【KAC2022】 交換日記はいい文明
東苑
他人の書いた日記を読むのって面白い
とある女子高校の教室にて。
わたしはうんうんと頭を悩ませていた。
その理由は担任の先生との交換日記だ。
クラスメイト全員で一冊のノートを共有し、毎日 出席番号順で回ってきた生徒が書いてそれに先生がコメントするというものだ。我が校の伝統らしい。
どんなことを書いてもいいらしいけどそれが
なに書こうかな。
なにも思い浮かばないぞ。
なに書こうかな。
いやほんとになにも思い浮かばないよ……。
と、ループに入ってしまっている。
これを担任の
「あ~なにも閃かないよ~
白旗を上げ、隣で本を読んでいる幼馴染み――育美に助けを求める。
「テキトーでいいんだよ。今日は天気がよくていい気分でしたーとか」
「なんかそれは負けた気がするの! あっと言わせるようなこと書きたいんだよ~、エンターテイナーだからさ。わたし、そういうとこあるんだ……ていうか、育美なに読んでるの?」
「キノ●旅」
「なにそれ?
文ちゃんは高校から友達になった
アニメや漫画が好きな文化系女子だ。
「
「へ~、六花ちゃんたちと。完全に無意識に返事してた」
「おいおい。この本も六花から貸してもらったんだよ。六花が キノ●旅 面白いってその日記に書いてて」
「六花ちゃんって陸上部だよね? 読書が趣味なんだ、知らなかった」
育美の話を聞いて興味が湧いてきた。
わたしは日記をめくってクラスメイトたちがどんなことを書いてるのか見てみる。
「そうそう、そうやってみんながなに書いてるか見てれば、
「どれどれ~。お! この今期の推薦アニメ一覧とか
「それは麗が書いたんでしょうが!」
「あ、ほんとだ! わたしじゃん! くぅ、そうだった~! ネタに困ってとりあえず育美のこと書いたんだ! じゃあ次は
「いや自分のこと書きなさいよ」
「でもクラスの
「噓でしょ……」
ちょっと呆れ顔の育美。
どうやら育美は自分が人気者だということに気づいてないらしい。
「じゃあこないだクリームシチューつくったときにシチューに入れるキノコ隠したら怒られたって話にする?」
「な、なにそれ? まあいいんじゃない」
育美はちょっと投げやり気味に言う。
本読んでるのに邪魔しすぎちゃったかな。
よししばらく話しかけるのやめよう! 決めた! 決めたぞ、わたしは!
「こうやって読み返してると、この日記 面白いね! クラスのみんながなにが好きとかどんなこと考えてるとか分かるし、すばらしい伝統だよ!」
文字が大きいとか小さいとか、動物のイラストが描いてあったり、魔法とか使えそうな紋章が描いてあったり。
みんなの性格が、どんなことが好きなのか少し知ることができた。
この日記がなかったら知らなかったかもしれないんだ。
「うんうん、何事も前向きにね。今ならなにか書けるんじゃない?」
「あ……忘れてた」
わたしは笑いながら頭を掻く。
「でもね、もっとみんなと仲良くなれたらいいな~って思ったよ」
「っ……うん、そうだね」
なぜか育美に頭を撫でられた後。
わたしは再びうんうん唸りながら日記に向かうのであった。
わたしのことも、もっと知ってほしいと思いながら――
【KAC2022】 交換日記はいい文明 東苑 @KAWAGOEYOKOCHOU
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