異世界【交換】日記

空本 青大

異世界【交換】日記

「じゃあ母さん行ってくるね」

「あ、その前に聞きたいことがあるんだけどいい?」

「なに?」

「この間遊びに来てたお友達の朝田君ってなんか前と雰囲気変わった?」

「いやずっとあんな感じだけど?」

「・・そう。母さんの勘違いみたいね。引き止めてごめんなさい、行ってらっしゃい」

「うん?行ってきまーす!」


家にカバンを置き着替えた僕は家から勢いよく飛び出す。


僕の名前は一ノ瀬海斗いちのせかいと

最近おもしろいお店を見つけてここのところ毎日通い詰めている。

家から徒歩10分ぐらいの商店街から少し離れた場所にある本屋だ。


見た目はレトロで洋風な・・なんというか魔女が住んでそうな建物って感じ。

自分でも妙だとは思うんだけど、ある日誘われるようにこのお店の前にいた。


恐る恐る中に入ると壁一面に本が並べられてて、

長髪の片眼鏡を付けた見た目は若いのだけど、雰囲気はおじいちゃん?みたいな店主に出迎えられた。


ここでは好きな本を店の奥にあるソファで座って読めるシステムなのだとか。

100円払えば一日読み放題とか怪しさ満開だったけど、そんな疑念も本を読み漁っていくうちにどうでもよくなっていっちゃった。


今では常連客だ。

今日もいつも通りドアを開け店主にあいさつを交わす。


「こんにちわ!はい100円!」

「いらっしゃい♪ではごゆっくり」


店主はさわやかな笑顔を僕に向け、100円を受け取ると今まで読んでいた本を再び読み進める。

椅子で読書をする店主を横目に、本棚を物色する。

ここのお店はファンタジーものの小説が充実している。

僕は面白そうなタイトルの本を見つけると手に取り、お店の奥にあるソファにドカッと座る。


本の内容は現実世界から異世界に転移した少年が、勇者となって魔王と戦い世界を救うお話だ。

この本もそうだが不思議なことにどの本も出版社の名前がないし、この手の本によく書かれるおなじみのこの本はフィクションですだとか注意書きもない。

それどころか作者名すらない。

店主にこのことを聞いても、独自のルートで手に入れたものとしか情報は聞き出せなかった。


怪しさは今でもぬぐい切れないけど破格で面白い本が読めれば何でもいいや。


ぺらぺらと夢中でページをめくり数時間。

ふと腕時計の時間を見ると17:30と表示されていた。


読み終えた本を棚にかえし店内を見渡すと客は僕一人しかいない。

というか僕以外お客さん見たことないけどお店やっていけてるのかな?

そんな疑問を抱きながらお店を出ようとすると店主に呼び止められる。


「こちら新作だけど良かったら試してみませんか?特別に差し上げますよ」

「え!いいんですか⁉」


店主から分厚い本を受けとる。

赤色のハードカバーに金色の花や模様が付けられていて、タイトルはない。


「何の本ですか?」

「開けばわかりますよ♪」


訝し気な顔をする僕に対しいつもの笑顔を見せる店主。

とりあえずお礼を言うとお店を後にした。


家に帰り、晩御飯を食べお風呂を済ました僕は部屋で机に向かい、貰った本を開いた。

そこには【セイル・ゴーシュテン】という僕と同じ年齢の少年の手記?みたいなものが書かれていた。

なんか毎日の出来事だったり、心の内だったり、悩みだったりと、

見慣れない単語や魔法の呪文のような言葉もあって、自分が普段読んでいる小説の世界に似ている。

ただこの本は小説というよりセインって子の日記みたいに感じる。


ふと店主の言葉を思い出した。

試してみてだとか開けばわかるだとかなにか意味深なことを言っていたな・・。

真意を確かめるべく読み進めているとページは急に白紙になる。

残りの他のページを見ても同じく白紙だ。

どういうことだと書かれている最後のページに戻ったとき、異変は起きた。


右ページにはセインの日記、その左のページは白紙のページのはずだったのにどういうわけか文字が書かれている。


『異世界につなげますか? YES/NO』


なんだこれは?

確かにここには何も書かれていなかったはずだ。

それにこの質問はなんだろう?

もしかしてどっちかに丸をつけるのか?

僕は机においてあるペンスタンドからボールペンを取り出す。

カチッとノックするとペン先を『YES』に恐る恐る近づける。

そしてシュッと丸で囲うと、質問の文がスゥっと静かに消えた。


驚いた僕は椅子から立ち上がり、机から離れる。

心臓がバクバクとうるさいぐらい鼓動を繰り返している。

恐怖心と好奇心が入り混じった感情に体が動かされ、僕は再びページを確認した。


『接続に成功しました。ページに記入することでコンタクトを図れます』


どういう意味だ?

