城崎にて・・・・・・?
ジョニさん
1 出発進行
朝もはよから
出発の朝に、何もそこまでする必要があるのかと聞かれれば、ありませんと言うよりない。でもやらずにはいられないのが性分なのだから仕方がない。性分?いや、ちょっと違うなあ。
習慣というものは恐ろしい。というより強迫観念が強すぎるのかもしれない。絶対にやらなきゃならない!みたいな。バカなことだと重々自分でもわかっているのにやってしまう。
気がつくと俺はいつものように走っていた。普段の走る時間よりかなり早い時間に。普段の時間だって結構早い。7時半には帰宅したいから早くて5時半、遅くても6時には走り出してしている。だから起きだすのはいつも5時前だ。
今朝は4時に起き出し4時半には走り出していた。出発時間を考えるとどうしてもこの時間になってしまう。しかもしっかり二時間コース。全くバカだ。自分でもそう思う。でもそんな自分が俺は好きだ。
今年の夏、家族と行った旅行先が城崎温泉であった。どういうわけでどういう基準で行き先がそこになったのか。それは決めた我が家の大黒柱の嫁にしかわからない。多分理由を聞いたのだろうが、覚えていない。彼女が昨年の旅行先の香川を決めた理由も覚えていない。我が家の屋台骨は彼女だ。
城崎が舞台の小説は読んだことはあったしその地名も知ってはいた。しかし、日本地図を出され「城崎温泉を指差しなさい」といわれても正確な位置に指差すことはできない。関西の日本海側のどこかにあることぐらいはわかっていたが。
行き先が城崎温泉と決まって、兵庫県の北の豊岡市の郊外にあるというのを調べてみて初めて知った。兵庫県?神戸とか姫路の?兵庫って瀬戸内に面してるはずじゃない?日本海にも面しているんだ。へえ〜、そんな感じだ。
城崎へは東京駅から新幹線で京都に行き、そこから特急に乗り換え二時間半という行程らしい。なかなか遠い。
9時ジャストの東京発新幹線のぞみに乗るためには、車内で食べる朝飯の駅弁を買う時間などを入れて、遅くても8時には家を出なくてはならない。そのため、準備時間などを考えると6時半には帰宅しなければならず、自ずと4時半スタートで走り出すということで、4時起床となったのだ。全くもってバカバカしい。でもそんな自分が俺は好きだ。
東京駅 新幹線
6時半に予定通り大汗をかいて帰宅すると、さすがに家族は起きていた。いつもの休日ならまずあり得ないが。
それぞれが、それなりに旅行の準備や朝の支度をしている。
俺もシャワーを浴び、準備を始めた。まあ、あらかた昨夜のうちに準備は済んでいたので慌てるようなことはなかったが、気がつけばそれなりの時間になっていた。
例年の家族旅行ならば、出発予定の時間になっても準備は整わず、嫁から子等への怒声が飛び交い辟易とさせられるのであるが、今年ななんと余裕を持って出発することができた。「やればできるね、我が家も」みんな笑顔だ。
しかも、普段なら駅まで徒歩なのだが珍しくタクシーに乗ることにすると、うまい具合にタクシーがが捕まった。うまく行くときはうまく行くもんだ。
時間的に通勤時間帯なので、毎年東京駅までの電車はギュウ〜ギュウ〜詰めで本当なら東京駅までこのままタクりたいのであったが、そこまでリッチではないので最寄りのK駅まで行ってもらった。
満員電車に乗り込み、「でけえ荷物持ち込みやがって、じゃまくせえなあ」なんて周囲の顰蹙と「なになに、家族旅行?いいなあ〜」なんていう羨望が混じり合った視線に耐えながら20分ほどで東京駅に着いた。まだまだ時間には余裕があった。
総武線と山手線の車中は、通勤客がほとんどであったが、ここ東京駅の地下構内は我々と目的が同じような、夏の家族旅行連れがほとんどであった。夏とは言ってもお盆も終わった20日すぎではあったが、意外なほどここにはこれからの旅行に向けてお気楽でゆるゆるボケづら家族連れがわんさかと溢れていた。。
朝飯用の駅弁を買うために、東京駅名物の全国駅弁ショップの前に行くと、我々と同じ考えの家族連れでごった返しであった。
その人混みをかき分けて我ら4人は、素早く駅弁をチョイスしなくてはならない。当然、ガタイの大きい俺が先頭になり人混みをグリグリと分け入りどんどん中へ進んで行く。
ここ駅弁ショップが人で混雑しているのは仕方がない。俺たちもその一員であるのだから。しかしどうにも腹立たしいのが、どこへ行っても邪魔くさく、多くの人々に多大なる迷惑をかけているあのくそ忌々しいキャリーバックを引きずって、店内で駅弁を物色している大馬鹿者がなんとも多いこと!
