惑星ルードゥス編

記録1 宇宙海賊バロック 

 超速で移動するアマデウスは一瞬にして、ルードゥスから一番近くの無人衛星クストーの裏に、隠れるように待機しているシェーネの船に到着した。

 グレーの角ばった旧型で小型の宇宙船バロック号。

 宇宙船サイズ規準SSSでいうところの〝バルテラ級〟の船である。

 SSSは各銀河宙域に存在が確認されている伝説級の超巨大生命体の名をもとに命名されている。


 ケイは船をバロック号の側面にある入り口に、背を向ける様に横づけし、ボーディングブリッジでドッキングした。


『気圧調整……エアロック解除』


 入口の空気圧調整によってエアが大きく抜ける音が聴こえると、自動ドアが弧を描く様にフワッと開いた。

 入るといきなり「待ってました!」と言わんばかりに、2人のクルーがグイグイと近寄ってくる。


「姐さん!ケイのぼっちゃんが到着しましたぜ!ひゃっひゃっひゃっ。相変わらず顔色が悪いねぇ~~」


「キャプテン!ケイが来ましたよ~!やっほ~ケイ!お疲れ!」


 まず、第一声を冗談交じりに放ったクチバシ顔でハットを被った男がニヤニヤしながらケイを迎え入れる。


 彼の名はバードマン。

 一見優男に見えるこの男は鳥人属ガルーダでフクロウ科、腕と背中には紅葉色の羽毛が生えている。カウボーイを彷彿とさせる姿、大きな目を強い光から守るために銀に反射する丸い眼鏡で隠している。    

 彼はこの船の航路士で、フクロウの特徴でもある夜目が利き、障害物に遮られた暗黒の宇宙空間も機械に頼らず肉眼で見渡せる能力を持っている。

 音響探知できない宇宙において、電磁波探知やエネルギー探知技術などが船同士の戦闘の勝敗を左右するケースが一般的だ。

 しかし、小惑星郡アステロイドなどの遮蔽物のある空間、光を遮蔽された場での戦闘となった時、また地上での夜戦ではよりその力が活きるのである。

 故に、少人数編成の宇宙海賊スペースパイレーツバロックには唯一無二の必要不可欠なクルーだ。


 この男、ケイがどれだけ無視しようがとにかく話しかける御節介だった。

 というかケイが無関心過ぎるのだが……。それも彼なりのケイへの気持ちの表れなのだろう。

 

 ケイはバードマンに不可解だと視線を送るが、あまりのしつこさに溜め息を漏らし〝降参だ〟といった表情で顔に手を当て、僅かに項垂れ左右に頭を小さく振った。


 バードマンはその困り顔を見て満足気な表情をして、またニヤニヤとケイを見つめていた。


 続いて大きな声で話しかけてきた、笑顔がまぶしい小柄な少女?はシークレット・エム・オースティンという。

 ピンク色の鮮やかな肌、金髪で首すじまでのツインテール、少しあどけなさの残る可愛い顔立ち、150cm程の小柄な体格は、まさに美少女そのものである。

 彼女はシェーネと同じ魚人属マーフォークで、この船イチの近接格闘術クロースマーシャルアーツを得意とする武闘家だ。

 見た目に反し、露出している手足は筋肉質で腹筋は割れており、そこら辺の男は片手で捻りつぶされてしまいそうだ。

 

 2人が陽気に話しかけるが、それを鬱陶しそうなしかめっ面で見る。


「ふぉっふぉっふぉ、相変わらずオヌシが来ると賑やかしいわぃ」


 ブリッジ奥の椅子にはそのやり取りをニコニコと微笑ましく見守る白髪の爺さんが腰かけている。どうみても海賊のクルーには見えないご老体。

 その小柄で腰が曲がった、仙人の様に長い白色の髭と特徴的な長い耳をした爺さんの名はドミニク・ドミニクという。

 仲間からはDDディーディーと呼ばれる妖精属ピクシー耳長種アールヴの老人だ。

 耳長種アールヴヒト科ヒューマンの中では長命で、いわゆるファンタジーの世界ではエルフといわれるたぐいである。

 現実もかなりの長命で平均年齢は地球で言うところの200〜300歳程度である。

 長い寿命にも裏付けされるが、彼は知識欲が非常に強く、まさに生き字引と呼ばれるほどの博識者だ。書籍集めに目がなく、特に歴史書や考古学に関わる本を集めているらしい。

 

 そして、クルッと中央にあるシートが回転する。

 そこにはシェーネが綺麗な長い足を組んで腰かけていた。

 透き通るきめの細かな青い鱗の肌が映える、幾何学模様を編み込んだ細かなデザインの黒いスーツを着ている。胸やヒップラインを強調させた黒い光沢のある生地がくっきり密着したそのスーツは、身体に自信をもった女性でないと着れそうにない衣装だ。

 吸っているアンティーク煙草を灰皿にクシャっと捨てて立ち上がり、パンパンッと両手をたたき場の空気を締めた。


「はいはいっ、バードマンっシークレット!騒がしいよ!まったく。ケイ~ごめんねぇ。いつもの如く、ウチはこんな感じで騒がしくて仕方がないわ」


 いつもの事だろ、と肩と眉をくいっと上げて見せるケイ。


「他の皆は?」


 ケイはクルッとあたりを見渡し問う。


「ジークは機関室で船のメンテナンス中。オダコンはトレーニングルームでムゥバ(瞑想と全身の調律を目的とした独特なストレッチ法)をしてるわよ。ジャックは医務室で医学書でも読んでいると思うわ。そうそうケイ、直接会うのは半年(地球時間の約1年半)ぶりじゃない。ジャックに身体診てもらいなさいよ?」


「あぁ、そうだな」


 腕を組んで小さくうなずく。


「さて!ご苦労だったわねケイ。さっそくだけど本題に入るわね。例のもの見せてもらえる?」


 皆、ケイを見てワクワクとした表情で今にもとびかかってきそうな勢いだ。

 そう言われると、彼は腰のポーチから頑丈そうな銀のケースをだし、その中から回収した〝白い粉〟の入った小袋を手に取って見せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る