第51話

「うーんと……たしかこの辺にあったはずだが……どこだったっけ?」


 冒険者ギルドからプリシラの店がある商業地区に向かった俺だが、昨日とは違う方向から店に向かっていたので少し道に迷ってしまっていた。


 この辺の路地は似たような構造でわかりにくいな……。誰かに道を尋ねてみるか?


 迷子になってしまい、裏路地を行ったり来たりしていると急に後ろから声をかけられた。


「あんた、こんな裏路地でうろうろしてたら衛兵に怪しまれるよ」


「うおっ!!って……プリシラかよ。いきなり現れるなよびっくりするから」


 声をかけてきた人物は、俺が今探していた店の店主、プリシラだった。相変わらずその顔にはシワがたくさん寄っていて、見た目ではもう80歳は超えているんじゃないだろうかと感じてしまう。


「ところで昨日に引き続きどうしたんだい?『錬金』のことで何かわからないことでもあったのかい?」


「いや、そういうわけじゃないんだ。昨日『錬金』で作った回復薬と、採取した薬草を見て欲しかったんだ」


「なんだ、そういうわけかい。いつの間にかスライムも手懐けているようだけど……まあそれは良いさ。ついて来な」


 俺がプリシラに用があったことを伝えると、プリシラは俺を店の方へと案内してくれた。

 プリシラについて行く時に分かったことだが、俺がうろついていた場所はプリシラの店から少し離れた路地だった。そりゃいくら探しても見つからないわけだな。


「さあ着いたよ。とりあえず中に入って休んでおくれ」


 少し歩くとあっという間にプリシラの店に着くことができた。しかし良いタイミングだったな……プリシラに会わなければ長い時間迷っていたかもしれない。


 店内は相変わらず薄暗く怪しげな雰囲気が漂っていた。


「なあ、少し店の中の雰囲気変えた方が良いんじゃないか?こんなんじゃほとんど人も訪れないだろう?」


「別に儲けるために店を開いてるわけじゃないさね。老人の暇つぶしだし、それこそ店が繁盛したら体が追いつかないよ。ほら、それよりも見てもらいたいものがあったんじゃないのかい?」


 俺はプリシラに促されて背負っていた麻袋の中から低級回復薬をカウンターの上に取り出した。


「あんた、これを昨日作ったって言うのかい?」


「……?ああ、そうだが……昨日プリシラが素材を選んで売ってくれたんじゃないか」


 昨日売ってもらった素材を使ったんだし、それ以外あり得ないだろう。この婆さん、ちょっとボケ始めてるんじゃないか?


「それは分かってるよ!私が言っているのはこの回復薬の量のことだよ。この袋に半分くらい作ったってことは……素材が無くなるまで『錬金』していたってことかい?」


「ああ、色々素材を組み合わせたりしていたらエドラ草が無くなってしまった。あれがこの低級回復薬の素材なんだろう?」


 俺がそう言うと、プリシラは何かを考えるように俯いてブツブツと何か呟いていた。

 側から見たら魔女が何かの呪文を唱えるようで少し気味が悪いぞ?


「それと昨日採取した薬草がこれなんだが……結構良いものなんじゃないのか?」


 俺は一人の世界に入っているプリシラをよそに、麻袋の中からプエリア草という上級薬草を取り出した。


「え?ああ、そっちの薬草かい?ちょっと見せておくれ」


 そう言ってプリシラがプエリア草を見ていると、ゴールデンスライムのパプリが暴れ始めた。


「おいパプリ!そもそもあれはお前のじゃ無いんだぞ!一旦落ち着け!」


「ずいぶんとやかましいスライムだね。感情のあるスライムなんて珍しいけど……しつけがなっていないようだね……」


 暴れるパプリの様子を見て、プリシラは苦笑いしてそう言った。実際、こうなったパプリは面倒くさいので笑い事では無いのだが。


「だあああうるさいな!プリシラ、エドラ草は無いのか?価格を抑えた植物であればなんでもいい」


「エドラ草なら在庫は豊富にあるよ。とりあえず2束くらいで良いのかい?」


 プリシラからエドラ草を受け取った俺は、すぐにそれを暴れるパプリに与えることにした。

 餌となるエドラ草を与えられたことで、先ほどまでの元気はどこへ行ったのかと言うほどにパプリは大人しくなった。


「ふう……悪いなプリシラ。どうもこいつは食い意地が張っていて食べ物に目が無いんだ」


「あっはっは!!久しぶりに面白いものを見させてもらったよ。まさかスライムに餌をせがまれるなんて思わなかったからね。それはさておき……この薬草、良いものを拾って来たねあんた。これはプエリア草と言ってね……上級回復薬の元になる超高級薬草だよ」


 プリシラは俺が持ってきたプエリア草を手に持ち、上機嫌でそう言うのだった。

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