第7話 動き出す時

「三校合同会議?何だよそれ」


「私達の通う空船、隣町の陸那りくた海ヶ丘うみがおかの3つの学校の学級委員の方との交流を兼ねた活動の発表会……らしいです」


「それ、中学生でやる行事なのか?言葉の響きから考えると高校生とかその辺の年の人がやりそうだけど……」


 紅輝は朝から蒼依と教室で近々行われる行事について意見交換をしていた。


「今や学級委員は生徒会に次いで高い地位を持つ役柄です……年は関係ないかと思います」


「確かに、クラスの代表って視点で見ればその通りだよなぁ」


「……で、そんな貴方が朝からだらけててどうするんですか」


「そこに繋げたいだけかよ……俺は疲れてるんだよ、色々と」


「部活疲れはともかく、それ以外は貴方の匙加減で調整すればどうとでもなるじゃないですか!」


「うるさいなぁ……せめてこの早朝から朝のホームルームまでの時間はゆっくり寝かせてくれよ……」


 紅輝は弱々しい声で頼みつつも氷が溶けるような感じで机に伏せてしまった。


「貴方、寝始めてたら全然起きないじゃないですか!って……言ってる傍から寝息を立てないで下さぁーいっ!」



―寂れたゲームセンター


「おや、こんな所に客人とは……一体我らに何の要件があるでしょう?」


「お前らのコマ集めと愛しのラスボス様復活の手伝いをしてやろうと思って来てやったぜ」


「んだとテメェ!俺様達が何者か分かってんのか、あぁん?」


 黒いパーカー姿の少年……に化けたヴェクターは緑色のネクタイが目を引くスーツ姿の少年や側にいた粗暴な雰囲気の少年に対して煽るような口調でそのような提案を持ちかけた。すると、粗暴な雰囲気の少年は気に食わなかったのか、すぐに彼の胸ぐらを掴みにかかった。


「止しなさい、マモン……貴方が我らに手を貸す理由について聞かせてもらえませんか?我らとしては人手が増える事に関しては歓迎しますが、理由無き共闘は少々認めかねないものでして」


「ハッ、案外面倒な連中だな。何で俺がわざわざお前らの為に私情を口にしなきゃならないんだ?」


「とぼけるな!俺様達だってな……ここまで来るのに苦労させられたんだ。テメェのその薄っぺらい面じゃ理解出来ないくらいになぁ!」


「そもそも理解なんてする気はない。ま、話が進まなさそうだから仕方なく話してやるよ……オレは今、体内でバグで生じたウィルスを飼ってる。お前らにとって喉から手が出そうになるくらいにはな」


「ほぉう……そんなに集めて何をしようと?」


「この少年アホから主導権を完全に強奪し、オレ自身をより高い次元の存在へと進化させる……その上でオレ達を虐げる人間ゴミ共を徹底的に潰して、オレが味わった苦痛を味わってもらうのさ」


 ヴェクターは未だにマモンに胸ぐらを掴まれたままだったが、そのままの状態で自分の胸中に留めていた野望の一端を話した。


「それはそれは……実に素晴らしい理由ですねぇ。マモン、そろそろ離してあげなさい……彼はもう、同じ目的を持つ仲間・・なのですから」


「ヴェルフェ、お前……正気か!?こんな奴と共にハデス様復活に向けて動くっていうのか!?」


「勿論私もまだ彼を完全に信じ切った訳ではありません……が、現在の我らは怪人態に変身する事すらハイリスクな状態……やむを得ない事くらい、貴方にも分かるはずです」


「チッ……それはそうとしても、アスモスもベルゼブブもコイツを受け入れるとは考えにくいだろう……」


「問題ない……私、彼の事は調べ尽くしたから」


 マモンは言葉に詰まりながらもヴェクターを解放しつつヴェルフェに質問を飛ばすと、彼が答えるよりも早くセンターの奥からメロンパンを片手に持った少女……ベルゼブブがやってきた。


