50話 盤上のシンデレラ7

「なあ、どこに行くんだ?」


「モザン教官のいる所よ、3人揃わないと訓練結果を教えて貰えないの」


フィオナはどうやら訓練の結果が気になるらしい。俺は正直結果には興味なかったが渋々ついていく事になった。

座学でいつも使用する部屋に着くと、モザン教官とスパードがいた。


「よし、3人揃ったな。それじゃあ訓練の結果を発表する」


俺たちは黙ってモザン教官の話を聞いた。


「うちの隊は2位だ。それと2つの部隊が解散で残り4部隊となる。まあ悪くない成績だったな」


「モザン教官! 僕たちが緊急で応援を呼んだから2位なのですか?」


「いや、違う。点数の結果だ」


スパードとフィオナは驚いた表情をしていた。俺たちは3人で魔人のドラゴンを狩ったというのに、1位じゃないというのが引っかかったのだろう。

モザン教官は淡々と今回の訓練の説明をした。


「今回の訓練の目的は、団結力を見るものだ。隊の実力差は多少あるが、条件は同じだ……」


モザン教官が言うには、それぞれの隊にはバラバラの価値観、個人の戦力差、未経験の新人を混ぜたもので、亀裂が発生しやすい構成だったらしい。

魔界という危険な場所で、目的の為にある程度の団結し行動を取っているかを評価していたらしい。

そして狩った魔獣の質と速さの総合点で判断されたのだ。


「魔人に襲われた時に、オルト一人に時間稼ぎを任せた事が理由ですか?」


フィオナも気になるのか自分の落ち度を探し、教官に聞いた。


「違う、その時のお前たちの判断は正しい。シンプルに1位の隊は中型の魔獣を多く狩っていた。それだけだ」

 

「つまり、この訓練の本質に気づいた奴がいたって事か……」


俺たち以外にも同じ様に魔法結晶を置いて範囲外の魔獣を狩った奴らがいたという事だ。

モザン教官はチラっと俺の方を見たあと咳払いをした。


「結果発表は以上だ。明日より通常の訓練を続ける。解散」


モザン教官は部屋を出て行った。

俺もそのまま外に出て久しぶりの昼間の休みをまったりしようと思っていた。

そんな気分でいる俺の背後からフィオナが話しかけてきた。


「ちょっと、待ちなさいよ」


「なんだ? 俺はこれからゆっくりしたいんだが……」


「2日も寝てたでしょ」


「よく寝る子なんだ」

 

「聞きたい事があるの……いえ、その前に、お礼が先ね。あの時私たちの為に戦ってくれて、ありがとう」


フィオナはペコリと頭を下げた。

俺はフィオナの意外な反応に少し驚いた。

すると、後ろで座ったままのスパードが割って入るように口を開いた。


「僕は下層の奴に助けられたとは思っていないからな」


「別に俺は何とも思っていないが……」


「それに僕の大切な剣がヒビだらけだし、どんな戦いをしたらああなるんだか。」


上層のバカは少しでも上から物を言いたがる節があるのか……

まあ、あの状況だと俺に助けられたと感じているんだろう。

俺は少し呆れながらも、武器の弁償を要求されたら困るので反論した。


「安い武具屋で買うからそうなる。次はもっと上質な物を携帯しておくんだな」


「あの剣は僕の家の家宝でもある名剣だ! それに、お前が言うな! あー、下層の奴と話していると頭が痛くなってきた。僕は先に帰る」


俺の反応にスパードは疲れたのか苦虫を噛んだような顔をして部屋を後にした。

俺とスパードのくだらないやり取りを見て、フィオナが俺に聞いてきた。


「こんな事言うのもおかしいけど、あの魔人春水と戦ってどうやって生き延びれたの?」


「そういえば二人ともあの魔人を知ってるような口ぶりだったな」


「当たり前よ。魔族幹部の春水と言ったら魔王の次に強いと言われている魔人よ」


「あいつ、そんなに凄い奴だったのか……」

 

