【進化】


『さらばじゃ、愛美――』




 次の瞬間、地下深く暗がりの拡がるフロアに、グシャリという音が、大きく鳴り響く。


 抵抗出来ない程の凄まじい圧迫を受け、機器が激しく軋む音を耳に、愛美の意識は瞬時に途絶えた。


 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第71話【進化】

 





『こんなところで、終わりかね?』


 不意に、誰かが呼びかける。

 暗闇の中、愛美は、声のする方向に目を凝らした。


「だ、誰……?」


『ワシの知るアンナローグは、こんな程度ではへこたれない、強い人であったぞ』


 暗闇から響く、不思議な声。

 それは、聞き覚えがあるような、ないような、しかしてとても温かい、懐かしさを感じる声だ。


「あなたは、どなたですか?

 私を知っているのですか?」


 不思議そうに、尋ねる。

 視界の遥か彼方に佇む、白衣をまとった白髪の男性の姿が、暗闇にぼんやりと浮かび上がる。

 その表情はよくわからなかったが、愛美は何故か、その人物を前から良く知っているような気がした。


『そうとも。

 ワシは、君の事を知っている。

 ずっと、ずっと――そう、気が遠くなるほど昔からな』


「どういうことでしょう?

 私は、あなたの事を存じ上げません。

 それなのに、あなたは、私のことをご存知なのですか?」


 白髪の男が、ゆっくりと頷くのが見える。


『ワシは、遥か時の彼方から、君のことを――いいや、君達のことを知っている。

 世界を救う五人の女神、アンナセイヴァーの勇姿をな』


「女神……勇姿?」


『ああ、そうじゃ。

 ワシの知っているアンナセイヴァーは、こんなことではへこたれない、無限の勇気と強さを持っておった』


「私は、そんな大それた者ではございません。

 弱虫で、臆病で……そして、情けない存在です!

 皆さんの足を引っ張ってばかりの、どうしようもない――」


『そんなことは、ないぞ』


 いつの間にか接近していた白髪の男は、愛美の肩に、そっと手を置く。

 不思議なことに、その温かな手から、少しずつ力が注ぎ込まれるような気がした。


『君はまだ、周りが良く見えていないだけじゃ』


「周りが、ですか?」


『ああ、そうじゃ。

 君は慣れない環境で精一杯頑張っているんじゃろう。

 だがそのせいで、本当の自分を出せていない。

 君の自信のなさは、それが原因だと、ワシは思うな』


「自分を出せて、いない……」


 手から伝わるぬくもりが、何故だか、自分の心を振るい立たせていくような感覚に捉われる。

 男は、更に優しい口調で語りかける。


『君は、まだまだ強くなる。

 ワシは、知っているのじゃ。

 君達がやがて世界を救い、邪悪な意志に苛まれていく世の中を、浄化していくのをな』


「私達が、世界を?」


『ああ、そうじゃ。

 だからこそ、ワシは、君に――君達に、力を与えるのじゃ』


 手から注がれる力が、徐々に熱くなっていく。

 愛美は、その力に呼応するように、心の奥底で何かが燃え上がっていくのを感じた。


「私は……今からでも、立ち上がれますか?」


『ああ、立ち上がれるとも』


「私は、闘えますか?

 この世界で暮らす大勢の方々の暮らしを、幸せを、護ることは出来ますか?」


『ああ! 絶対に出来る! 自信を持ちたまえ』


「そう仰っていただけると、なんだか、本当にそんな気がして参ります……」


『愛美――アンナローグ』


 男の顔が、はっきりと見えるようになる。

 その表情はとても優しく、まるで何もかもを包み込んでくれるような、慈愛に満ちている。

 愛美の心の中で、男のイメージと、かすかな記憶が結び付く――様な気がする。


『アンナローグはな、君が思っているような、ちっぽけな存在ではない。

 とてつもなく強く、計り知れない程に逞しく、そして――優しいんじゃよ』


「やさ、しい?

