美神戦隊アンナセイヴァー

敷金

序章 -PROLOGUE-

序章【異変】

 東京都新宿区・新宿ゴールデン街。

 古くから賑わう“新宿の夜の街”の一つで、その日も、大勢の人々が一時の歓びを味わうため、ここを訪れていた。


 「あかるい花園三番街」。

 オレンジ色に白文字の看板を掲げたゲートの向こうに伸びる、細い路地。

 行き交う人々の目を避けるようにコートの襟を立てると、その者は素早く路地に入り込んだ。

 人通りが少ない路を進みながら、コート姿の者は落ち着きなく周囲を見回すと、懐から何かを取り出した。


 それは、直径約4センチ、長さ7センチ程度の円筒型の物体。

 プラスチック製に見える半透明なケースを、その者は手近な建物の隅に、そっと置いた。


「……」


 小さく呟くと、その者は素早く踵を返し、元来た路を戻っていく。

 途中、幾人かの通行人とぶつかりながら、その者は青梅街道方面へ小走りに進んで行った。

 まるで、何かから逃げるように。






 美神戦隊アンナセイヴァー


 ACT-0 【異変】






 現場は、凄まじい臭気に満ち溢れていた。


 ここは、新宿ゴールデン街の奥にある、「四季の路」と呼ばれている小路。

 多くの草木に囲まれたこの小路と、区役所通りを結ぶ、白い看板が掲げられた道路には、沢山のパトカーや鑑識車などが集まり、多数の警官・鑑識員・刑事達と、遠目にそれを眺める野次馬達がひしめき合っていた。

 テープで隔離された“現場”には、どことなく禍々しい空気が漂っている。

 そんな現場を目を細めて眺めると、男は苦々しい表情を浮かべ、煙草の煙を吸いこんだ。


「いやぁ、とんでもないですね」


 若い刑事が、ハンカチで口元を押さえながら小走りでやってくる。

 元気な口調ではあるが、その真っ青な顔色から、とんでもないものを見せられただろう事は想像に難くない。


「ひどい状態ですよ。もう、バラバラに散乱してて」


「また、“アレ”か」


 若い刑事は、“アレ”という部分で表情を濁らせるが、頷いてボソボソと語り始めた。


「え、ええ。

 辺りは血の海で、ホトケさんの上半身が丸々無くなってますね」


 報告を興味なさそうに聞くと、男は虚空を見つめ、重い溜息を吐く。


「見てみるか」


「え?」


「だから、ホトケさんをな」


「や、やめた方がいいですよ!

 オレ、しばらく焼肉食えそうにないですもん!