「テメェすっかり人間様の食いモンにハマってるな」


「ん……美味しいから、これ」


「さて……悪いがオレはこれで一旦退くぜ。早くウィルスを取り込まなきゃコイツが目覚めちまうからな」


 ヴェクターはそう言うと左胸の辺りを擦りながらゲームセンターを出ていくのだった。



―放課後部活後、帰宅途中


『紅輝、お前いつあんなにバスケの腕を磨いていたんだ?』


「母さんが一時期曇ってた時があってさ……それで、何とかして笑顔に戻って欲しいって死にものぐるいでやってたんだ……バスケを」


『だが、紅輝のその努力が大きな実を2つも結んだ……母は立ち直り、お前は入部数日で一気にエース候補まで躍り出た……凄いじゃないか』


「そう言われると頑張ったかいがあるって感じ……アキレス、もう大丈夫なのか?その……お前のお兄さんの事とか……」


『ずっと心配してくれていたのか……ハハッ、お前の前ではブレインとして誇り高くあろうと決めていた矢先にこうなってしまうとはな……』


「そりゃ心配するよ……俺が少しだけ教えた“感情”をあの短時間であれだけ爆発させかけたんだからさ。それに……俺も何か引っかかってたんだよ……アイツの事」


『紅輝……』


「人間の体とブレインを奪ってまでアイツは一体何がしたいんだろうって……柄にもなく考えちゃったよ」


 紅輝はオレンジ色に染まった帰り道を歩く中でいつものようにリアライザー越しに相棒……アキレスと以前二度目の戦闘を経験したヴェクターについて話し合っていた。


『私にも奴の行動には納得がいかない……その理由も含めて、な』


「あの様子だと……誰かしらに恨みを持ってそうな感じだな。口振りからも滲み出てたように見えたし……」


『同感だ……だとしても、このまま何度も交戦の度に撤退を繰り返されてはかえってこちらが不利になっていく。もう迷ってる暇はない……私達も奴同様に……非情になるしか』


「待て待て、それじゃ何も終わんないって!負の連鎖ってのはちゃんと止め方があって、その通りに事を動かさなきゃ延々と続いちゃうんだぞ?」


『そう……なのか?私にはまだその辺は理解が追いつかないから、何とも言えないのだが』


「憎しみや悲しみはやがてその人を染まりたくないはずの悪に染め上げる……そしてその人がその憎しみや悲しみのままに自分を追い詰める度に関係のない人までそういう感情が込み上げてくるんだよ……その結果、終わらない連鎖が出来上がる。俺の父さんは……そんな負の連鎖の……その果てに死んだんだ」


 紅輝は話を続ける中で次第に両目から大粒の涙を浮かべ、そしてリアライザーやシャツの襟元に零れだした。


「恨む原因は必ずある……それを解決すれば、きっと誰だって傷付け合う事をやめられるはずなんだ……」


『……私も理解したよ。傷付け合うから連鎖が続くというのなら、その大元を突き止めて、そこから解決策を講じていけば……その先の結末を変えられる……そういう事だな、紅輝』


「結末がどう変わるかは分かんないけど……俺が思ってる事がだいたい伝わったみたいで良かったよ。さ、帰ろうぜ……お腹空いちゃったし!」


『そうだな……まだ春とはいえ、空はもう紫になりつつある……それに明日からは海ヶ丘に行くんだろう?早めに休んでおいた方がいい』


「あーっ……そうだった!今年度1年生前期学級委員代表として選ばれたの忘れてたぁぁあ!家に帰ってスピーチの原稿考えないとぉおおお!」


『やれやれ……少しはいい事を教えてもらったと思ったら、まだまだ青いな……お前は』


「うおおおおおお……急げ俺ええええっ!」


 紅輝は我に返るとすぐに顔を青くしつつ全速力で家へと向かうのだった。

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