第15話

 俺が目を覚ますと、まだ外は日が昇っておらず真っ暗だった。


 この家で唯一の時計である、補給ボックスの扉を見ると時刻はまだ朝の3時を過ぎたころだった。


「なんか変な時間に目を覚ましちゃったな……」


 俺は基本的に夜中に目を覚ますことはないので、この時間に起きるのはこの世界にきて初めてだった。

 まだ農作業をするにも、辺りが真っ暗だと作業のしようもない。

 

 魔力切れの影響なのか、まだ少し頭痛が残っているので横になって休むことにした。


 しばらくそうして目を閉じていると、再び眠気が襲ってきたので、俺は数年ぶりに、そのまま二度寝してしまうことにした。




 再び俺が目を覚ますと、時刻は5時半頃になっていた。

 いつもより少し遅い時間に目が覚めてしまった。


「若干寝坊だけど……やることは農作業くらいだしまあいいか」


 俺が元々働いていた農園では、遅刻なんかすると上司に殴り飛ばされることが多かった。俺は遅刻をしたことがないので、いつもその光景を見る側の人間だった。


 この世界では好きな時に畑を耕したり水を撒いたり、自分の思うままに農作業ができる。30分程度の遅刻など、まだ自分の畑が狭い俺にとっては特に影響はないだろう。

 さすがに、規模が大きくなればその分農作業も増えるので、徐々に時間に余裕が無くなっていくかもしれないが。


「さて、今日も農作業頑張らないとな」


 俺はそう言って玄関の扉を開いた。

 今日も朝日がとても眩しく、清々しい朝だ。


 俺が背伸びをしながら畑に近づくと、ようやく作物の様子がおかしいことに気がついた。


「…………コブルコどうなってんだよ。もっさもさじゃねえか」


 昨日、魔法の肥料を撒いた畝のコブルコの苗はすでに隣の畝まで生長していたが、そんなのは比じゃないほどだった。

 まるで畑がジャングルのようになってしまい、ほかの作物の生育にも悪影響が出てしまいそうだった。


「さすがにこれはどうにかしないとな……」


 俺はかなり伸びてしまったコブルコのツルを少し切ってしまおうと考えた。

 さすがにほかの作物の生育を妨げてしまってはどうにもならない。

 

 俺は隣の畝まで生長してしまったツルを持ち上げて、少し移動させようとすると驚くことに、そこにはまるでズッキーニのように太くて長い、緑色の作物がなっていたのだった。


「いやいや、実がなるの早すぎだろう!」


 種を植えて……3日目か?

 まあ、この生長スピードである程度予想はしていたが、いざコブルコの実をその目で見てしまうと、やはり魔法の肥料はとんでもない効果を発揮すると実感した。


 そもそも、コブルコの種を『鑑定』した時にも10日程度で収穫が出来ることに驚いたものだが、魔法の肥料でさらに収穫までの栽培期間が短くなったのだ。

 この世界の作物は地球の作物と比べると遥かに生育しやすい作物ばかりなのかもしれないな。


「うーん……どうしたものか……」


 俺は畑を覆い尽くすように伸びてしまったコブルコをどうしようかと悩んでいた。

 このまま引き続き栽培しても良いのだが、すでに実がなってしまったしなあ。


「とりあえずは収穫だな。そのまま放っておくわけにもいかないし」


 俺は一旦家に戻って、『資材ショップ』でくわなどと一緒に買っておいたハサミを木箱から取り出した。


 ハサミを持って畑に戻り、俺はコブルコの収穫を始めた。

 コブルコの実がなっているツルの根元をハサミで切り取って収穫していく。

 収穫したコブルコを入れるようなカゴもないので、とりあえず畑の隅に置くことにした。


 その後も順調に収穫を進め、実がなっているコブルコをすべて収穫できたのはかなり時間が経ったあとだった。

 畑の一角は収穫したコブルコの山ができてしまい、収穫をしていた俺も何本取れたのか把握できていなかった。


「ものすごい量になってしまったな……」


 畑に山盛りになったコブルコを見て俺はそう呟いた。


 改めてコブルコを観察すると、キュウリにあるような棘は確認できず、その大きさも相まって見た目はほとんどズッキーニだった。


「そろそろ朝食の時間だし、サラダにして一緒に食べてみようかな」


 俺は収穫したコブルコをずっと日光に当てるわけにもいかないので、朝食の前にひたすら家に運び込むと言う作業を行う羽目になった。

 家庭菜園レベルならばそんなのは苦でもないが、さすがに魔法の肥料で収量がアップしたコブルコを運ぶのには時間がかかって骨が折れた。

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