第16話

 家に収穫したコブルコを運び終わった俺は、ようやく朝食を食べることにした。

 

 補給ボックスの時計はすでに7時をまわっていたので、俺はすぐに扉を開いた。


 中にはいつもの黒くて硬いセグリのパンと野菜のようなものがゴロゴロ入ったポトフのようなスープが入っていた。


「今日もセグリのパンなのか……この世界はパン食が基本なんだな」


 ほぼ毎食セグリのパンが出てくるとさすがに嫌気が差してくる。

 まあ、1日3食支給されるだけでもありがたいので文句は言えたものじゃないんだが。


「これに加えて今日はコブルコのサラダにしよう」


 俺は補給ボックスから出てきた朝食をローテーブルにとりあえず置き、1本のコブルコを持ってキッチンに向かった。


 キッチンには刃先の短い果物ナイフのようなものが1本と、木材でできたまな板があったのでそれを使ってコブルコを千切りにしようと考えた。


 俺はコブルコを軽く水洗いして、まな板に乗せた。

 しかし、コブルコを切っていくうちにその量が意外と多いことに気がついた。

 

 いつものキュウリの感覚で1本を切り始めたが、コブルコを半分ほど切ったところで用意していた小鉢から溢れるほどの量になってしまった。


「……さすがに丸々1本は多かったか。もう半分は後で食べるか」


 俺は朝食が冷めてしまわないうちに食べたかったので、とりあえずはコブルコの半分をサラダにして食べることにした。


 ポトフのようなスープは初めて出てきたが、また『鑑定』してネタバレされるわけにもいかないので、俺はそのまま口に運ぶことにした。

 スープは塩味ベースのすごく淡白な味付けだった。俺はこういう味付けも好きだが、好みが分かれる味かもしれないな。

 

 でも、カミラが言うには補給ボックスのメニューはこの世界で頻繁に食べられるものだと言う話なので、この味付けがこの世界で人気なのだろうか。

 

 そして、今日の朝食のメインディッシュと言っても過言ではないのがコブルコのサラダだ。

 コブルコをただ切っただけだが、見ただけでもすごく瑞々しいのが分かった。


 早速俺はこの世界で初めて収穫した作物であるコブルコを口に運んだ。


「……めちゃくちゃ美味いぞこれ!」


 俺はコブルコがあまりにも美味しくて、興奮気味にそう言った。


 コブルコの食感はシャキシャキした歯応えがあり、噛んだ瞬間にコブルコの瑞々しい水分と香りが口いっぱいに広がった。

 そしてなにより、地球のキュウリと違う点が1つあった。


「果物ほどとまではいかないが、結構甘いな。スイカやメロンみたいなものなのか?」


 今回はコブルコをサラダにしたが、それは意外と正解だったかもしれない。生で食べることでコブルコの風味をより一層感じることができた。

 

 しかし、キュウリの見た目で甘みがあるなんて想像もできなかったな。さすが異世界の作物と言ったところだな。


 そのあと、俺は初めて食べるコブルコに大満足の朝食をゆっくり食べることにした。




「あれ?そういえばカミラに上納するのを忘れていたな。あいつ怒ってそうだな……」


 コブルコを食べるのに夢中で上納のことをすっかり忘れていた。


 俺は部屋に入れたコブルコをカミラに上納することにした。

 上納の仕方は昨日カミラに教えてもらった。上納する作物の前で2回手を叩いて、上納と呟けば良いらしい。


「…………上納」


 俺はパンパンと2回手を叩いてそう呟いた。


 すると、不思議なことに目の前にあったコブルコは一瞬にして、綺麗さっぱり1本も残すことなく無くなってしまった。


「あっという間になくなるんだな!これで上納できたと言うことなんだろうな」


 とりあえず最初の目標は無事達成できたな。

 これでカミラから『資材ショップ』のポイントが付与されれば、色々買うことも出来るようになる。


「まあ、その辺は後回しだな。とりあえず畑の手入れをやってしまわないといけないな」


 上納は無事できたようなので、俺はすぐに外に出て農作業の続きを行うことにした。


 俺は魔法の肥料を撒いた畝のコブルコの苗を、一度全て抜いてしまおうと考えていた。


 今回はやむなく地這いキュウリのような栽培方法になってしまったが、次回からは支柱も立てた立体栽培をやりたかったのだ。


 今回のコブルコの苗も葉っぱやツルがところどころ傷んでいた。

 地面にそのまま栽培するとこういう風になってしまうんだろうか?


「まあ、さっさと取り除いちゃうとするか。ほかの作物の生育にも良くなさそうだし」


 そうして、俺は苗の根元をスコップで掘り起こすことにした。

 

 意外と根がしっかり張っていて、苗を引き抜くのも大変だったが、なんとかコブルコを取り除くことができた。


 畑を覆い尽くしていたコブルコが無くなったことで、かなり畑の見栄えも良くなった。


 コブルコを取り除いた俺は魔法の肥料を撒いた畝の作物を引き続き手入れすることにした。


「ポムテルも随分育ってきたな……今日はもう土寄せしちゃうか」


 ポムテルの苗も昨日とは比べ物にならないほど生長していた。


 俺はポムテルの芋が大きくなって土から顔を出さないように、土を盛っていった。


「ポムテルはいつ頃収穫できるんだろうな」


 コブルコも早めに収穫できたので、ポムテルももうすぐ収穫できるかもしれないと少し期待をしながら土寄せをする俺だった。

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