第12話

 俺はコブルコだけを栽培している畝の手入れを始めることにした。


 コブルコの種を植えた場所からはすでに芽が出てきていた。


 なぜかこの異世界の植物は生長が元々早い。もちろんそれは作物の苗だけではなく周りに生える雑草もだ。


 昨日結構な数を抜いたはずだが、それでも小さな雑草がところどころ生えていた。


 俺は雑草を抜き終わったところで家に戻り、ジョウロに水を汲んで畝に水を撒くことにした。


 そして今日はもう一つやらなきゃいけないことがある。


「よし、それじゃ支柱を作るか」


 俺はコブルコのツルを誘引する支柱を作成することにした。『資材ショップ』では、ただの支柱がなぜか300ポイントもするので、手が届かなかった。

 まだコブルコの種からは芽が出てきたばかりだが、10日で収穫ができるとなると早めに準備しておくに越したことはない。

 また地這いキュウリのようになってしまったら手入れが大変になるかもしれない。

 今でも、魔法の肥料を撒いた畝からはこちらのコブルコの畝に伸びてしまっているものもある。

 日光を遮ってしまう形になるので、それは切り落としてしまうことにした。


 俺は支柱作りを始めるために、木箱に使われていた木材を集めた。


 木箱の木材はかなり薄いものだったので、小川にあった石で叩き割れば枝くらいの細さにはなるだろうと考えていた。


「…………どうする、これ」


 現実はそう簡単にはいかない。 

 石で叩き割ることはできたが、木材はボロボロの木屑のようになってしまった。

 さすがにノコギリのようなものがないと厳しいと実感してしまった。


 くそおおお!支柱くらい簡単に作れるだろうと思ってたのに!!


 魔法の肥料をまいた畝のコブルコも今のペースだと明後日には収穫できて『資材ショップ』のポイントも回復できるだろうが……今はチートに頼るしかないのか。


「まあ、資材が色々揃ってからでも俺がやりたい農業はできるか。とりあえずこの畝も地這いキュウリとして栽培するかな……」


 この辺り一面にコブルコが広がってしまうのも仕方のないことだろう。次に栽培する時までには支柱も用意しておきたい。


 俺はコブルコのための支柱作りを諦め、今日もまた別の畝を立てることにした。


 コブルコがどこまで伸びてしまうかわからないので、俺は今作物を育てている2つの畝から15メートルほど離れた場所に畝を立てることにした。


 今回はこの畝にポムテルを植える予定だ。

 芋系の野菜が取れるとわかっているし、その栽培もジャガイモと同じだとすると、そんなに難しいものではないはずだ。


 最初の畝は魔法の肥料(レベル5)というとんでもない肥料を使ってしまって、その作物がどのように育っていくか観察もできなかったが、今回はゆっくり育てられるだろう。


 なんせ、あそこの作物は気が付いたらたくさん葉を付けてしまっていたしな。

 芽が出てきた喜びというものは全く感じられなかった。


「さて、それじゃそろそろ始めるとするか」


 俺はポムテルの種芋を植えるために、土を耕して畝を立てる。やはり、雑草や小石が混じっていて、それを取り除くのに時間がかかる。

 しかし、そういった作業も俺は大好きだった。土づくりが一番大事だとじいちゃんも言っていたし、作物の土台を今作っているのだと思うと楽しんで作業ができる。


 ちなみに、下手の横好きという言葉は聞いたことはあるだろうか。

 

 趣味などが下手にも関わらず、やたらとそのことに熱中してしまう人のことを指す言葉だ。


 ……もちろん俺みたいなやつのことを言うんだが。



「なんでうまくできないんだあああああ!」



 土を耕して除草をしたあと、畝を立て終わった俺は目の前の畝を見てそう叫んだ。


 前回の畝立ては波を打つようにガタガタになっていたので、均一になるように土を盛った……はずだった。


 土を盛る作業をしている途中にも、今まで盛った高さを確認しつつ畝を立てたし、今度こそうまくいくと思った。


 畝を立て終えた時にはかなりうまくいったと思っていた。

 視線の先に伸びる畝は以前のように波を打っていないことが目に見えたからだ。

 

 しかし、それは畝を横から見ることでその考えは間違いだと思い知らされた。


 最初の土の高さが15センチ程だとすると、最後に土を盛り終えた場所の高さは30センチ近くあるように見えた。


「たしかにガタガタじゃないけど高さが違いすぎるだろ!」


 どうして途中で気が付かなかったんだろうか?

 最後らへん、やけに時間がかかっている気がしていたがそれはきっと疲れてきたせいだと思っていた。

 

 そりゃあ、最初の2倍近く土を盛ったら時間はかかるよな……。


「まあ、畝の高さによる生育の違いについての実験……そういうことにしてしまおう!さすが俺、研究熱心だなあ」


 特に誰かに弁明するわけでもないが、全く上達しない畝立てから目を背けることにする俺だった。

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