第71話
「はあ、ようやく街が見えてきたな……。よし、アルベールさんに用件を言ってすぐ帰ってこよう」
パプリを抱えて急いで走り続けた俺は街の外壁が見えるところまで近づいた。
すでに汗で作業着はかなり濡れてしまった。そのうち服も買っておきたいところだなあ……。
街の正門に近づくと衛兵のアランさんが立っていた。相変わらず暇そうに欠伸をしている。
「こんにちはアランさん!」
「ああ、コーサクか……って、そんなに急いでどこへ行くんだ!?」
「ちょっとアルベールさんに用事があるんです!それじゃ!」
俺はアランさんとゆっくり会話している暇もないので、あいさつだけ済ませて商業地区へと向かった。
ちょうど晩御飯の食材なんかを買いに来たのだろうか。露店の方がかなり賑わっていたので、少し遠回りをしてアルベール商会に向かうことにした。
「やっぱり露店の周りが混む時間は大体決まってるんだなあ……。今度時間があるときはこの街をゆっくり観光したいなあ」
服も買いたいのもあるし、斧をもっと持ち運びやすいようにする装備も作ってもらいたい。
相変わらず麻袋に入れて持ち歩いているが、接敵した際に行動が遅れてしまうのが最大の難点だった。
金塊を売って手に入れた大金もあるし、そのうち必要なものを買い回るか。
「お、アルベール商会が見えて来たな……いるかな、アルベールさん」
そうして俺が店の扉を開くと、中ではセシルさんが掃き掃除をしている最中だった。
「こんにちはセシルさん。アルベールさんは?」
「あらコーサク様、いつもお世話になっております。今は店の奥で商品の整理を行なっているはずですので呼んできますね」
そう言ってセシルさんは掃除の手を止め、店の奥へと向かって行った。
すぐにセシルさんはアルベールさんを連れて来た。アルベールさんは俺が良い返事を持って来たと思ったのかニンマリとした笑顔を浮かべていた。
「コーサクさん、わざわざご来店いただきありがとうございます。農場の件のお話は決まったでしょうか?」
「ええ、そのことなんですがね……丁重にお断りさせていただきます」
「……は、はい?」
俺のその言葉を聞き、アルベールさんはそう言って信じられないといった表情を浮かべるのだった。
◇
「まず、アルベールさん。王宮相手に商売をしているあなたの立場は理解しています。ですが、それは俺に全く関係ありません。別に作物が欲しいだけなら俺は今の場所でも作れるんですから」
俺はぶっきらぼうにそう伝えた。すでに丁重に接するつもりなどさらさら無くなっていた。
「ま、待ってください!王宮で雇われるってことはこの先何不自由なく生活していけるんですよ?それこそ必要な設備なんかがあればすぐに用意されることでしょう」
アルベールさんは慌てるように、俺に考えをあらためて欲しいのかそう説明した。
うーん……商売の腕は確かなんだろうが俺の現在の立場を理解していないやつだな。
「あの、アルベールさん。何を勘違いされたかはわかりませんが、別に俺は生活に困っているわけじゃないんですよ?栽培した作物を売ったお金で『錬金』の素材を買えたらいいな、程度のお小遣い稼ぎです。むしろ王宮なんかで働くことになったら自由な時間も無くなりそうですし、俺にとって全くメリットはありません」
「そうですか……農業がお好きなコーサクさんなら喜ぶと思って勝手に話を進めてしまいました……申し訳ございません」
そう言ってアルベールさんは俺に対して深く頭を下げた。アルベールさんも悪気があったわけでは無いようだが……危うく俺のスローライフが脅かされるところだった。
「まあそれは良いですよ。こうやって商会にお邪魔したのも1つお願いがあって来たんです……。ギイさん、そして国王に伝えて欲しいことがありまして……。そこまであの品質の作物が欲しいなら俺の持つ土地に新しい街……農業都市を作るなら考えてやると伝えておいてください」
そうして、俺とカミラが考えた農業都市開発計画を聞いたアルベールさんは、頭を抱えてしまうのだった。
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