第17話 明日(みらい)を懸けた戦い

『テメェ……何処の誰だ』


「僕は鷲宮わしみや夏輝なつき……今を守る……ヒーローになる男です!」


 少年はマモンからの問いに対してメガネを外しながら答えると、そのままズボンのポケットから小さめの情報端末を、腰のベルトに引っ掛けてあるホルダーからカードを取り出し、構えた。


「スラッシュイン、ペルセウス!」


 その掛け声に合わせてカードを読み込むと、ライザーらしきその端末の液晶から光が漏れ出して彼を包み込むと、目の前にわし座の形が浮かび上がってからそれが彼を透過していき、やがてその姿を翼の生えた青いヒーロー然としたものへ変えた。


『なっ……お前もこの街のクソガキ共の仲間か!』


「えっと……彼らについては僕もよく分からない。でも、同じように悪い奴らと戦おうとしてる彼らを助けたい……だから僕はここに来た!さぁ……行くよっ!」


 夏輝は右腕の鷲の頭をした武装から青い光の剣を展開しつつ素早くマモンの懐へ潜ると、勢いよく剣を振り上げた。


『な、なんて速さだ……だが、そんなひ弱な体で俺様の攻撃を受け切れる訳ねぇよなぁ!』


 マモンはこう言いつつ拳を振り下ろして反撃を出たが、夏輝はまるでこの攻撃を予想していたかのようにあっさりこれを躱すと、今度は右腕の鷲の頭を模した武器から青白い光弾を放ちつつ距離を取った。


『えぇい、ちょこまかと……!』


「相手はパワー全振りかぁ……なら!スラッシュイン、ナックル、アーマー!」


 マモンが光弾に怯んでいる中、夏輝は腰のホルダーから新たなカードを2枚取り出してそれをライザーで読み取り、横のボタンを押して効果を発動させた。すると彼の体は再び光に包まれ、オーガやゴブリンを彷彿とさせる屈強な体付きの戦士へ変わった。


