飛び乗って遠くへ遠くへ

飛び乗って遠くへ遠くへ

ふ、と思い立って電車に飛び乗った。

どこへ行くのか、行先すら確認せずにただなんとなく乗った。

景色がごろごろ変わっていく中で、何気に乗っていた電車をじっと観察してみる。

つり革の高さは私にとっては高くて掴めたもんじゃないし、ぐらぐら揺れる電車内では立っていることはままならない。

目につく位置に貼られた広告紙は、外国の人が乗ってきたら頭にぶつかりそうだし、日本人の私が読むには高すぎて億劫だ。

肌寒くなってきた秋の始まりの、天気の良い昼間を走る電車内には、お年寄りと、今からなのか帰ってきたところなのか、キャリーケースを持った大学生くらいしかいない。

朝の電車でぐったりさせられた学生の山がいないことに、少しばかりの優越を感じる。

「さて。」

2人がけのばね入りのゆったりした椅子に背中をしっかり押し付けて、ふうと息を吐いて外を眺めた。

久々に外をぼんやり眺めている気がする。

そんなことを考えながら、変わっていく景色を見つめてここは一体どこだろうなんて呟いてみた。

迷子のような心細さよりも心を占めるのは、わくわくとした冒険心。

程よい温度調節された車内から眺める景色は、これまた程よい秋の訪れを感じさせる景色で。

紅葉狩りにこのまま出かけるのもありかしら、なんて思えてくる。

そういえば、と、ふと意識が自分のことへまき戻った。

しばらく大学と家との往復くらいしかしてなかったなんて、今更気付いておかしく思う。

ああ、なんてもったいないことをしていたんだろう。

お金はちょっぴり微妙だけど、学生の頃と比べれば断然、時間ならたくさんあるというのに、無駄に時間を使ってしまっていたなんて。

車内放送で告げられた、次の目的地はさっぱり聞いたこともない地名で、少しだけどきっとする。

無事に帰れるかな。

「まあ、どうでもいいか。」

せっかくの大学生生活だし、満喫しに電車の旅へと出かけませう。

変わっていく景色を眺めながら、次の面白い名前の駅で降りてみようと荷物にそっと手を伸ばした。

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