まともな感覚、まともな常識を持ち備えまともな躾を受けた人ならこのような混雑した店内にキャリーバックなど持ち込まないだろう。
しかし、このごった返した店内には一人や二人ではなく大勢の大馬鹿者がキャリーバックを引きずっているのである。これを一体、どう考えればいいのか。日本人のモラルの低下だと嘆き片付けて良いのだろうか!
そんな状況の中、行き先を邪魔するキャリーバックを蹴飛ばしながら前に進み、肉嫌いの上の娘はヘルシーな肉なし幕の内弁当、欲張りな嫁は何種類ものおかずが小分けされた特製幕の内、肉好きの下の娘は米沢牛肉弁当をチョイスした。俺はといえばカツサンドを所望していたが万世ではなくヨシカミ だったので買わずに店内から脱出した。やれやれだ。
「ヨシカミじゃなく万世なんだよなあ、カツサンドはさあ」
俺的カツサンドのこだわりだ。それは譲れない。
「なんでもいいじゃん。ヨシカミだって浅草の名店でしょ」
俺は嫁の声を無視した。
「秋葉原駅のキヨスクなら売ってんだけどなあ。まあ新幹線乗り場までの道すがらキオスクをのぞいてみっか。他にも買うもんあるし」
嫁は俺の声を無視した。
最初に発見したキオスクに入ると、万世のカツサンドが堂々と売られていた。幸先いいいぞ!
「おう!僥倖。何事も諦めちゃいけないねえ。諦めたら試合は終了ですって安西先生も言ってたもんなあ。こうやって見つかるものだねえ!万世のカツサンド」「お前はミッチーか、」って軽く嫁に突っ込まれたかった。
嫁は俺の声を無視した。
その時、一瞬、昨年の夏の家族旅行での朝飯の駅弁購入時の光景が頭の中でフィードバックッした。
あれ?もしかして万世のカツサンド、昨年も買ってる?しかもここで。俺はジーンズの後ろポケットからスマホを取り出した。スマホの昨年の旅行写真を見てみると、しっかり万世のカツサンドが写っていた。毎年同じことしてるのだ、俺。今日は年に一度の万世のカツサンドデーだな。
新幹線の改札を抜けても、人でごった返していた。みなさんどこへ行くのだろう。
新幹線の発車までまだ時間があったのでホームには向かわず冷房がしっかり効いた待合室に入ったのだが、これまた人でごった返し。
「どうする?まだ時間があるけどホームに行く?」
「暑いから嫌だよう〜」、と暑がりの下娘が本日一発目の駄々をこねた。
「でもここに立っているのもアホみたいじゃん。確かホームにも待合室があるから行ってみようぜ」、「そうしようか」
しかし、ホームの待合室もそれなりに人が多く、困ったことに冷房が効いていなかった。
「ほら〜ここもだめじゃん」、下娘がぶつぶつ文句を垂れる。
「仕方ないでしょ!」、嫁がかました。
「・・・・」おっとり上娘はその二人を黙って眺めていた。
「はいはい、喧嘩はやめなさい。あそこのベンチが空いてるから座って待ってな。俺はみんなの飲み物とお菓子を買ってくるよ」、俺は待合室の外に設置されているベンチを指さした。
「早くしてよ。お父さんはいつもギリギリまで買う物を決められなくて、いつもギリギリに乗り込んできて、いつもこちらはヒヤヒヤなんだからね」、嫁は矛先を俺に向けた。
「いやいや、失敬な。いつも予定通りの行動で、ギリギリに感じるかもしれないけどあれは予定通りの行動だから」
「どうだか」、嫁は千円札を数枚俺に手渡した。
売店に入りみんなのための適当な菓子とお茶などを選んだ。
問題は俺の酒だ。とりあえず京都までの二時間半、ビールは黒ラベル500を2本だ。あとは、今回、濃い角ハイボール500を選んだ。
「さて、こんなのものの数十分でなくなるなあ。そうだ、日本酒のカップも一応買っておこう。つまみはカツサンドがあるし、子供らの菓子をくすねればいいな。決定!今日は早いぜ」