 私が、ですか?」


『君の強さは、優しさだ。

 強い自信を以って、優しさを力に換えて闘う、それがアンナローグなのじゃ』

 

 男の励ましが、そのまま愛美を奮い立たせる力になっていく。

 そんな気が、する。


『優しい力は、奇跡を起こす。

 ――起こしてみせろ、アンナローグよ』


「私が、奇跡を?」


『そうじゃ。

 その為に、ワシが出来ることは全てつぎ込んだ。

 君のまとうアンナユニットは、伊達じゃない。

 数千、数万、いやさ、それ以上の永いときを越えて、この地に降り立った。

 ――どんな邪悪でも、きっと振り払える!』


 上目遣いに見つめ、微笑む。

 白髪の男の激励を受け、愛美は、心の奥からこみ上げるものを感じ始めた。


「私――やってみます。

 私の為じゃない、私の過去の為じゃない。

 これからの、大勢の皆さんの未来(みらい)の為に、もう少し、頑張ってみたいです!」


『ああ、その意気じゃ。

 思い切り、ありったけの力をぶつけるんじゃ』


 ぽん、と肩を叩き、男が離れる。 

 みるみる遠ざかり、あっという間に霞んでいくその姿に、思わず愛美は大きな声で呼びかけた。


「ありがとうございます!

 どなたかは、存じませんが、本当にありがとうございます!」


 愛美の、精一杯の礼の言葉に、男は何故か、少しだけ悲しそうな表情を浮かべたような気がする。

 だが、すぐに笑顔に戻り、大きく頷いた。


『――ボルテック・チャージ』


「え?」


『君を次のステージに引き上げる、魔法の言葉じゃ。

 見せ付けてやれ、アンナローグ!』


「ああ……は、はい!」


 暗闇に霞んで消える男の姿に、愛美は、無意識に頭を下げていた。


 その頭に、強い力が加えられる。

 現実に、引き戻されていく。






 

『外郭を割ったその隙間から、啜ってやろう!

 溢れる血を、はみ出す肉を、脳漿を! そして突き出る骨をぉ!

 千葉愛美! お前の肉体の全てを、余すことなく全て、この身に取り入れえぇぇぇぇっっ!!』


 ベヒーモスは、ありったけの力で、アンナローグの頭を、身体を押し潰した。

 だが――


 ベコッ! と激しい音を立てて割れ砕けたのは、床板だった。

 床を突き破り、めり込みはするものの、アンナローグ自体はまだ破壊されていない。

 それに気付いたベヒーモスは、両手を合わせて更に力を込める。


『おのれ仙川ぁ!

 かくも無駄に堅固な鎧などこさえおってぇ!!』 


 うつ伏せの状態で、どんどん床にめり込むアンナローグ。

 だが突然、その身体がビクンと反応する。

 エメラルドのマーカーと瞳に、激しい光が宿っていく。


「はぁっ!!」


 次の瞬間、鋭い気合の声を上げる。

 大気をつんざくような轟音を巻き上げ、アンナローグは身体を引き起こす。

 その力は凄まじく、全力で押し潰そうとしたベヒーモスの両腕を払いのけ、それどころかエレベーターまで吹き飛ばしてしまう程だ。


『ぬぐわっ?!』


 壁に激突したベヒーモスが、苦しげな悲鳴を上げる。


 アンナローグの表情に、激しい怒りが宿った。




"Update completed.

 ANX-06R, moving to the next phase.

 Vortic Charge has become viable.

 Hell-Sonic has become executable.

 32,796 more experience points are required until the next phase.

 We will share information with DUGEON and ANNA-UNIT.


 ANX-06R SYSTEM-REBOOT."



