踏切

ハクビシン

踏切

 これは僕の実家の近くにある踏切の話です。

 その踏切は周りを水田に囲まれ、街灯もないような場所にあり、夜中だと踏切があることすら分からないような場所にあります。

 だから慣れない人は踏切があることを知らずに通っていたり、突然鳴り出して気付くなんてことも日常茶飯事です。

 そんなある日、久々に実家に戻るよう用事があった僕は車で深夜にコンビニ行きたくなりその踏切を利用しました。

 しかし、いざ踏切を通過しようとしたとき急に目の前を女の子が通り過ぎました。僕は慌ててブレーキを踏むと同時に踏切が鳴り出し、遮断機が下りはじめます。

 女の子のことが気になりましたが、それどころじゃなくなった僕は急いで車を走らせ、踏切を抜けると車を降りて周囲を確認しました。

 

「誰もいない」


 明かりがないので詳しく見ることはできませんでしたが他に人影はなく、先ほど僕が見た女の子もいません。

 もしかして轢いてしまったか? とも思いましたが車にへこみもなく、そもそもぶつかったような衝撃もありませんでした。

 怖くなった僕はその踏切をもう一度使うことなく大回りして別の道から家に帰りました。


 家に帰ると僕の顔色を見て母が心配そうに声をかけてきたのでさっきの踏切の話をすると驚いたようにこんな話をしてくれました。


 昔、あの踏切の近くで遊んでいた女の子が車に引かれ、引いた運転手が保身のために傷ついた女の子を踏切の中に放置して逃げたことがあったそうです。

 

 電車が近づき、鳴り出す踏切。

 

 女の子は何とか逃げ出そうとしましたが、傷が深く動くことが出来ず電車の運転手もまさか女の子が倒れているとは思わずそのまま踏切を通過しました。

 それからというものそこを通り過ぎる車は何度か電車と接触事故を起こしそうになっているそうです。

 

 最初は母の悪い冗談かと思って聞いていた僕も何となく薄ら寒い気配を感じていましたが、それでも母に「冗談はやめてよ」と言いました。

 しかし、次の母の言葉に僕は言葉を失いました。


「そもそも、そんな暗い中なんであんたはなんで女の子がはっきりと見えたんだい?」


 確かにあんな暗い中、車のライトがあるとはいえ、一瞬通り過ぎただけの女の子をはっきりと認識できたのか……。

 

 僕はそれ以来、その踏切を一度も利用していません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

踏切 ハクビシン @ganndamu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