 つ、司さぁん~!!」


 懐から取り出した白い手袋をはめながら、司と呼ばれた男は、平然とテープをくぐり中へと進んでいった。


 複雑な形状に引かれた白いラインと、現場に残る独特の雰囲気から、ここでとてつもない事態が発生した事が容易に把握できる。 

 司は死体を運び出そうとしている係を呼びとめた。


「ホトケを少しだけ見せてくれないか」


「ずいぶん酷い状態ですよ。

 さっきも若い刑事さんが、口元押さえて飛び出して行きましたから」


「構わんさ」


 そう言いながら、司はカバーを少しめくり上げる。


 そこにあったものは、人間ではなかった。

 否、もはや“人間と呼べなくなってしまった物”だ。


 ばっくりと割れた胴体からは内臓といくつもの骨が覗き、完全に原型を留めていない。

 “残骸”の状況に眉一つ動かさず、司はまた重い溜息を吐いた。


「すまなかったね、ありがとう」


「え? ええ」


「これじゃまた、身元調査が困難そうだな」


 予想外の反応だったのか、係は司の顔を不思議そうに眺め、急いで車へと急いだ。


「人間じゃないな、食い散らかしてるじゃないか」


 吐き捨てるように呟く。

 司はビルの狭間に広がる夜空を見上げ、眉に皺を寄せた。



 ――都内各所で頻発している、猟奇殺人事件。


 被害者は無残に身体を引き千切られ、大量の血を撒き散らして殺されている。

 事件現場はいずれも激しく荒れており、中には肉片や内臓の破片が周囲に飛び散っているケースもあった。


 共通している特徴として、いずれの被害者も“現場で肉体を損壊されている”痕跡がある。

 加害者に拉致され別所で殺された後、解体処理を受けて遺棄されたわけではない。

 現場に残された数多くの痕跡や遺留品が、それを明確に物語っている。


 そう、まるで……獰猛な肉食動物に不意を突かれて捕食されたようにすら見える。


 今回の被害者は、ホームレスの男性らしい。

 これから検死など、細かな調査が行われるだろうが、恐らく詳細判明にはかなりの時間がかかるだろう。

 死体の状況は、そう思わせるのに十分過ぎるものがあった。


(都内に、そんなヤバイもんがうろついてる、なんて話が広まっちまったら、えらいことになるよなぁ)


 足元にくっきりと残されている、被害者の血で象られた「巨大な足跡」らしきものを見つめながら、司はそんなことを考えた。




 翌日――



 警察署内・会議室。


 高原は、やや緊張した面持ちで報告書を取り上げる。

 会議室には張り詰めた空気が充満し、席に付く刑事達や、幹部達の表情も厳しい。

 ぐっと息を呑むと、高原は、緊張のこもった声で報告を開始した。


「例の無差別猟奇殺人事件について報告です。

 被害者は昨日の事件で、確認されただけでも30人を超えました。

 最初の報告は、環状八号線用賀付近、次が駒沢通り東方面、祐天寺。

 最後が新宿のゴールデン街奥の路地です。

 被害者の死体損壊の形状や状況についての報告をまとめますと、これら事件は全て同一犯の可能性が非常に高く……」


「一体、何が起こっているのだ?」


 高原の報告で、会議室がどよめく。

 幹部達が、隣の者と様々な推論・憶測を並べ立てていく。

 そんな中、司だけは、何も言葉を発せずにじっと目を閉じて思考を巡らせていた。


「資料を表示します」

 室内の照明が消され、高原がノートパソコンを操作してプロジェクター越しに映像を表示する。

 大きなスクリーンに、不明瞭な画像が表示されていく。

 それを見た瞬間、会議室の面々は、驚愕の声を上げた。


「こ、これは何かね?」


「一体、これが何の関係があると?」


 スクリーンに映し出されたのは、ひとつの巨大な“影”だった。

 それは背後の壁にはっきりと輪郭を浮かび上がらせており、そのスケールと形状は容易に確認出来る。

 人間とよく似た体躯と、明らかに形状の異なる頭部。

 異様に長い手足と、どう見ても“尾”にしか見えない謎の部分。

 黒一色に塗り染められた異形の主の体長は、周囲の物品と見比べても間違いなく3メートル以上はあるようだ。


「駒沢通り事件の現場付近で発見された、スマートフォンに残されていた画像です。

 ブレが酷いため、補正と拡大をかけていますが、恐らくこれが」


「バカな! こんなものが“犯人”だというのかね?

 馬鹿馬鹿しい!!」


「映画の見過ぎじゃないのかね?

