第8話

 俺の顔は外国人のように彫りが深く、髪の毛はきれいなブロンドヘアだった。

 日本人だった俺の面影などどこにもなくなっていた。


「まあ……元の顔の何十倍もかっこいい顔になったからこれはこれでいいか」


 この世界にも日本人のような彫りの浅い顔の人種もいるかもしれないが、カミラがこの顔を用意したってことは、このような彫りの深い顔の人種が多いのかもしれない。万が一、誰かと交流することになったとしてもあまり目立たないようにという気づかいなんだろう。多分。


 俺は飲料水も確保できることに一安心し、再び結界石の効果があるであろう範囲を散策することにした。

 今は家に結界石を置いているので、家の前にある1ヘクタールほどの開けた土地がぎりぎり入る程度だろう。

 俺が耕した土地の外は木々が深く生い茂る森林が広がっていた。

 遠くから獣のような鳴き声も聞こえてきて、俺は少し怖くなってきた。

 

「まさか、ゲームみたいなモンスターが畑を襲ってきたりしないよな?」


 カミラが用意した木箱に入っていた結界石は、その効果が本当にあるのか少し実感しづらいところではあった。


 結界石の効果に少し不安を覚えながら、補給ボックスに食料が届くのもそろそろだと思い俺は家へ戻ることにした。


 補給ボックスを見ると、あと5分ほどで5時になるところだった。


「……ところでこれ、どうやって食料が運ばれてくるんだ?」


 そもそも、美味しい作物が食べたいというカミラが用意したものなんだろ、これ。

 まさかオムライスとかハンバーグとか、地球の食べ物が届くとは考えにくいし。


「食べられるものが届くんだろうな?」


 俺はこの補給ボックスについて一抹の不安を覚えた。


 俺は今日この世界に来たばかりなので、もしシュクレーゼの食べ物が出てきても口に合うかどうかわからない。


 俺は内心、米が食いたいなんて思いながら補給ボックスに食料が届くのを待つことにした。


 しばらくすると、補給ボックスの時計は5時を指した。

 その瞬間、キッチンタイマーのようなピピピピ、といった音が補給ボックスから鳴った。


「電子レンジみたいだな」


 なぜか、その音を止めるボタンもないようなので、俺はとりあえず前面についている扉を開いた。


 中には白い器に入ったビーフシチューのようなものと、フランスパンのようなものが入っていた。


「おお、意外と美味しそうだな……」

 

 地球とまるっきり違う食文化ならどうしようかと思ったが、意外とその辺は似ているようだ。


 俺はとりあえず出てきた食べ物を『鑑定』することにした。


◯ガルブのシチュー◯

 牛型モンスター、ガルブの肉と野菜を煮込んだシチュー。


◯セグリのパン◯

 セグリ粉を使って作られたパン。食べ応えがあり、腹持ちが良い。



「……モンスターって食べられるのか」


 てっきり、牛のような動物もいるかと思っていたが、もしかするとこの世界の主食はモンスターの肉なのか?


 そのガルブとやらのモンスターのシチューからはすごく良い香りがしてきたので、俺はすぐに夕食にすることにした。


「いただきます」


 俺は最初にシチューをスプーンで掬って食べた。見た目とは裏腹に、トマトのような酸味の効いたさっぱりした味だった。

 続いてガルブの肉も口に運ぶ。


「……これは少し癖があるかもな」


 ガルブの肉は少し獣臭く感じてしまった。

 しかし、肉質はとても柔らかくまるで角煮のようにトロトロとしていた。


 俺はシチューにパンをつけて食べようと思い、パンをちぎろうとした。


「硬いな!ボロボロになっちゃうぞ……?」


 見た目もぎっしり詰まっているように見えたので、日本にいた頃のバゲットくらいの硬さかと思ったが、想像の何倍も硬かった。

 

 俺はパンをシチューにつけて、少しでも柔らかくして食べることにした。

 パンの味自体は、小麦に似た風味が口一杯に広がりとても美味しいものだった。


 最初はパンとシチューだけかと思ったが、これだけでもかなり満足できる夕飯となった。




 夕飯を食べ終えた俺は、皿を片付けようとした。


「……洗剤もスポンジもないじゃん」


 昔の人は食器をどうやって洗っていたんだろう?

 とりあえず俺は食器を水で洗い流すことにした。不衛生かもしれないが、このまま置いておくよりは少しはマシだろう。


 しかし、夕飯を食べて何もやることが無くなってしまった。種蒔きは明日の朝やる予定だし、流石に寝るにはまだ早すぎる。


「そうだ、『錬金』を使ってみようか」


 俺はこの世界に来てまだ発動していないスキル、『錬金』を思い出した。

 よくゲームなんかで見るのは、素材同士を掛け合わせて未知の物質を作ることができるという設定だ。


 俺は種が入っていた木箱の中を漁り、一つの袋を取り出した。

 袋には、宝石のようにキラキラしたものや、何かの粉末のようなものが小さな袋に入れられているものが複数入っていた。

 

「多分これが『錬金』の素材だと思うんだけど……どれを使うか全くわからないな」


 とりあえず困った時は『鑑定』するべきと今日1日生活して実感したので、俺は素材に向かって『鑑定』を発動した。

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