第48話 戦のやり方を教えてやれ!

 呂布軍は特殊だった。


 まず騎兵百パーセントで構成されている。

 パワーでもスピードでも他軍を圧倒しており、電撃作戦においては比類なき強さを発揮できる。


 そして陣形である。

 右翼の高順が一千、左翼の張遼が一千、そして本隊の呂布が五百というシンプルな比率なのだ。


 呂布の兵力が一番少ない。

 これは戦況を見極めながら戦うためである。


 高順と張遼の一千は、右翼と左翼でもあるし、一個の軍と呼んでもいい。

 というのも一千を分解すると、四百の右翼、二百の本隊、四百の左翼という具合に『二・一・二』の比率が生まれるのだ。


 袁術の陣が近づいてきた。

 胡軫軍に襲いかかっている。


 斥候隊を殺したのだ。

 いきなり二千五百の騎兵がワープしてきたように映るだろう。


 体が風になる。

 そんな高揚感が呂青を包んだ。


「袁術に戦のやり方を教えてやれ!」


 呂布の号令とともに開戦となった。


 二千五百の騎馬が袁術軍の右翼に突き刺さる。

 まともな交戦にもならない一方的に蹂躙する展開となった。


 敵兵が尻もちをついた。

 呂青はその喉に槍を突き立てる。


 人を殺す。

 確かな手応えがあった。


「押して押して押しまくれ!」


 高順と張遼が左右へ展開していく。

 小魚の群れを食い尽くすように敵部隊を殲滅していった。


 呂布が画戟がげきを一閃する。

 形状は槍に似ているが、月牙と呼ばれる横刃が付いている武器だ。


 突いたり斬ったり引っかけたりと万能性がウリである。

 かなり重量があるため普通の兵士なら馬上で構えることすら難しい。


 高順が敵の指揮官を一人殺した。

 すると張遼も負けじと兜首を討ち取った。


「あいつら、張り切っているな」


 二人を放っておいても問題ないと判断したらしい。

 呂布は先頭で戦いつつ五百の旗下に次々と指示を飛ばす。


 袁術が本隊を後退させた。

 ようやく右翼の異変を知らされたらしい。


 しかし手遅れだ。

 右翼は原形を留めておらず、生き残った兵たちもへっぴり腰になっている。


 胡軫軍の伝令が走ってきた。


「援軍、痛み入る!」

「俺たちはこのまま袁術の本隊を襲う! 胡軫軍は正面から圧力をかけてくれ!」


 袁術を守っている兵士は約一万。

 そこに呂布の五百騎が突き刺さった。


 肉を両断するような一撃だった。

 無人の野を進むように敵陣を裂いていく。

 立ち塞がってきた将兵はすべて画戟の餌食となった。


 呂青は後ろを振り返る。

 高順が第二撃を、張遼が第三撃を加える。

 波のような動揺が袁術軍全体に広がっていった。


 胡軫軍による反転攻勢も始まった。

 敵の指揮系統はズタズタに乱れており、味方が味方を踏みつけながら逃げていくという有様だった。


 勝敗は決まった。

 あと何点稼げるか、呂布軍の強さが問われる。


「陣を立て直すヒマを与えるな! 息の根を止めてやれ!」


 かろうじて統制の取れている部隊が見えた。

 あの中心に袁術がいるのだろう。


 呂布は馬首をそちらにめぐらせた。

 大将首を獲ってやる! という気迫が背中から伝わってきた。


「遅れるなよ、青」

「はい!」


 散っていた五百騎が呂布の周りに集結する。

 血まみれの画戟が示すのは袁術の首。


 敵の尻に食らいついた。

 後ろから一方的に狩る時間が続いた。


「袁術!」


 呂布が吠える。

 一度振り返った袁術の顔は恐怖の色に染まっている。


「それでも名門の一員か!」


 袁術は最後の賭けに出た。

 親衛隊を切り離して呂布を足止めしようとしたのだ。


 数は五百。

 三尖刀さんせんとうの使い手が指揮を執っている。


 二つの勢力が正面からぶつかった。

 束の間、両軍の兵士が入り乱れる形となった。


 呂青は騎兵を一人討ち取った。

 その間に呂布は十を超える敵影を血の海に沈めている。


 兵士一人一人の練度がまるで違う。

 倒れるのも袁術軍の兵士ばかりだ。


 呂布と三尖刀の武将が一騎討ちになる。

 互角に見えたのは三合目までで、五合目の一撃が相手の首筋をとらえた。


 高い血柱が噴き上がる。

 落ちた三尖刀が地面に突き刺さる。


 文句のつけようがない大勝利だった。

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