 これも、誰かが故意に作った合成画像ではないのか」


 幹部達が、吐き捨てるように言い放つ。

 司は困り果てている高原を一瞥すると、呟くように発言した。


「ですが、確かに犯人がこういう存在ならば、被害者の死体の状況も納得がいきますな」


「つ、司君!」


「過去の事件の検死結果からも、生物の唾液のようなものが検出されています。

 しかも、それが何から付着したものかまでは、まだ分かっておりません。

 また、大型獣の牙や爪のようなもので“引き裂かれた”と見える痕跡も発見されております。

 それも、野良犬や野良猫ではありえないような、かなり大きな、ね」


「し、しかしだね」


 司の報告に、何か言いたげな幹部が声を上げるが、後が続かず押し黙る。

 そう、そんな話は、本当はこの場に居る全員が既に共有している情報だ。

 だが、それを現実として受け止める勇気を、誰もが持てないだけなのだ。


 会議とは、もはや名ばかり。

 誰かが明確な証拠と分析結果を以って、全面否定をしてくれる。

 その可能性にすがり、皆はこの場に集まっているだけなのだ。


 今まで押し黙っていた、司の反対側に座る年配の刑事も、手を挙げ話し始める。

 一瞬、司と目が合った。


「実はインターネット上でも、同様の化け物を見たというコメントが各所で上がっております。

 特に某有名SNSでは、これと似たような写真を上げたユーザーもおりまして、化け物の存在を巡る議論を展開している人達もおるようです」


「だが、インターネットでは、虚言の可能性も――」


 遠くの席から、今度は女性の声が上がる。


「無論、それもありえます。

 ですが、我々警察も、そして民間人も、これらの存在について言及するようになった現状、このまま事態を放置する事は、どのみち厳しいのではないでしょうか」


 その後も、様々な意見が述べられ会議は白熱したが、警察署長と幹部達が延々と抑え込まれている状況だ。

 事実、彼らの述べる意見を真っ向から否定するのは、もはや困難を通り越し、無理がある。

 それほど迄に状況は逼迫しているのだが、それはつまり、本件はもはや警察の手に負える範疇を大きく逸脱しているものであると、認めざるを得ないということでもあった。


 しばしの沈黙の後、署長が、ため息交じりに力なく呟く。


「しかし、これが現実だとして。

 こんな常軌を逸した存在を相手に、我々はどうしろと……」


「ひとまずは、緘口令を敷くしかないでしょう。

 もし本当に、人食いの大型獣が都内を跋扈しているというのであれば、それを知った民間人の間にパニックが生じます!」


「うむ、まずは、今出来ることから少しずつ始めていくしかないか」


 幹部の提案に同調し、自信なさげにまとめに入ろうとする署長。

 その様子を窺っていた参加者達の多くは、冷ややかな目で彼らを見つめるしかなかった。


 この会議も、結局何の進展もないまま終息してしまった。





「もし証明出来なかったら、あの事件全部迷宮入りなんですかね?」


 車を運転しながら、高原は疲れた顔で尋ねた。

 助手席で背もたれを倒していた司は、興味なさそうな態度で天井を見つめる。


「さぁなあ。

 だが、署長の言い分も分からんでもない。

 確かに、極秘裏に解決させないと、世間への悪影響は凄まじいことになるだろうからな」


「ですよねえ。

 だから、誰も反論出来なかったんでしょうし。

 これからどうなるんでしょうねえ、はぁ……詰んでね? これって感じですよ」


「ま、それはそれとしてだ」


 寝そべったままの姿勢で、司は左親指で方向指示をする。


「その状態で、よく今どの辺か分かりますね。

 外もこんなに暗いのに」


「長年走ってる路だからな」


「はぁ、そんなもんスか」


 ハンドルを左に切りながら、高原も何となく返答をする。

 しばらく進んだ所で、車を停める。

 それを合図に、司もよっこらしょ、と身を起こした。


「いいんですか、本当にここで?」


「構わんよ」


「また寂れた飲み屋巡りですかぁ~?

