第1話 祈りが袂を分かつまで

父は信心深く、毎日時間を作っては神に祈っていた。


だが、私はそんな父の事があまり好きではなかった。


もっと構って欲しかった、一緒に遊びたかった、勉強を教えてもらいたかった。


しかし、私のそんなささやかな願いは叶うことなく父は逝ってしまった


私は父の遺影を仏壇に飾り向かい合い、毎日欠かさず経を上げた。


何日も、何年も。

一日も欠かさず経を唱え続けた。


大きな仏壇に飾られ、礼服を身にまとい、十字架を胸に掲げ、健やかな笑みを浮かべる父の遺影に向かって……。


そして遂に……。


それは、とある真夜中の事だった。


寝室で休んでいると、私は寝苦しさから目を覚ました。


ふと、枕元に置いてある時計に目をやる。


時刻は深夜二時。

が、その時計の視線の先に、異様なものが視界に飛び込んだ。


足だ。

人間の。


暗がりなのにその足は、明確にその存在感を表していた。


視線を足先から舐めるようにして上を見上げる。


見覚えのある礼服。

父が生前、教会で祈りを捧げる時によく着ていたもの。


顔を下から覗き見る。


間違いない、父だ。


生気のない青ざめた顔。

虚ろな瞳。


何かに怯えるように、半開きの口がわなわなと震えているのが分かる。


やがて父は、


「祈りを……祈りをくれ……我が神のために……祈りを……」


か細く今にも事切れそうな声。


恐怖と悲しみが入り交じった、私が待ち望んでいた声だ。


私は布団から出るとその場で起き上がり、両の手で父の頬を挟み込むようにして触れた。


冷たい。

まるで肌が冷気を放っているかのように。


私は父から伝わる温度を噛み締めながら微笑み、そして口を開いた。


「いつか恨んで出てくれると信じてた……だから毎日お願いしたの、お父さんの大嫌いな神様に……これからはたくさん構ってね……お父さん」








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祈りが袂を分かつまで コオリノ @koorino

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