第56話

「ただ冒険者ギルドに登録させるのが目的じゃ無かったのか……」


 俺はグウェンさんの本来の目的に気が付かずに冒険者ギルドに登録してしまったことを少し後悔していた。

 くそ、グランドボアの牙なんてジャン達に渡して帰ればよかった。


「まあ登録してしまったんだし後悔してももう遅いだろ。C級なら俺たちと同じランクの依頼も受けられるし、今度気が向いたら一緒に出かけようぜ」


「それは良いかもね!コーサクくんがいたら私たちも心強いよ!楽しみだなあ」


 ジャンやアンネは俺と一緒に依頼を受けることを楽しみにしているようだった。


「農作業が立て込んでなければそれも良いかもしれないな。とりあえず今日は帰るよ」


 そう言って俺はジャン達に別れを告げ再び家へと歩き出した。

 ジャン達にはアンフェルボアの一件で世話になったし、この先も仲良くやっていきたいと思っている。


 街に知り合いが増えるのも悪いことでは無いだろう。

 冒険者ギルドに登録してしまったのはすでに過ぎた事だし気にしないことにしよう。いざとなれば引きこもり農家になってずっと森で暮らせばいいしな。


「そろそろ日が暮れそうだし急がないとな」


 そうして俺は再び家へと走り出した。




「はあ、はあ……ようやく着いた……」

  

 俺が家に着いた頃には空はすでに薄暗くなってきていた。

 ここまで軽くではあるがずっと走ってきたのでかなり疲労が溜まっていた。


「ステータスの体力ってやつはゲームでいうHPみたいなことなのか?体力が増えると疲れにくくなる、なんていうことは無いんだな……」


 とりあえず俺は家に戻って夕飯を食べることにした。アルベールさんのところで急遽開かれた試食会以来の食事なのでもう俺のお腹はペコペコだった。


 家に入って補給ボックスを見ると、すでに時刻は6時を回っていた。かなり長い時間街に滞在してしまったようだ。


 そうして俺はすぐに補給ボックスから取り出した料理をローテーブルの上に運んだ。

 今日は肉料理といつも通りのセグリのパンだった。  


 そこで俺はひとつ大事なことを忘れていたことに気がつくことになった。


「あ、お前の食べるもの何もないよな……」


 そう、パプリの餌となる植物が何も無いのである。厳密に言えば『錬金』の素材になる薬草なんかは家の中に保管しているのだが、それを餌として与えるのは少し勿体無いと感じてしまう。


 俺がパプリの餌をどうしようか考えながら夕飯を食べていると、パプリも自分の餌が用意されていないことに気がついたのだろう。

 餌を求めるかのようにローテーブルの上で激しく飛び回りはじめた。


「腹が減ったのはわかったから少し落ち着けよ!まったく……今急いで食べるから後で外に連れて行ってやるから待ってくれよ」


 食後は移動の疲れを少し癒そうと考えていたが、休んでいる暇は無いようだ。

 俺は急いで夕飯をかきこみ、機嫌が悪くなってきたパプリを外に連れ出した。


 家の裏の斜面にはクローバーのような短めの植物がたくさん生えていたことを思い出した俺は、パプリにその餌を食べさせることにした。


「ほら、ここの草はどうだパプリ。ここならたくさん食べても良いからな」


 パプリを斜面に放すと、すぐにその植物を食べはじめた。

 俺はパプリが草を食べている間斜面に寝転がって少し休むことにした。

 すでに日も暮れて少し肌寒く感じる気温になってきたのであまり長居すると風邪をひいてしまいそうだ。


「昼は暖かいけど夜になると少し冷えるな……。この世界は今何月ごろなんだろう?そもそも四季があるのかどうかも分からないし……」


 まだこの世界にきて1週間ほどしか経っていないので季節の移り変わりはもちろん経験していない。1日の気温差でいえば大体春か秋頃の気温と似ている気がするけど……それも地球での話だしな。


 そんなことを考えながら黙々と草を食べ続けているパプリのことを眺めていた俺だったが、とんでもないことを忘れていたことに気がついた。


「あ……アルベールさんに金塊を買い取ってもらうの忘れてた!」


 パプリはどれくらいの量の植物を食べると金塊を生み出すんだろう、と考えたところでようやく思い出した。そういえば俺が金塊を取り出した後にこの森に住んでいる、という話をしてからアルベールさんがかなり取り乱したんだった。

 

「なんで街にいるときに気が付かなかったんだ俺……。まあ明日もポムテルとシュワンを持っていく約束をアルベールさんにしてきたし、今度は忘れないように覚えておかないとな……」


 その後しばらくするとパプリは満足する量を食べたのか寝転がっている俺の元へ近づいてきた。

 そうして俺はパプリを抱えて家に戻ることにした。今日はまだやりたいことがあるのだ。


「よし、毎晩恒例の『錬金』を始めるか」

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