強盗童話―C’robber〈OZ〉―
冬春夏秋(とはるなつき)
第1話/ロンドン橋、落ちる。
ヴァレンタイン氏の優雅だった一日のはじまり
オチとして、世の中を大いに
「では、こちらにサインを――
銀行員モーヴ・グリフィス。彼女がこの日、最初に対応した男のことは良く知っている。なにせお得意様というやつだ。だから
「あいよ」という気楽な返事と
「んんっ。……珍しいですね」
「うん? 何がだい」
失礼を承知で、けれども友好的に関係を築いている銀行員の顔で。
「その、ヴァレンタイン氏がこんな額を朝早くから」
「わかる」
まさかの本人からの同意。モーヴは思わず目をぱちくりとさせてしまった。
「実は昨日、ちょっとしたゴタゴタがあってね。どうにも仕事するような気分じゃなくなっちまってさ。それで仲間たちと今日はオフにしまちまおうってなったワケだ」
果たしてヴァレンタイン氏はそのゴタゴタの仔細――を話すでもなく、簡潔に結論だけを
「まぁ
「なるほど。ふふ、ならATMで良かったのでは? それに
笑みを悟られまいと口元に手を当てながら、うっかり顔を見てしまった。いけない。
具体的には好みの顔すぎていけない。
「わかってねェなぁ姉さん。アンタの顔を見に来る口実が無くなっちまうだろ、それじゃ」
「もう! ……一体その手口で何人の女性を泣かせてきたんですか?
「この手はアンタが初めてだよ。朝起きた時に
「まだ業務が始まったばかりですので」
「人気者のランチタイムは
「
「はッ。お手上げだ」
言葉の通りに両手を上げて氏は引き下がった。あやうくアフターファイブの予定を今から空けにかかってしまうところだった。
「じゃあ、姉さんが銀行員でなくなる頃にまた来るよ。19時くらいでいいかい?」
前言撤回。残業は無しの方向で仕事を片付けることになった。彼は引き下がると見せかけて引き金を引いたのだった。
「……良い一日を、ミスター」
「良い一日にしてくれてありがとう、レディ」
ううん、手ごわい。
そうして軽い足取りで外へ向かう後姿を見送って。
――再会は、予定していたディナータイムよりもずいぶん早かった。
午前の業務を終え、
ロンドンの平日、
「ヴァレンタイン氏!?」
街中に響き渡るパトカーの
「貸金庫開けてくれ、Ms.グリフィス」
――困ったことに現在、
この騒ぎも彼らが一枚
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