パラレル交換日記

OFF=SET

第1話

 僕はもうすぐ死ぬ――――


 それが分かったのはお父さんとお母さんが病室に入ってきたときだった。


 お母さんの目が赤かったのを覚えている、何より自分の体は自分がよく分かっているんだ。

 体の力は日をおうごとになくなっていくのが分かるし、咳も出る。薬と言われて痛い注射もした。髪の毛がどんどん抜けてきた。



 お父さんとお母さんは、僕を励まして帰って行った。静かになった病室、並ぶぬいぐるみや、オモチャ。ため息をついて天井を見上げると足元に何か当たるものがあった。


 誰かが忘れて帰ったのかと、手探りでそれを引き寄せてくると、一冊のノートだった。

 そのノートには『パラレル交換日記』と、書かれてあった。



「誰のだろ?」



 見てはいけないと思いつつ、僕はそのノートを広げた――――



『虹野君はじめまして、僕の名前も虹野友弘にじのともひろって言うんだ、凄い偶然だね、これを機に交換日記をしませんか? よろしければお返事下さい』



「え? 僕と同じ名前だ」



 見ず知らずの同姓同名の子からの交換日記に驚いた。

 誰だか分からないが、この病院の誰かが渡してくれたのだと、半ば半信半疑で返事を書くことにした。



『はじめまして、虹野です、日記読みました、凄い偶然、奇跡みたい! これからも日記しましょう』


「よしっ、と」


 交換日記を誰に渡せばいいのか、とりあえず僕はそのノートをテーブルの上へ置いて布団を被った。


 翌朝、日記は無くなっていた。

 誰かに持って行かれたのか、それとも捨てられたのか、確かに置いたはずだったのだが、探したが見つからないので、仕方なく起こった出来事をお見舞いに来たお母さんに話した。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る