俺は二人の考えていた事がやっとわかった。

あの場面で二人は死を意識していたのだろう。俺は初めて会ったし知らないから恐怖心は無かった。ただ、戦って謎めいた強さを感じたのは確かだ。

二人から見て、あの状況で一対一、模擬戦での俺の実力を考えれば死んでいるのが普通か……

しかし、俺は生き延びた事に理由を見つける事は出来なかった。


「運がよかったんだろ……それ以外考えられないし……」


「オルト、あなた……」


「過ぎた事だろ、俺は先に帰る」


俺はフィオナを置いて部屋を後にした。

それから俺は、軍の図書館、資料室というのか軍の者しか立ち入る事の出来ない場所で情報を集めていた。


「勇者に関する物は……」


俺は、本棚から数冊引き抜いて軽く飛ばし読みをした。

異世界から能力者を呼び出す為の魔法陣、複合魔法、異物、彫刻、アーティファクト? 

ダメだ、たいした情報は書いてない。

どうやったら元の世界に戻れるのか、過去のに召喚された者は死んでるか、突然姿を消しているかしか書いてない。

それに召喚の書は教会が持っているらしい、いや、本の所在はどうでもいいか……


「勇者について探し物?」


俺は集中していたのか、気配に一切気づかなかった為に少し驚いて後ろを見た。


「ぷっ、何? そんな驚いた顔して」


「なんだ、フィオナか……」


フィオナは俺の驚いた顔を見て笑っていた。


「それで、まだ何か用なのか?」


「別にあなたに用がある訳じゃないわ、でも探している物は同じ? かも……」


フィオナは俺が調べている本を指さした。

どうやら勇者、異世界から来た者に興味があるのだろう。


「ねえ、何で勇者、異世界について調べてるの?」


「俺は新兵だからな、勇者を召喚した歴史を学んでおかないと思ってな……」


俺は適当にそれっぽい事を話す。

この聖霊都市は異世界から来た者のおかげで、今では魔族を圧倒し勝利を目前にする所まで来ている。

魔法陣の概念や戦術、あらゆる知識が勇者のおかげで発展した事が大きい。

新兵がそれを学ぼうとすることに何の疑問も持たないだろう。

正直に俺が異世界から来た事。元の世界に帰る方法を調べている事を言ってもいいのだが、説明も面倒だしやめた。


「意外ね、あなた真面目そうに見えなかったから」


「馬鹿にしに来たのか?」


「違うけど、そう聞こえてもしょうがないわね。私は勇者ファイムについて少し調べに来たの」


「ファイム? ああ、別の隊の奴か……」


俺はモザン教官が言っていた結果の事を思い出した。

モザン教官は俺たちの順位だけを教えてどの隊が優れた結果を残したかは教えてくれなかった。

フィオナは1位が勇者であるファイムの隊だと予想しているのだろう。


「オルトは勇者ファイムに興味ないの?」


「俺はホモじゃないから興味ないな、どうせいけ好かない野郎だろ」


「すごい偏見ね、一応現役の勇者なのに興味ないのね、あなたの勉強の仕方がよくわからないわ……それに恐らく訓練の1位の隊よ」


フィオナはそう言ってファイムの資料の入ったファイルを俺に渡してきた。


「勇者ファイム、2年前に召喚。炎の魔法を得意とする……なるほどね、クソ勇者だな」


資料には、教会で召喚されて魔法が使える優秀な勇者は手厚く歓迎され上層で生活しているらしい。

城落としの実績もあり聖霊都市の英雄か......

俺はコイツの生ぬるい異世界生活に少しイラついた。


「クソ勇者って、魔族みたいな事言うのね、あ、もしかして1位取れなかった事オルトも悔しかったのね」


「いや、全然悔しくないが……」


「まあ、いいわ。私オルトの事少し勘違いしていたかもしれないわ。これからも精鋭部隊の訓練頑張りましょうね!」


「あ~、うん」


フィオナは少し微笑みながら俺の手を握ってきた。

何か少し勘違いされた気がするが……

フィオナから見たら俺が真面目に1位を取れなかった悔しさと自分の知識の無さをカバーする為に努力してる様に写ったのだろうか。

正直、精鋭部隊? とか俺は興味が無いしどうでもいいが、言える訳が無かった。


「それじゃあ、私も調べものを探すわ。何か分からない事があったら気軽に聞いてね」


そう言ってフィオナは気分が良さそうに資料を探しに行った。 

その日は時間いっぱいまで情報収集に明け暮れ翌日からいつも通り訓練が始まった。

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