頭がパニック状態だけど正直気持ちは浮ついていた。

とりあえず何か書けばわかるかもしれない

そう考えた僕は再びボールペンを手に取ると、白紙のページにペンを走らせる。


『こんにちわ。僕の名前は”一ノ瀬海斗いちのせかいと”。君とは違う世界に住んでいる。良かったら返事をもらえると嬉しいな』


コンタクトを図れると書かれていたから、恐らくはこの本に書かれている”セイン”って子に対してそれができるってことだと思う。

そう考えセインに向けて書いてみた。

だが、15分ほど待ったがこれといって反応はなく僕は少し落胆する。

とりあえずもう夜も遅いし、明日店主にこのことを聞いてみよう・・。

そう決心して僕はベッドに入り、少しドキドキしながら眠りについた。


翌日いつも通り慌ただしく朝の準備を終え学校へ行き、

終わると家に一直線に帰った。

部屋に戻りいつもの店に行こうと思ったとき、昨日のことが気になり自分が書いたページを開く。

するとそこには・・。


『僕の名前はセイル・ゴーシュテン。君は何者だい?僕のことを知っているのか?』


僕が書いた隣のページに返信するような文章が書かれていた。


手に汗がぶわっと噴き出す。

震える手でペンを握ると僕はまた白紙のページに文字を書きこむ。


『ああ知っている。申し訳ないのだけど勝手に君の日記を見ちゃってそれで知ったんだ』


書きこむと今日はすぐに隣のページに文字が浮かび上がる。


『そうなのか、少し恥ずかしいけどそれ以上にこの今の状況に興奮を抑えられない。いきなりで悪いが君のことをいろいろ知りたい』


この日を境に僕はセインとこの不思議な本を通じて交流を深めていった。

お店には通わなくなり、代わりにセインとの毎日に夢中になっていく。


セインの世界はスライムやゴブリンやドラゴンなどたくさんの魔物がいること。

魔法が存在し、日常生活で使ったり戦に使ったりしていること。

セインの家はかなりの名家で王家に仕える由緒正しい騎士の家系であること。

セイン自身や向こうの世界のことを色々教えてくれた。


対して僕も自分がいるこの世界のことをたくさん教えてあげた。

スマホみたいな便利な科学というものが発達してること、動物はいるけど魔物はいないこととか書くとセインは羨ましそうな反応を見せる。

なにより平和な世界で学校という場所で、同年代の子と勉強したり遊べるのが良いみたいだ。


セインの世界には魔王がいて、いずれ自分も討伐に向かうのだとか。

そのことがつらいと度々漏らしていた。

セインには悪いけど僕自身はそっちの世界がうらやましく思えた。

剣と魔法のファンタジーで勇者として戦う・・。

小さかったころから僕の密かな願望だ。

それについて言うと君は変わっているなと返されてしまった。


交流が続いて約半年。

ある日のことだった


いつ通りページを開くとそこにはセインの重々しい状況が書きこんであった。


『魔王の勢力が拡大してきて、それに伴い僕の国でも討伐隊が編成され、自分も加わることになりそうだ・・。ああ嫌だ・・。そもそも自信がない。助けてくれ海斗』


切実な言葉にぎょっとする僕だったけど、


『どうにかできるならしたいよ・・。なにか方法があるならなぁ・・。まあさすがにないだろうけど』


と返すとセインから、


『方法ならある』


とまさかの返事が返ってきた。


『どういうことだ?』

『黙っていたが僕達がずっと書いてきたこの本は異世界につながる魔法の書だ。つながるのは文字だけではない。この半年で君と僕の願望が書きこまれた本は、実際に異世界へと来ることのできる願望器に変化したんだ』


すると、白紙のページに


『異世界に行きますか? YES/NO 』


初めて本を開いた時のような質問が浮かび上がる。


頭が真っ白になった僕だが心は踊っていた。

ここに書きこめば夢が叶う。

怖いけど指は僕の気持ちに従い淀みなく動く。


『YES』


丸を書きこんだ瞬間僕の体は光に包み込まれる。


光が収束すると部屋は静寂に包まれる。


そしてほんの数秒後部屋には2つの影が現れる。


「ふむやはり選びましたか・・。これで新たな”新刊”が生まれますね♪」


長髪の片眼鏡を付けた店主の姿がそこにはあった。


「あの子の代わりに君にはここの世界で生きてもらいます。大丈夫そうですか?セイン君」

「はい、海斗にこの世界のことを色々教わったので大丈夫だと思います」


もう一つの影はセインと呼ばれた、ずっと海斗と日記で交流をしていた少年だった。


「でもバレませんか?」

「大丈夫。この本の魔法で帳尻を合わしますから。たまに利きが悪い方もいますが問題ないでしょう」


不意に本にタイトルが浮かび上がる。


『カイトの冒険』


「頑張って名作にしてくださいね♪」
















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