 ホント好きですね。お疲れ様っス!」


「おお、おつかれ。

 ありがとうな」


 車を降りると、司はコートの端を翻すように路を渡る。


 ここは、杉並区高円寺駅前。

 JR駅の高架下に立ち並ぶ小さな居酒屋郡の奥が、本日の司の目当てだ。

 昼でも薄暗いこの通りには、店に通う人々と、近くの商店街から駅を目指して移動する人々が入り混じる。

 そんな人々の隙間をかいくぐるように、司は歩みを進めた。


 数々の居酒屋を通り抜け、人の姿も殆どなくなった高架下通路奥。

 ここから一本脇に外れた店が、司の行きつけだった。

 時間は、午後10時。

 まだ看板には間があることを確かめると、司は小走りで目的の店に向かった。


 だが、その時。

 たまたま頭上を通り抜けた総武線の轟音に混じって、女性の悲鳴のようなものが聞こえた気がした。


 咄嗟に走り出し、声が聞こえてきたと思しき方向に走り出す。

 幸いにも、声の主はすぐに見つかった。

 高架下の一部を利用した、の小さな駐車場。

 それを囲うフェンス、背中を押し付けている女性の姿があった。

 彼女は正面を凝視しながら、必死で何かから逃げようとしているようだ。

 しかし、司の位置からだと、高架を支えるコンクリートの柱が邪魔で、その「何か」を見ることが出来ない。


「おい、どうした?!」


 女性の背後に回り、彼女を追い詰めている者の姿を見た瞬間、司は凍りついた。


 その身長は、3メートルを超えているだろうか。

 異常に長い四肢を持ち、全身は毒々しい濃緑色の鱗に覆われている。

 口は大きく裂け、無数の牙が並び、細長い舌がチロチロと蠢いている。

 そして何より目を引くのが、まるで怪獣を思わせるような巨大な尻尾と、目を見張るような巨体な爪だ。

 一瞬、怪獣の着ぐるみを着た変質者かと思ったが、そうではない。

 人が入るには、あまりにも大きすぎる体躯だ。

 生々しく蠢く皮膚や尾、そして舌、それが遥か頭上で休みなく動き続けているのだ。

 明らかに、これは人間ではない。


 まるで、人の形になった巨大なトカゲのようですらある。

 「怪物」は、司に気付いている様子はなく、フェンスに追い詰めた女性をひたすら凝視しているようだ。


 我に返った司は、懐の拳銃を確かめると、大急ぎで反対側に回る。

 怪物の背後に回ったと同時に、その背中に数発発砲した。


 トンネル状の高架下に響き渡る銃声。

 しかし、怪物は司の方を振り返るだけで、ダメージを受けたような兆しは全くなかった。


「逃げろ! 早く逃げろ!!」


 注意をこちらに向けた隙に、女性に大声で呼びかける。

 だが、完全に恐怖に支配されてしまったのか、女性はその場にへたり込み、逃げるどころか動こうともしない。


「チッ!」


 司は、怪物の顔面に向かって更に発砲した。

 チュイン! という聞き慣れない音が響き、怪物が当たった部分を手で撫でる。

 相変わらず、全く利いている様子がない。


 次の瞬間、おぞましい叫び声を上げ、怪物は司の方に突進して来た。

 パーキングの看板に左半身をぶつけたため、一瞬動きが鈍ったが、ほんの数メートルしか離れていない距離を詰めるのは、巨体の怪物にとっては造作もない。

 咄嗟に身をかわした司の立っていた位置に、鋭い爪の一撃が炸裂する。

 削り取られたアスファルトを見て、司の背に冷たいものが走った。


(まさか、コイツが……)


 襲われながらも、司の思考はどこか冷静だった。

 脳裏で、あの猟奇殺人事件と、会議の内容を繋ぎ合わせる。


(ヤバいな、まさか、次の犠牲者が俺になるのか?!)


 リボルバーに弾が残っていないことは、撃った数で既に分かっている。

 否、仮に残っていたとしても、効果がない以上司には、もう対抗する手段がない。


 身も凍るような叫び声が再び響き、周囲の建物から人が覗き込み始めた。

 このままでは被害が広がってしまうと考えた司は、駅とは反対方向に向かって、全速力で走り出した。

 つられるように、怪物もその後を追ってくる。


 年の割に脚力には自信があった司だったが、所詮は体格差。

 怪物は、あっという間に司に手が届く位置まで追いついてしまった。


 怪物の手が、司の左腕を掴む。

 万力のような凄まじい力に、司は苦悶の叫び声を上げた。


「ぬ……ぐわあっ!!」


 このままでは、引き千切られる?!

 司の脳裏に、「死」という言葉が浮かぶ。

 そんな彼の視界の端に、先程の女性が這々の体で逃げていく様子が映り、司は奇妙な安堵感も覚えた。


 だが、次の瞬間。

 目も眩むような激しい光が突然舞い降り、司の身体は吹っ飛ばされた。


「な、なんだ!?」


 咄嗟に腕を確かめるが、少し痛みが残る程度で、さほど問題はないようだ。

 だが彼の眼前では、良く分からない不可思議な事態が起きていた。


 肘下の辺りから切断され、ピクピクと蠢いている前腕。

 その向こうで、たじろぎ硬直している怪物の姿。


 

