52話 盤上のシンデレラ9

聖霊都市の軍部のとある一室。内部の音声を遮断する部屋で、軍のトップ7人たちは今後について話あっていた。

その中で、将軍と上層の名のある貴族たちを見ながら、退屈そうに話を聞くモザン教官がいた。

話の内容は現在の戦況と魔王の討伐という、最終決戦に向けた重要な会議だった。

しかし、勇者を召喚してからの聖霊都市は飛ぶ鳥を落とす勢いで、勝敗は目に見えていた。

 

「調査団の情報から予想すると、やはりガイゼル城が決戦の地でしょう」


「確かにそうじゃな。魔族たちの最後の砦と言っても間違いはないじゃろう」


「では作戦通りに進めてまいります、他に何か意見がある方は?」

 

「……」


「では今日の会議はここまでで……」


「うむ」



全ての作戦が上手くいき、練りに練った最後の戦いの戦略に今更意見する者はいなかった。

貴族や有力者たちの頭の中は、戦後の領地に魔法結晶採掘権などの利権の事ばかりだった。

そういった、くだらない考えが見え透いて感じていたモザン教官は会議が終わり早々に立ち去った。

モザン教官は訓練場に着くと、いつものようにスパードとオルトが模擬戦をしているのを見ていた。

 

「いい加減本気を出したらどうだ! お前の実力はそんな物じゃないだろ!」


「ツッ、いてー、本気だって」


俺はスパードの雷撃をギリギリで躱す。

しかし、接近されたオルトはそのままスパードの斬撃を食らい防御壁が破れ負けた。

あっけない勝負に納得がいかないスパードは声を荒げていたが、モザン教官が止めに入る。


「はいはい、勝負ありだ。スパード落ち着け」


「しかしモザン教官、オルトは明らかに手を抜いています! あの春水と戦って生き延びた者の実力ではないと思います。数ヵ月前なら僕だってこんな……」


「スパード。模擬戦で熱くなるなよ、それに勝ったのはお前だぞ」


スパードの声を遮るように俺はなだめたが、スパードは俺を睨みつけるだけだった。

あれから数ヵ月立った、模擬戦ではスパードとフィオナに俺が勝った事は一度も無かった。

スパードの言うように、やる気がないと言われて否定は出来ないが俺にも言い分がある。

まず新兵として給料分は働くつもりだったが、精鋭部隊の選定に巻き込まれている事なんて知らなかった訳だ。

それに聖霊都市内の情報をあらかた調べたが、勇者の情報はほとんど教会と軍の上層が持っている事が分かった。

つまり、俺がもう軍にいる理由は生活費以外では何もないのだ。


「あー、もういい。今日は解散だ。オルト、お前は残れ」


「……分かりました」


俺は少し面倒そうに返事をして残った。

二人が遠く離れていくのを確認した後モザン教官は話し出した。


「この左手が義手の理由は知っているか?」


「かっこいいから?」


「ファッションでつけんわ! 俺が教官になった理由の一つでもある。昔、魔王幹部の男に切断された、名は春水。お前も知ってるだろ」


俺は教官がいつものように真面目に訓練する様に言ってくると思っていたが違うようだった。

モザン教官は俺の瞳孔が一瞬開いたのを見逃さなかった。

 

「目の色が変わったな、この話聞きたいか?」


「いえ、興味ないですよ。他に用がないなら帰っていいですか?」


「まあまて、勇者についてならどうだ?」


「……」


一瞬何故勇者の情報を提示してきたのかと考えたが、俺が勇者の情報を探している所をフィオナに見られたのを思い出した。

まあ、なんにせよ俺がその情報が欲しい事実は変わらない。ただ、軍上層の機密を新兵に教えてくれるほど甘くはない気がするが……

するとモザン教官はさらに続けた。

 

「5分間だ……本気で俺に打ち込んで1本取れたら俺が知る限りの情報を教えよう」


「機密でも?」


「もちろんだ。俺は春水から生き延びたお前をかっている、今は少しだけ強い新兵程度だとお前を見てはいない」


モザン教官の目は本気だった。

俺は一瞬考えたが結論は変わらなかった。無言で剣を構え、その姿勢にモザン教官も剣を構える。


「さあ来い!」


「はあー!」


俺は強く地面を蹴り込み一直線にモザン教官に切りかかる。

首に足、腕と一撃を食らわせる為に剣を振るうが全て弾かれた。

それでも、数十の斬撃を連続で繰り出す事をやめない。

モザン教官の剣裁きは、片手が義手とは到底思えないほどの技術だった。

 

「加減していては時間切れになるぞオルト!」


「ツッ……」


俺はスパードとフィオナと戦ってる様に手加減はしていない。

安物の剣に込めれる魔力量は限られてる。既に斬撃を繰り出し始めた時から、この剣に乗せられる限界の魔力量を乗せている。

通常の戦いであれば魔力を温存する必要があるが、今は違う。

5分以内に1本か……ならやるしかないか……

俺は剣の許容量を超える魔力を乗せて切りかかった。


「これなら……」


「……あと3分だ」


力押しの勝負なら何とかなると思ったが、どうやら剣の方の限界が来たようだった。

俺の剣は俺の魔力量に耐えられず悲鳴を上げている。剣を覆うように魔力のオーラが溢れ出す。

斬撃を交わすごとに、剣が少しずつ欠けてきた。

俺は斬撃の速度を更に上げ、意地でも1本を取りに更に踏み込む。


「……」


「……あと2分」


ダメだ、おかしい。

さっきからまるでユキ姉と戦ってるような……

そうか! 俺の斬撃に対して同じ魔力量を乗せて相殺しているのか。

普通ならいくら守りに徹しているからといって剣が耐えられる斬撃数じゃない。

それに動きもおかしい、まるで俺の動きを全て読んでいるかの様で擦りもしない。

モザン教官が守りに徹している以上、一部魔装して剣を受ける捨て身の技も使えない

安物の剣も限界が来ている。剣を創造してもいいが、連撃を重ねたところで5分は越えてしまう。

 

「モザン教官、あんた間違いなく春水より強い」


「そうかい、あと1分!」


モザン教官の義手が青く光り出す。

俺の見たところ何らかの魔法をあの義手に仕込んでいる事は間違いないだろう。

しかし分かったところで今更力押しでは遅い……


「あと30秒……」


義手を狙うか……いやそれは安易すぎる。なら、この一瞬に……


「これでえええええ!!!」


「甘い!」


俺はモザン教官の義手を狙い、魔力を爆発させるように剣に込めた。

剣と剣がぶつかる衝撃が起爆剤となり一瞬で剣が蛍光灯を割ったかのように、粉々に散った。

モザン教官は義手を狙った俺の単調な攻撃を完全に防ぎ切った。


「……0だ」


モザン教官が呟く0.1秒前にピキッとガラスにヒビが入る音が響く。


「ギリギリってところか……」


モザン教官の足元に黒い小剣が地面に刺さっていた。

結界に弾かれたという事は実践なら間違いなく一太刀入った事になる。

俺は息を整えてモザン教官を見た。

 

「最後の斬撃を囮に……いいだろう、俺の負けだ。歳は取りたくないものだ……」


モザン教官は少し微笑みながら言った。

 

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