第7話

 家に入り、手を洗っていると俺はひとつ重大な事に気がついてしまった。


「あれ……?俺って飯どうするの?」


 今日住み始めた我が家には、当然食料なんて用意していない。

 なんせ、ようやく畑づくりが終わったばかりなのだ。収穫する作物ももちろん無い。


「……このまま餓死なんてありえないだろ!カミラは何か用意していないのか?」


 俺は植物の種が入っていた木箱を漁ったり、キッチンの下にある収納を開けてみたりしたが、食料らしいものはなにも見つからなかった。


 まずい。非常にまずい。

 食べ物のことなんてこれっぽっちも考えていなかった。まさか、最初に訪れる窮地が食料問題だなんて思いもしなかった。


「『資材ショップ』には何かないのか?」


 これもカミラが用意したスキルなわけだから、こういったピンチを救ってくれるようなものがあるかもしれないと考えた。


「どこだ、どこにあるんだ!」


 俺は資材ショップを発動し、出てきたタブレットで片っ端から商品を調べた。

 まあ、『資材』ショップなだけあって、植物の種と農機具ばかり並んでいた。


 しばらく探していると、タブレットの右上にメールのようなイラストが点滅し始めた。

 俺はすぐさまそれをタップした。



◇From カミラ◇

 

 すまぬ、コーサク。

 お主に食料について説明するのをすっかり忘れておった。


 『資材ショップ』で補給ボックスというものを購入するのじゃ。

 その箱は1日に3食分の食料が支給されるものになっておる。

 お主が転移した世界、シュクレーゼは地球と時間の経過は変わらない。

 朝7時、昼12時、そして夕方の5時に食料を補給するのじゃ。


 上納期待しておるぞ〜




 俺がタップしたのは、カミラからの新着メッセージを表すものだったようだ。


 メッセージに書いてあった通り、俺は『資材ショップ』で補給ボックスを購入することにした。


 先程は気が付かなかったが、なんと購入するのに必要なポイントは0ポイントだった。

 それなら最初から用意してくれても良いんじゃないか?


 早速俺は補給ボックスなるものを購入すると、目の前には電子レンジほどのサイズで、前面に扉がついている白い家電のようなものが出てきた。


 もちろん、それは空中に出現したので、重力に逆らうことなく床に落下したが。


「こうやってものが出てくるのどうにかならないのかよ!」


 俺の生命線であるこの補給ボックスとやらが壊れたらどうするんだよ……。


 しかし、補給ボックスの見た目は小さい冷蔵庫のようだな。

 扉には小さなアナログ時計のようなものがついていた。おそらく、カミラの言う通りこの時計が朝の7時、昼の12時、夕方の5時になれば食料があらわれる仕組みなのだろう。


 補給ボックスの時計が差しているのはまだ4時半頃だった。


 あと30分も待てば夕食が食べられるようになりそうだな。


 5時まで特にやることもないので、俺はこの近辺を散策することにした。


 家を出て、裏の方に向かうとそこは斜面になっていた。

 日中、農作業に夢中で気がつくことができなかったが、斜面を降りた先には幅1メートルほどの小川が流れていた。


 小川までは結界石の範囲に入りそうなので、安心して水汲みにも行けそうだな。


「この世界にも魚ってやつはいるのかね?」


 俺は小川の様子も気になったので、斜面を慎重に降り小川へ向かった。


 小川を覗き込むと、とてもきれいな水が流れていて、今すぐにでも飲めそうなほどだった。


「……飲んでみたいけど、水質なんて全くわからないからな……。そうだ……『鑑定』」


 いきなり川の水を飲むわけにもいかないので、俺は川に向けて『鑑定』のスキルを発動させた。



◯パルミア川の支流◯


 パルミア川へと流れる支流。水質はとてもきれいで飲用可能。



「おお!この水飲めるのか!」


 パルミア川とやらは全く知らないが、飲めるとなれば川の名前なんてどうでもいい。


 早速俺は川の水を手で掬って口に運んだ。


「……おいしい」


 川の水は今まで飲んだ水の中で一番美味しく感じた。

 もちろん、川の水なんて飲んだことはなかったが、日本にもそのまま飲めるような綺麗な川もあったのかもしれないな。


 こんな綺麗な川だし、魚なんかもきっといるはずだ。

 そう思い、俺は顔をより水面に近づけて川の様子を見ようと思った。

 そこで、俺はようやくある点に気がつくこととなった。


「……へ?」


 水面に顔を近づけることで、今までは見えることのなかった自分の顔を見て、俺はそんな間抜けな声を出してしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る