「――はあぁぁッ!!」


 アンナローグが、吼える。

 今まで聞いた事もないような、地を揺さぶるような、力強い声。

 それと同時に、全身が激しく発光し、周囲に白銀の光が満ちていく。


 ベヒーモスの拘束から開放されたアンナローグは、全身を銀色に輝かせながら、宙に浮かんでいた。

 その髪から伸びるリボン――エンジェルライナーが、いつのまにか四本から、六本に増えている。


 額のマーカーが、まるで魔法の紋章を思わせるような形に変化する。

 そして何より、その表情は――獲物を狙う獣のような、激しい怒りに燃えている。


 握る拳からは真っ白な閃光が迸り、足首と背中からは、まるで後光を思わせるようなまばゆい輝きが拡がっていく。


 そこに居るのは、今までのアンナローグではない。

 輝きも、漲る力も、眼差しも決意も、何もかもが違う。


 一辺の怯えも、恐怖もない。

 全く新しいアンナローグが、全てを射抜くような鋭い眼差しで、ベヒーモスを捉えていた。


『な、何だと……?!』


 事態の急変に気付いたベヒーモスが、慌てて身体を起こす。

 だが、少し遅かった。

 数メートル先で滞空していたアンナローグは、瞬き程の一瞬で、すぐ目の前に移動していた。


 激しい怒りを宿した瞳が、睨みつける。

 その迫力に、ベヒーモスは、思わず一瞬怯んだ。


「たあぁぁぁぁぁぁ――っ!!」


 強烈なラッシュが、始まる。

 六本に増えたエンジェルライナーが、突如高速で動き出し、ベヒーモスの身体を切り刻み始めた。


『ぬ?! ぐ、くぅっ?!』


 唐突な猛攻に、ベヒーモスは思わず逃走し、距離を置く。

 即座に巨大な尾を振りかざし、それでアンナローグを横殴りにする。

 尾の大きさは、アンナローグの体格より遥かに大きく、しかも相当な重量だ。

 それが猛スピードで、迫ってくる。


 エンジェルライナーが再びシールドを形成し、それを受け止める。

 と同時に、なんとアンナローグはその場で大きく前転し、両脚を垂直に振り下ろした。


『ギャアアッ?!』


 ザクリ、という鈍い音と共に、ベヒーモスの尾が切断された。

 それが床に落下するよりも早く、既に体勢を整えたアンナローグが、ローリングソバットを繰り出す。

 斬り飛ばされた尾はベヒーモスの顔面にぶち当たった。


『ぐぉ……?!』


 落下した尾は、ズズン、と鈍い音を立てて、徐々に黒ずみ始める。

 そして切断された傷口からは、既に新しい尾が生え始めている。

 ベヒーモスは、肩で息をしながら、アンナローグの姿を追い求めた。


『ど、どこじゃ? どこに行った?!』


 きょろきょろと周囲を見回すも、視界内に姿はない。

 だが、真上から鋭い殺気が感じられ、ベヒーモスは素早く顔を上げた。

 巨大な角が、急降下してくるアンナローグを狙う。


『来い! 串刺しにしてやろうぞ!』


 両手を広げ、不気味な笑顔を浮かべる。

 高速で真っ逆さまに落下してくるアンナローグは、このままでは避けることが出来ない。

 あと数メートルで角が突き刺さる! という瞬間、突然、アンナローグが回転した。


『なにっ?!』


 ピタッ、という音が、聞こえたような気がした。


 土壇場で身を翻したアンナローグは、なんとベヒーモスの左角の先端を指先で押さえ、逆立ちの状態で制止していた。

 無論、それはほんの一瞬の出来事。

 しかし、ベヒーモスの虚を突くには、充分過ぎた。


「たぁっ!!」


 後転する要領で、ベヒーモスの後頭部に踵蹴りを食らわせる。

 と同時に、フォトンドライブが作動した。

 後頭部に凄まじい閃光が迸り、同時に激しい打撃を食らい、ベヒーモスは前のめりに突っ伏した。


『お、おのれ、ちょこまかとぉ!!』


 だが、ベヒーモスは倒れない。

