ひとり歩く

ひとり歩く

ぎゅ、ぎゅと音がする。朝起きると、窓の外は真っ白な世界だった。時計も見ずに適当に身支度を済ませて玄関から飛び出した。ぎゅ、ぎゅと音がしている。こんな日に履く靴は持っていないから、お気に入りだったが、傷を入れてしまった革靴を履いて歩く。ほのかに明るく、誰もまだ歩いていない道を音を立てて歩く。しん、とした空気が心地よい。音がするのは自分の靴音だけ。

「さむ。」

鼻先はマスクで寒くないが、指先が凍るように冷えてきた。ポケットに手を突っ込んで、まだ誰も歩いていない道を踏んでいく。ぎゅ、と音がしていい加減、靴が重くなってきたから足を振れば、雪の塊が飛んでいく。後ろをそっと振り返れば、自分の足跡だけが残っている。なんだったかな、昔見たアニメに雪の中での殺人事件のトリックがあったような。真似してそっと後ろ向きに自分の足跡に、足を重ねる。案外、難しい。

「ふふふ。」

自分の笑い声すらも、しんとした冷たい空気の中に溶けて消えていく。まるでこの世界には自分一人しかいないかのようだ。そんなことが頭をよぎって、思わずポケットを探る。スマホも置いてきたから、ポケットには何もない。一人ぼっちになってしまったかのよう。


ふ、と自分の足跡の横に誰かの足跡が見えた気がした。

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ひとり歩く @Rin-maron

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