。

わたし―—―赤ん坊に与えられた住居は巨大な洞窟だった。

巨大なドーム状で、底には海に出ていける港と開口部があった。

そこの壁に設けられたバルコニーが私の住処。

昔はそこで生贄なんかを奉げていたらしく、祭壇がある。

その祭壇が私のベッド。藁を束ねたモノがわたしのおふとん。

そして村のシャーマン「ババ様」だけがわたしの世話係。

私は10歳になるまでババ様に育てられた。

この世界での生き方の最低限を教わったの。


だけど村の手伝いをしようと思っても、不器用だと罵られ、石を投げられる。

後で考えると、別に不器用ではなかったから、単なるいじめだったんでしょうね。

自分の特色である翼で飛んでみようとしても、上手くいかずに洞窟の底に落ちる。

ボチャンとね。

幸い羽毛のおかげで、沈むことにはならなかったけど、漁師たちには馬鹿にされた。

でも、何か月も練習して滑空を割と正確にできるようになってから、漁師たちは徐々に優しくなっていった。降り立った漁師の漁船で、魚をショウユに似たものをかけて食べさせてくれたり。

漁での自慢話を聞かせてくれたり。

面白くて、もっともっととせがんだわ。

カモメのようだから、もしかしたら加護は海の女神では⁉

なんて言ってくれたり。

この時は幸せだったね、ささやかな幸せを満喫した。

お魚のさばき方なんかも教わったりして―――。

粟と稗のお粥だけだった私の食生活に彩が生じたわ。


それから、私は歌を歌うようになった。

漁師の人たちに楽しんでもらいたい一心で。

今の私からしたら、下手くそだけど、とにかく一生懸命練習した。

暗い歌は聞きたくないだろうと思って、漁師たちがいる間は、明るい歌を。

誰もいないかババ様だけの時は、それ以外の歌を歌った。

すぐに並みの吟遊詩人を追い抜いた歌を―—―歌詞はないけど―—―歌えるようになった。漁師たちから、歌ってくれ、女神の御子よ、と言ってもらえたわ。

私が歌っていたのは「歌を極めたい」という強迫観念と漁師達に楽しんでほしくて。

強迫観念は私の種族である「プルト」という種族の特徴だったのだけど、その時には分からなかった。ただ歌を歌い続けるだけ。

この歌は、村の方にも聞こえていたらしく、―――起きてる間は―—―明るい曲ばっかりだから、評判が良かったみたい。

夜中出歩いて、不気味な歌に漏らしたなんて人も中にはいたけどね―—―クスクス。


ある時、ババ様が、私を村長の家に連れて行ってくれたことがある。

村長おとうさんとそのおかあさんに会える。きょうだいもいる。

私は舞い上がって、服の中から一番マシな奴―—―村人のおさがり―—―を着て。

ババ様に連れられてほかの村人の家よりやや立派な家に入っていった。

「あなた、なんでこんなモノを家に連れてくるのですか!穢れるではないですか!」

最初に「おかあさん」から向けられたのは面罵だった。

「あの。おかあさん………」

私がおそるおそる声をかけると、彼女はふらりと倒れかかった。

「汚らわしいっ!冥府の神が気まぐれで創り出した忌み子がっ!私をそんな風に呼ぶなんて許しませんっ!穢れがうつる!」

「おとうさん………」

泣きそうになりながら言った私に、彼は断固とした姿勢で言った

「その呼び方は許さん。確かに私たちはお前を養っているが、それは神の怒りが恐ろしいからにすぎん。私の事は村長と呼びなさい」

村長の奥さんが言う………もうおかあさんと呼ぶのはやめている

「今度私に話しかけたら百叩きの刑に処しますからね!子供たちに、もし接触したら、加護なんて関係ないわ、つるし首にしてやるっ!」

「おまえ、ちょっと落ち着きなさい。普段はもっと冷静だったろう。この子は何の神か分からないが加護もちで、現在では漁師たちはこの子を受け入れているのだ。つるし首は無理だ」

「だってあなた」

「容貌も、驚くほど美しいではないか」

「まさか、この子を寝所に上げようとしているのではないでしょうね!」

「わしがせんでも、どうせ誰かが引っ張り込むだろう」

「汚らわしいわ」

「まぁ、経過を見ようではないか」

私の前で繰り広げられた会話。

私は二人が話している内容が分からず硬直していた

百叩きって何?吊るし首って何?寝所って何?ってね。

ババ様が言った

「まぁまぁ。今夜は顔見せ。もう連れてきてほしくないならそうしましょう」

「そうして頂戴!」

即座に奥さんがそう言ったわ。

そして、わたしは洞窟に帰っていった。意気消沈しながらね。

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