 巨体を器用に、そして信じ難い程の速さで捻り、体勢を立て直すと、轟音にも似た叫び声を上げ、威嚇した。


『おのれぇ、作り物の分際で、この私を愚弄するかぁ!!』


 怒りに燃える紅い眼が、激しく煌く。

 その途端、筋肉が膨張し、爪が伸び、角も鋭さを増し始めた。



 ―――巨大化ガルガンチュア



 1.5倍程身体が膨らんだベヒーモスは、まるで大気をも斬り裂かんばかりに大きく腕を振るい、ビュンビュンという鋭い音を立てる。


 その先に佇むアンナローグは、相変わらず、怯え一つない表情で、真っ直ぐに彼を見据えていた。


 一瞬の、沈黙が流れる。



『ぬおおぉぉぉ!!!』


「はぁっ!!」


 同じタイミングで、二人が突進を開始する。


 今や六メートル近い巨体になったにも関わらず、ベヒーモスの素早さは尋常ではなく、通常のアンナユニットをも越える勢いで加速する。

 超重量での加速に耐え切れず、走る度に、足が床板を粉砕していく。

 ドム、ドム、という鈍い振動音が鳴り響き、同時に鋭く巨大な爪が空を切る音が重なる。


 そして、同じく風を切り裂くような、アンナローグのリボンの旋回。

 同心円しか見えない程の高速回転を始めたアンナローグは、巨大な回転刃のようになり、そのまま突っ込んでいく。

 鋼鉄のような爪と、回転するエンジェルライナーが、真っ向から火花を散らす。

 ガリガリ、ギリギリ、と耳障りな金属が擦れる音が周囲に響き渡り、両者の猛攻は均衡状態に突入した。


『グ、グガガガガガガ!!』


 だが、やがて勝敗は決する。

 エンジェルライナーの刃が、徐々にベヒーモスの爪を、削り始めたのだ。

 やがて爪を失った大きな手が切り裂かれ、鮮血が飛び散る。


『グワアァァッ!!』


 手首までズダズダに切り刻まれたベヒーモスは、思わず後ずさり、アンナローグから距離を取ろうとする。

 だがそこにアンナローグが飛び込み、右手でベヒーモスの首を鷲掴みにした。


『ぐっ……?!』


 これまでにない程の怪力で、六メートル級の巨体を、宙に吊り上げる。

 と同時に、アンナローグの背中から、まばゆい閃光が噴き上がった。


「ぬうぅぅぅっ!!」


『な、なんだ、この、異様な力は……?!』


 アンナローグは、ベヒーモスを持ち上げたまま、一直線に突進する。

 分厚い壁を次々にぶち抜き、破壊し、それでも突進を止めない。


『ぐ、グオアァァァァァァ!!』


 ベヒーモスが、これまで以上に悲痛な悲鳴を上げる。

 それは、もはや威嚇や雄叫びではない。

 命を削られる者が、必死で救いを求めるそれだ。


 しかし、それでもアンナローグの突進が止まることはない。

 抗えない程の一方的な力にねじ伏せられ、ベヒーモスは、あの「大樹」のあった部屋まで押し戻された。


「はっ!」


 気合の声と共に、ベヒーモスの体躯を、軽々と放り投げる。

 一番奥まで吹っ飛ばされ壁に激突したベヒーモスは、全身に走る激痛に喘ぐしかない。


『い、いったい、奴に何が起きた?!』


 呼吸困難に陥りながらも、徐々に回復していく手と爪を見る。

 だが、その遥か彼方では、銀色に輝くアンナローグが静かに滞空し、こちらを見つめていた。


 両拳を握り、胸の前で、激しくぶつけ合う。

 そして、叫ぶ。



「ボルテック・チャ―――ジ!!」



 詠唱と同時に、アンナローグの身体全体が、銀色に変化した。

 両手を広げると、それに沿って銀の光が胸の前に現われ、真横へ伸びていく。

 それはやがて、幅の広い大きな「剣」の形へと変化する。


 「剣の形の光」は、やがて虹色の閃光をまといながら、実体化する。

 なんとアンナローグは、無の状態から刃渡り1.5メートル程の、ブロードソードのような武器を生み出してしまった。