実際、俺は優柔不断で、なかなか物事をすんなりと決められない性格である。だからいつも何を買おうと、ああでもないこうでもないと迷いあげくいつもギリギリ乗車なのだ。しかし、今回は時間的余裕と意外に即決できたおかげで嫁に小言を言われずに済んだ。フゥ〜
出発10分前にドアが開いた。前の席を反転させ4人向かい合って座るような体勢を作り、各々、二時間半の京都までの旅の供(子等は3DS、嫁は旅行のガイドブック、俺は文庫本など)を出し荷物を網棚に乗せた。準備はOKだ。あとは出発を待つだけ。
喫煙ルームがこの車両の前後2車両先なのが、ちと面倒くさいがまあ仕方ない。とりあえず、一服してこよう。
それにしても喫煙者に厳しいこのご時世に、しっかりと喫煙ルームを用意してくれるのぞみって素敵だ。素敵すぎる。JR東海、最高!
「ぷーっ、出発前の一服、ありがとうございますだな」
向かいのホームの新幹線待ちの一般人を眺めながら、浮世離れな気分に浸りゆっくりとタバコを吸った。席に戻ると出発2分前であった。
プッシュ…
車内に軽い金属音が響いた。なんて心地の良い音だろう。こういうのを福音というのだろうか。いや、福音って実際の音じゃなくキリスト教の教えとかか。まあいい。
黒ラベルのプルドックを開けたのだ。
間髪入れず口をつけた。最初の一口、ゆっくりと時間をかけて喉へ流し込む。なんて幸せな味なんだろう。しかも朝から。ちょっとだけ罪悪感があるものの、それのおかげで幸せ倍増だ。
二口目に入ろうとした時、車内の方々からプシュッ、プシュッ、プシュッと同じ音が響いた。朝からビールのロクデモナイ極楽おっさんが他にもいるのがなんとも嬉しくなる。同士よ!
弁当をつまみながらわいわいがやがやしているうちに、海が見えてきた。熱海に近づいたのだろう。山側を見るが、生憎の曇り模様で富士は裾野しか見えない。
とうの昔にビールは空けてしまっていたので、トイレがてらタバコを吸いに喫煙ルームへ行った。途中、二両歩かなくてはならない。
どの車両も満席で、みなさん同じように朝ごはんの弁当を頬張っていた。そして嬉しいことに俺と同じような朝から飲酒野郎達が、実に美味しそうにビール缶を傾けていた。やっぱり誰であっても休日の朝酒、やっちゃうよねえ。
一服を済ませ席に戻ると、娘らはゲームに昂じていた。
本日2本目は濃い目の角ハイボール。それをチビリチビリとやりながら、ぼうっと車窓を眺め嫁とたわいもない平和的な会話していた。
そのうち浜名湖が見え出した。そして角ハイボールを空ける頃には名古屋に着いた。名古屋は近い。1時間30分。これならちょっとした通勤時間と同じだね。
タバコを吸いに行ったり、本を読んだり、日記をつけたりするもどれも集中できず、ゲームに昂じている娘らにちょっかいをかけているうちにうつらうつらとしてしまった。朝早くから走った軽い疲労感に適度なアルコールが程よく体に巡り周り睡魔が襲ってくるのも当然だ。ハッとして目覚めては娘らをからかいうつらうつらするの繰り返しであった。そうこうしているうちに気がつけば琵琶湖のそばまで来ていた。
もうすぐ京都、乗り換えだ。ペットボトルの茶を飲み目を覚そう。
おなじみの到着を知らせる安っぽい曲とアナウンスが車内に響き、車窓からはおなじみの景色が見え出した。
荷物を降ろしデッキへ向かう。乗降口の窓から京都タワーが見え出したが、すぐに京都駅の大きな姿に隠れてしまった。反対側の窓に顔を向けると東寺の五重塔が見えた。まさに京都だ。
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