『俺様のマネのつもりかぁあ!』


「ただの真似じゃない……これは僕の持つ力、スタイルチェンジ……そしてこれはその中でも今、キミを素早く倒せる力を持つ……グラディエータースタイルです!」


 夏輝はマモンと掴み合いになったが、すぐに右腕の拘束を解いて素早く腹部にストレートパンチを叩き込んだ。


『ぐっ……この俺様にこんなダメージを……!』


「僕の力はこんなものじゃないですよ……お次はこれです!スラッシュイン、ロッド、グリモワール!」


 夏輝は再び腰のホルダーから2枚カードを取り出して読み込み、今度は全身を覆うローブ姿が印象的な魔法使いのような姿へ変化した。


「ウィザードスタイル……僕の魔法の力はそんじょそこらのものとは比べ物になりませんよ!ウィザードイリュージョン!」


 夏輝の掛け声に合わせて彼の体が4人に分裂し、それぞれ騎士、闘士、シーフの姿になった。


「いきますよ……フォースターズ·バースト!」


 4人の夏輝はそれぞれの武器にエネルギーを収束させ、4方向から同時にマモンに向けて放った。


『んな馬鹿な……この俺様が……通りすがりの野郎如きに……!』


 マモンは全身から青いスパークを放ちつつ、自分にこのような攻撃を仕掛けた敵へ最後の一言を叫ぶと粉々に砕け散った。


「……ふぅ、終わった……ん?」


 夏輝は変身を解除してライザーに表示された時刻を見ると、一気に顔を真っ青にした。


「どうしよう……タカヒロさんから怪しい電波体の反応をキャッチしたって言われて来たけど……早く帰らなきゃまた涼葉すずはさんに怒られるーっ!い、急がなきゃ……!」


 夏輝は青ざめた顔のまま大慌てでネクタイを締め直しながら空船駅の方へと全速力で走り去るのだった。



『驚きましたね……まさか貴方が生きていたとは。あれ程のバグを取り込んでいたというのに……一体何処の誰がそんな事を』


「その質問について答える気はない……そもそも、今から殺す相手に話す口はない。ネオアクセス、ネイビーヘクトール……」

『ネオ·オペレーション、ビギニング!』


 藍人は紅輝に見せていたような優しげな顔ではなく、完全に他者を見下すような冷徹な顔で静かに呟きながらカードをライザーへ通し、紺色の装甲が目を引く騎士へと変身した。


『いいか藍人、君の体はまだ完治した訳では無い……この状態を保てるのは良くて60秒……それまでに奴を切れるか?』


「それだけあれば十分だよ……君の力があれば、ね」


『フン……随分と見縊られたものですねぇ……私も。まぁ、貴方の力では私は倒せない事は確かですよ……!』


「一撃……それだけ当てればいい。お前みたいな存在は痛めつけるよりそちらの方が早く倒せる」


『ではその言葉……そのままお返ししましょうか!』


 猛烈な勢いで飛び出したヴェルフェだったが、そんな彼を他所に藍人はただ静かに彼を引き付け、そして……自身が切られる寸前というタイミングで黒い剣で彼の体を一閃し、盾へと納めた。


『何っ……技の出は私の方が上だったはず……な、何故……!?』


「簡単な話だ……僕が君より先に攻撃を始めていた……それだけだ」


『ふざけるな……ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな……ふぅざけるなぁぁあっ!……ハデス様……お許しを……!』


 ヴェルフェは自身が散々馬鹿にしてきた人間に一杯食わされたその屈辱を泣き叫びながら黒い砂状になって崩れるように最期を迎えた。


「うっ……くぅっ……本当は初めから攻撃が届くとは思ってなかったんだけど……当たったみたいで良かった……」


『藍人、体を貸してくれ……私が君を安全な所へ連れて行く。後は紅輝と私の弟……アキレスに任せよう。そして……君の愛する妹との再会を待とうじゃないか』


「う、うん……そうだね……」


 変身が自然に解除された藍人は息をするのがやっとなくらいに疲弊し、膝をついてしまったが、その直後にパートナーであるヘクトールが彼の体を借りる事で何とか立ち上がり、近くにあったベンチまで彼の体を移動させた。



―そして、藍人や夏輝の助けを借りた紅輝も遂にハデスの元へ辿り着き、彼と対面を果たした。


『ほう……人間というのは弱い生き物と認識していたが、どうやらそれは間違いだったようだな』


「今すぐ街にばら撒いたウィルスを除去しろ!そんでもって出てけ!」


『その威勢の良さ……さては……一ノ瀬遊樹の息子か。やけに耳障りな声を持っていると思ったが……』


「あぁそうさ……俺の名前は一ノ瀬紅輝、一ノ瀬遊樹の……息子だっ!」


 紅輝はハデスからの問いかけに対して目を鋭くしつつ、はっきりと名乗った上で相応の返しを放った。


『遊樹と同じく破滅を所望するのならば、私が喜んでその役目を引き受けてやろうじゃないか……坊主』


「ふざけんな!俺は……お前をぶっ倒して、この町の人皆を救って……勇気出して告ってくれた蒼依に俺なりの答えをぶつける……そっちこそ、切られる覚悟は出来てるんだろうな?」


『随分と生意気な口を叩くじゃないか……良かろう、父より深く暗い深淵の底へと叩き落としてやろう……!』


「さぁ……行こうぜ、アキレス!」


『あぁ……5年前の過去に決着を付け、そして私は……紅輝達の未来を守る!』


「レッドアキレス……ラストアクセス!」

『クライマックスオペレーション……』


「ゴォーッ……!」

『ゴォーッ……!』


 二人はいつもと違う口上を叫びつつ、ハデスの放った光弾を走りながら変身しつつ払い除け、猛スピードで迫っていった。

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