 剣の刃は三十センチ程の幅広いもので、クリスタルを思わせる半透明の蒼を帯びている。

 そして銀色に統一された刃の中心、ナックルガードを思わせる大きな鍔、柄は、まるで芸術品のような造形美を誇り、その表面には、美しい唐草模様が浮き彫りで刻まれている。


 右手で掴むと、切っ先をベヒーモスに向ける。


 半透明の刃越しに、アンナローグは、真っ直ぐにベヒーモスを睨みつける。

 その視線には、一片の迷いも、恐れもない。




「てえぇぇいやあぁ―――ッ!!」




 アンナローグが、銀色の剣を振り上げ、ベヒーモスに斬りかかる。

 否、斬りかかった――と、認識することは、誰にも出来なかっただろう。


 剣を振り上げたアンナローグの姿は、まるで全身が光の塊になったかのように、急加速する。

 否、少なくとも、ベヒーモス自身にはそう見えたのだ。


『ひ、ヒイイイ?!』


 咄嗟に両腕でガードするも、光となったアンナローグは、あっさりとそれを貫通する。

 分厚い鋼鉄の塊をレーザー光線が撃ち抜くような、鋭い衝撃音に続き、半透明の刃が、深々とべヒーモスの首許を貫いた。

 それは先程、アンナチェイサーが見抜いた、コアのある場所だ。


 大きく見開かれた紅い眼が、アンナローグを見つめる。


 ボゴッ、という鈍い音と共に、ベヒーモスの背後の壁に、直径十メートルはある陥没痕が発生する。

 ズン、という重い音が、更に遅れて聞こえて来た。


 そしてアンナローグは、銀色の剣を握ったまま、身を翻して数メートル離れた位置で滞空した。



『な……こ、これが……?

 これが……私の……最期?』


 よろよろと、立ち上がる。

 首の傷口を庇おうとするも、その周囲に残留する輝きに焼かれ、爪や指がボロボロと落下していく。

 

『待て、待ってくれ!

 私は、この私は……この日本のために、なくてはならない存在なんだ……

 それが、こんなことで?

 ならん、それだけは……決して、ならんのだぁ!!』


 拙い歩みで、アンナローグに向かって歩き出す。

 槍の刺さったところから、ドス黒い染みが拡がり始め、徐々に崩壊が始まる。

 黒炭のような破片をボロボロと零しながらも、ベヒーモスは、尚も前へ進んでいく。


『ま、愛美……

 まだ、まだ間に合う筈だ。

 お前を……お前の肉を、骨を、身体を!

 こ、こここ、この私に、けけけ、献上するのら……らぇ』


 崩壊が、遂に下顎に達する。

 言葉すら紡ぎ出せなくなっていくベヒーモスを、アンナローグは無言のまま、冷たい眼差しで見下ろしている。


 ベヒーモスの崩壊の速度が、一気に速まった。


『ぬ、ぬぬぬぬぬぬ、ぬっぽん!』


 訳のわからない断末魔を上げ、ベヒーモスの頭が、遂に砕けた。

 更に、首、胸、腕と崩れ落ち、遂には下半身までドス黒く染まっていく。


『ほげげ……えぇ……』


 生に執着する者の、崩壊。

 それは実にあっけなく、惨めなものだった。

 ベヒーモスの身体は、まるで最初から何もなかったかのように、完全に崩れ去った。



 アンナローグの額のマーカーが元に戻り、全身を包む銀色の光も消失する。

 それと同時に、手に握られていた銀色の剣も、空気に溶けるように消滅した。


 ドン、という音を立て、床に落下する。


 

「わ、私はいったい……?」


 

 我に返ったその表情は、いつものあどけないものに戻っている。

 もう、あの激しい怒りの形相は、ない。


「た、倒したのですか?

 わ、私が、一人で?」


 広いフロアの中央で、アンナローグは大きなお尻を床板にめり込ませたまま、ただ途方に暮れるしかなかった。




 

 

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