 そして、その間に佇んでいる、一人の少女。



 その少女は、司をかばい、まるで怪物と対峙するかのように立っていた。

 不思議なことに、その身体は僅かに発光しているようで、暗がりにも関わらずはっきりとその姿が確認できる。

 鮮やかなピンク色の髪と衣服、白いブラウス、ミニスカートから伸びた長い脚、そして結ばれた髪から伸びている四本の長いリボン。

 それはどう見ても、場違いな「派手なコスプレイヤー」以外の何者でもなかった。


 なんでこんなのがここに居るんだ?! という疑問を抑え、司は叫んだ。


「何をしている! 早く逃げろ!!」


 少女に声をかけるも、彼女は聞こえていないのか、司の方を振り向きもしない。

 ふと見ると、怪物の切り落とされた腕が、腐り始め溶け出していることに気付く。

 とその時、「ドンっ!」という大きな音が鳴り響き、少女の姿が消えた。


 否、消えたのではない。

 怪物に向かって、突進したのた。

 彼女が蹴り上げた路面には、光の粒のようなものが舞い散っている。

 人間とは思えないような瞬発力で飛び出したピンク色の少女は、一直線に飛翔し、怪物の腹部に強烈な“飛び蹴り”を食らわせた。

 分厚い鉄の壁に、巨大なハンマーを叩き付けたような轟音が轟く。


 光の軌跡を残し、吹っ飛んでいく怪物と少女。

 司は、思わず彼女達の後を追い、駆け出した。


 小さな交差点を少し超えた辺りで、怪物は大の字になり倒れ、少女はそれに向かって構えを取っている。


(まさか、あの化け物に、徒手空拳で闘う気か?!)


 司は、ただ少女の動きを眺めることしか出来ない。

 やがて、怪物がゆっくりと身を起こす。

 よく見ると、切断された筈の腕が、いつの間にか元に戻っている。

 だが一方で、少女の蹴りが命中した辺りは大きく焼け焦げ、鱗や皮膚が激しく捲れ上がっている。

 司はその傷口の中に、巨大な「目玉」のようなものが見えた気がした。


「はぁっ!」


 少女が、短い気合の声を上げ、再び怪物に突進する。

 空中で大きく身を捻り、浴びせ蹴りを放つ。

 逃げようとでもしたのか、急に背を向けた怪物を縦に切り裂くように、少女の蹴り脚は振り下ろされる。

 それは、まるで脚から光の剣を生み出したかのようだ。


 断末魔を上げ、怪物は、一瞬で身体を真っ二つに切断された。

 そして、みるみるうちに、身体が腐り溶け出していく。

 ブスブスと耳障りな音を立て、怪物の肉体は、まるで最初から何もなかったかのように、完全に消滅してしまった。



「大丈夫ですか?」


 少女に声をかけられた事に気付くまで、しばしの間が必要だった。

 ピンク色の髪と衣装の少女は、心配そうに覗き込んでくる。

 優しそうな瞳、可愛らしい表情、そして額に輝く機械のような模様。

 気付かないうちに跪いていた司に目線を合わせるように、少女も身をかがめていた。


「お怪我は、ありませんか?」


「あ、ああ……大丈夫だ」


「そうですか、それは良かった!]


 それは、とても先程まで激闘を展開していた者とは思えないほど、可愛らしい声だった。

 満足そうに微笑むと、少女は優しく司を立たせ、僅かに星が輝く夜空を見上げる。

 コートのポケットに、スマホが入っていることを確かめると、司は静かにそれを取り出した。


「待て! 君は、何者なんだ?!

 あの化け物は、いったい……」


 引きとめようと声をかけるが、少女はそれを見越していたように、笑顔を向けるだけだった。


「それでは、失礼いたします」


 シュバッ! という鋭い音が、鳴り響く。

 一瞬のうちに、少女は数メートル程の高さまでジャンプしていた。

 司は、慌ててカメラアプリを起動し、少女の姿を撮影する。

 だがそのすぐ後、少女は激しい光を放ちながら飛翔し、夜空へ消えた。


 そして、4つの光がその後を追うように飛んでいくのも見えた。


 辺りは静寂が戻り、ただ、司一人だけが取り残されているだけだった。


(なんなんだ、あれは?)


 司は、先程撮影した画像を確かめるため、スマホを見る。

 だがしばらくすると、辺りをきょろきょろと見回し、急に挙動不審になった。


(いや、さすがに、これは……ダメ……だろ)


 しばし躊躇ったが、司は、今撮った写真を削除する。



 そこには、少女のスカートの中身が、異様なほどくっきりと写っていたのだ。

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