濃密な杜の抱懐

 仙はただワラのようなものを宙から引き抜いて啜っている、とすると闇の帳がとうとう剥き出して露わ。蛇のようにあおく烏濡羽の憑き物がはらはらと舞い落ちる。辺りはもう身も蓋もなく、奇岩が立ち並ぶ化生雷獣と海の底へ、こわごわ口に入れる。

 こりゃあ大変なことである、

 蠱惑に溺れ言い痴れず満ちる燐火、コレが腹の足しになるのだといやに大真面目にぬたりと畏まった。それで私というものの願いが どうなるものでもないのだが、だいたい何を思ってこの場までいらっしゃったのか、と身を検める。


 足掛け雲仙念の梅の身も成就する境にいる。

 ころりと倒れたままのひとりぼっちが釘に刺されて、泡を食う、心做しか膨らんだような、深海魚は浜辺に打ち上げられた。びくついた眼差しがすべてを喪失していく、血の気が引いたあとに、

 体が硬直する。

 心臓は未だ鷲頭かまれたまま、ガタガタと震え縮み上がる、凄絶な夢魘。

 手と手のひらの合間で必死に拝む。

 除き揉まれた弐枚の貝殻の濁り、面妖なこと、粉微塵と砕けるほど、脆い声音が砕け渇いてしまう、そのまえに、

 

 乱れを発し空が急き込まれて訛りに詰まって死んだのだと心無い笑顔で悟る。何処か逃げ場もないほど屈折する、素性の知れないひと。狼が来たのだと叫び出したくなるけれど、ああでもこの程度で、すこしだけ垣間見た、クズやドロが片付いたような気がする。


 長い渡り廊下から下界をひとしきり細目てみて、重ねていく背の重さも悪くは無い、そんなところ。天使と呼ばれる羽を切り落とされ痕が熟む 、ニンゲンが偶像とやらを置いて生きた空もないが。

 然し乍ら偶然という必然。悪運という試練、それらすべて残念な摂理である。

 さてはなにから遠ざかるか、どこかへ近づくのだろうか。


 雨に祟られ歪にも夢を見たとんだ厄日に、大しけにも足を滑らせ捉まっただけ。運よく縋ったものだが果たして生きているのか死んでいるのか。谷底を覗くと底までは深く夢も希望も見えない。

 ただ霧の中だった、しかし確か私はそこにいるのだと覚えている。落下した瞬間 天を掴んだ気がした、重い体も記憶も霧散して 無に変えることは確かにそのときとして刻まれていて。


 しかし喰いちぎられたはずの

 骨の髄まで、滲んだ星々が

 錆色の空と、交じり合うときに

 沈黙の狭間で、生まれ出た喘鳴が

 文学的感傷に、なみだを落した

 違和感を抱くほどに甘美な実を浚い

 狂気をやどした 少年の面影しか、


 然しさっぱり理解できそうにない、日はまた昇り沈んでいくというに、嗚呼、怖ろしい感情を。



2022年4月7日 19:10

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